ラブラとの契約
本日2回目の投稿です
そこは熱帯地域の花が咲き乱れ、室内なのに青空が広がっていた。
「鳥が飛んでる!」
私は楽しくて室内を見て回ろうとしたら、ブルーノに睨まれた。
「メイベルはこんな事くらいではしゃいだり驚いたりしないよ。冷静になろうよ、クロ」
パシャリと言われて、私は椅子に戻る。
「緊張して座らない!もっと堂々と余裕があるように」
と言われて、オッドマンに脚を組んで乗せる。
そして、ソファーには深く腰掛け、肘掛けに両手をかけた。
「メイベルより態度が横暴だけど、大目に見とくよ。基本的には挨拶の後から、俺の言葉のみに相槌をうってほしい」
「わかったわ」
私が想像したメイベルは、関心のない事に全く興味を示さないマイペースな女性だ。
今からそれを演じようと努力しなきゃ。
ボロが出ないように、最低限しか喋らないでおこう。
私は注文した甘ったるいジュースをゆっくり飲む。
トロピカルジュースみたいな味がする。
甘くて美味しい……。
そう思って一瞬目を閉じた。
◇◇◇
……広い草原の中に、複数の人が立っている……
映画の撮影中だ。
「メイベルこのセリフを言う時の声のトーンに気をつけなさい」
監督の指示を受けて台本をもう一度見る。
「わかりました」
私の返事を聞いて監督が頷く。
「この映画が当たれば君も大スターの仲間入りだよ、メイベル。12歳でスターの仲間入りが出来るんだぞ」
「ありがとうございます。アダムス監督」
そう言って微笑んで見せたら、その場の大人達の雰囲気が和んだ。
「じゃあ、緊張をほぐすためにそこにあるジュースでも飲みなさい」
監督の言葉になんだか嬉しくなった。
そしてジュースを手に取って一口飲んだ。
「あまーい」
私を見て、みんなが笑った……。
◇◇◇
「メイベル。メイベル!」
そう呼ぶ声にハッとする。
……今のはメイベルの記憶?
12歳って言ってた。
そんなうちから映画に出ていたんだ。
私がメイベルの記憶を見ている間に、目の前にはいつの間にかすごくお洒落な中年の女性がが座っていた。
ラブラだ。
ラブラはニコニコと私を見ている。
「メイベル本当に久しぶりね。こちらから連絡しても返事を返してくれないから寂しかったわ」
ラブラはこちらの出方を見ているようだった。
「そう」
私は脚を組み替えてそっけなく返事をする。
「ところで……こちらの素敵な紳士を紹介して頂けない?」
ラブラは私の横に座っている美しい男性に興味津々だ。
「こちらはブルーノ。今日はちょっとしたお遊びについての話よ」
私は抑揚のない声で言った。
本当のことを言うなら、棒読みで、緊張で笑顔すら作れなかっただけ。
するとブルーノはラブラを見て人好きのする笑顔を浮かべた。
「私はブルーノ・ヘイスティングス。メイベルの代理人です。今日お呼びだてしたのは、メイベルがパーティーを主催したいと言っておりまして。これはメイベルのノブレス・オブリージュに絡む事なんです。メイベルは、セレブの義務ではなく、金持ちの道楽だと思っているようでしてやるならゴージャスにしたいと」
「メイベルがノブレス・オブリージュのパーティー!」
ラブラは目を輝かせてこちらを見たが私は口をへの字に閉じたままだ。
そうしないと、涼木鈴として営業時代に培った営業スマイルを浮かべそうになるからだ。
「引退してから、パパラッチに盗撮される事はあっても表舞台にわざわざ出てこなかったメイベルが主催するわけですから。私の言いたい事はおわかりですね?メイベルは今後も自分の主催するパーティーのしか出席しませんし、仕事も一切受けません」
その言葉にラブラはがっかりしたようだがそこは隠している。
「もちろん、プライベートも晒すつもりはありません。今、貴方は自分にメリットが無いと思いましたね?メイベルは、パーティーのコンセプトや会場選び、招待客全て貴方がチーフとなって進めて欲しいと思っています」
ラブラの雰囲気が心なしか変わった。
「そう。貴方が決めたコンセプトで、招待客も決めれる。それが意味する事はわかりますね?貴方はこれから先のコネクションを作る場を自分で設けられるのです。いかがですか?ここで返事を貰えないなら、この後のアポイント客にお願いするまでです」
「その話お受けするわ!」
ラブラは即答した。
ブルーノはにっこり笑うと手を擦り合わせ、右手の掌を左手で摘むような仕草をした。
すると手が光り、そこから紙が出てきた。
「ここには2枚の書類があります。お読み頂き、意義が無ければサインを」
こんな書類いつ用意したんだろう……。
ちょっと驚いてしまったが、それもなんとか押し殺して無言を貫く。
「この書類メイベルの名前が一つも無いわ」
書類を読んでいたラブラが不満を言った。
「これはメイベルのノブレス・オブリージュ。それは間違いありません。しかし、計画段階では名前を出して欲しくないと言うのがメイベルの意向です。ご理解頂けますか?」
「わかったわ、サインする」
ラブラが何か呪文を言いながらどこからともなく出てきた羽ペンでサインをした。
するとラブラの署名か浮かび上がった!
