曖昧な記憶
新作始めました!
なんとか頑張ってお話を進めていきますので、最後までお付き合いください。
目が覚めるとソコは真っ暗な場所だった。
何一つ光がない暗闇など見た事がなかった。
こんなに暗いことなんて経験した事がない。
…本当の真っ暗闇……。
ここはどこ??
手当たり次第で左右に手を伸ばそうとするが、すぐに壁に手が当たった。想像以上に狭い空間だ。
起きあがろうとすると、数センチで何かに頭をぶつけた。
押し入れみたいな狭い空間なのかしら?
嫌。押入れなんか比べ物にならない暗い狭くて真っ暗な空間にいる!ここはどこ?
目が覚める前までの記憶が曖昧でわからない…。
「ここから出して!」
そう言って鼻先より10センチくらい前にある壁を勢いよく叩いたが、、なんの変化も起きないし、この壁の向こうに誰かがいるようにも思えない。
「どうなっているのよ!」
私は独り言を呟くと、何度も壁を叩く!
バン!という爆発音がしたが、それと同時に扉が開いたかのように目の前が急に開けて、外が見える。
外に見えるのは都会特有の、遠くが明るい夜空だ。
起きあがろうとするけど、なんだか貧血っぽくて気持ちが悪くて、意識が朦朧とする。
どれくらい時間をかけたのかわからないけれど、なんとか起き上がり、周りを見た。
ここは…公園?
いや違う。廃材置き場のような所だ。
公園に見える所は単なる空き地だろう。
私はフラフラと歩き出す。
確か……私は……
先輩と飲んでたはず。
どこの居酒屋だっけ?何軒回ったっけ?
もうわからない。
とりあえず、家に帰ろう。この気持ちが悪いのは飲み過ぎだ。
フラフラと道路に出て、タクシーを止める。
タクシー?馬が見える。
私、どんだけお酒飲んだんだろう。笑えてくる。
「家まで……帰りたいんだけど……」
するとタクシーの運転手は、
「家だね。あんたの家なら知ってるよ」
と言って乗せてくれた。
仕事の接待の後はよくタクシーで家に帰るから、もしかしたら最近乗ったタクシーなのかもしれない。
地方都市だもの。
夜中に走っている流しのタクシーはそう多くない。
この時は深くは考えなかった。
外をしばらく見ていたけど、気持ち悪さで目を閉じる。
どれくらい時間が経っただろうか。
「ほら、ついたよ」
と声をかけられた。
運賃がいくらだったのか、ちゃんと払ったかすら意識が朦朧としてわからない。
私はフラフラとドアに近づく。
あれ?こんなドアだっけ?と思っていると開いた。
「お帰りなさいませ」
と声をかけられた。
見ると、ベルボーイが立っている。
あれ?出張でホテルに泊まってるんだっけ?しかもビジネスホテルではないホテルに……。
あー頭痛くて何もわかんない。
「お部屋まで案内しますか?」
「はい」
と返事をして、ベルボーイについて行くと、豪華な部屋に着いた。
頭痛いし、眠いし……。
パジャマに着替えよう……パジャマに……。
とベッドに倒れ込んですぐに深い眠りに落ちた。
「いつまで寝てるのよ」
耳元で囁く声がする。
うるさいし、眩しい!
目を開けると、私を覗き込む透明な羽の生えた可愛らしい妖精がいた。
「うわあああ!私まだ夢の中なの?なんで妖精がいるのよ」
って部屋を見て気がついた。
「ここ……どこ?」
ベッドから見えるのは、まるで貴族のお屋敷のような豪華な部屋だ。
壁には、大きなモダンアートの油絵が飾ってあり、広い部屋の真ん中にはお洒落なソファーとテーブルが置いてある。
大理石のような床には、豪華なラグが敷かれていて、そんな部屋に自分が寝ているのが場違いだ。
カーテンの隙間からは日差しが見えて少し眩しい。
喉乾いた。
何か飲もうかな?と思ったら、またあの妖精が目の前に来た。
「ねぇ、無視しないでよ」
そう私の目を見て怒っている。
「あわわわ。まだ夢の中なのかな?妖精がいる!可愛い!」
私は妖精を触ろうとするが手をすり抜けて触れない。
「……あなた、メイベルじゃないわね?あなた…誰?」
小さな妖精が言う。
「私は、涼木鈴。あなたは?」
本当ファンタジーの世界でワクワクする。こんな夢、私も見れるんだ。
いつも、電車に乗り遅れる夢とか。学生時代に赤点取った夢とか、そんな夢しか見ない。
「スズキスズ。何その名前?変なの。ねぇ、スズキスズ。メイベルをどこにやったの?って、発音しずらいわね」
何を言っているのか分からずに首を傾げる。
「あんた、私の言っている意味わかっているの?ねぇ、メイベルの体から出て行きなさいよ!」
妖精は私の腕を叩く。何で叩かれるのに触れないのかなあ?
やっぱり夢だから?
そして妖精は私の体に飛び込んだ。
なんだかお腹の辺りがくすぐったい。
しばらくすると、妖精はまたどこかから出てきた。
「嘘。嘘でしょ?メイベルが死にかけていたなんて。スズキスズがいないと完全に死んでたんだ。あなたがメイベルの体に入ってくれたお陰で、何とか一命を取り留めたのね」
私はなんの事だかわからない。
「ねぇ、スズキスズはどこから来たの?」
「私?私はA市」
田舎者だから、へへへと笑った。
「A市?それどこの国?」
「日本だけど」
「ニホン?どこ?地図で教えてよ」
そう言って妖精は指をさした。その方向を見ると本棚がある。
本棚に向かおうと立とうとして、自分の足ではない事に気がついた。
手を見ると、透き通るように白くて、細くて長い指だ。
あれ?
「……ねぇ妖精さん。鏡どこ?自分の顔が見たいの」
「妖精?違うわ、私はゴーストよ。それより、スズキスズ。あなた、メイベルの体に入ってるってやっと気がついたのね。鏡は、あの扉の向こうよ」