名前と契約文言が渦を巻いてもう一度紙に戻った。
すると文字は金色に光り、書類がまるでコピーしたように2枚になった。
魔法を使った契約って、初めて目の当たりにしたけど本当にマジックみたい。
「こちらは貴方の控え。そして、これが私の連絡先です」
ブルーノはそう言って胸ポケットから名刺を出した。
それは何も書いていない紙だったが、ラブラが受け取ると、赤いラメの文字が浮かび上がった。
『エトホーフト魔道具研究所 所長 ブルーノ・ヘイスティングス』
ラブラはその文字を見て驚いていた。
「エトホーフト魔道具研究所って今、魔道具の開発率ナワバーワンの研究所! 王立魔道具研究所と肩を並べるくらいすごいところ」
そういってブルーノを見た。
「まさか所長がこんなに若くて、私が今売出し中の新人俳優よりも美しい。しかもその長い脚! そして所長になるくらいの頭脳。この仕事を受けて良かったわ! 私を指名してもらったからには絶対に後悔はさせないわ」
そう言ってラブラは立ち上がった。
「すぐに企画書を作って持って来るわ。それじゃあね、会えて良かったわ」
ラブラはそう言うと部屋から出て行った。
「交渉はうまく行った。でも、ラブラはもしもに備えてパパラッチを待機させている可能性は拭えない。念には念を入れて、行動しよう。メガネについてはバレたくないだろうからこの薬を飲んで。これは60歳になる薬。服はセカンドクローゼットに1番大人しくて古めかしい服を依頼して」
言われた通りに薬を飲み、おとなしい服に変える。
その間にブルーノも魔法薬を飲んで、指を鳴らす。
するとブルーノは白髪頭で普段見るブルーノと同じ、ジャケットにパンツ姿の男性になった。
「これで、パパラッチにはマークされないよ。メイベルが変装して出てくるとおもっているだろうから、若い女性が乗っている馬車、または中の様子が全く見えない馬車はマークされる可能性がある。だからあえて馬車の中が見える状態で移動しよう」
ブルーノはそう言って馬車に乗った後、窓枠を触った。
すると中が見えないようにスモークがかかっていたのに、クリアになった。
それからレストランの停車場を出発する。
「ラブラのようなタイプはどうにかしてメイベルを表舞台に引き戻したいから、ナリフリ構わないと思ったけど、やっぱりだね。かなりの数のパパラッチが潜んでいるよ」
確かにレストランの出入り口付近にあるカフェだけが大盛況だった。
馬車が出入りする度になんだかザワザワしている。
あれがパパラッチ!
「思った通りだった。明らかに高齢に見える私達には見向きもしない」
そう言ってブルーノは笑った。
「ラブラが書いた契約書はいつの間に用意したの?」
私は先程疑問に思っていたことを聞いた。
「あれは、魔道具の開発に携わる時や、被験者になる時の機密事項の誓約書だよ。元々持ち歩いている。内容としては今から知り得る事項を口外しない事、こちらに損失を与えない事などが書かれている。だから、ラブラのために用意したわけではないよ」
そう言って笑った顔は、いい歳を重ねた男性の物で、なんだか微笑ましく思った。
「この魔法薬の効き目は3時間。その間、ラボには戻れないから、美術館でも行ってみるか?」
「行きたい!」
そうして2人で美術鑑賞をした。
高齢者夫婦が美術鑑賞をしているように見えるだろう。
なんだか、穏やかで楽しい時間が過ごせた。
将来、こんなふうに歳を取りたいな……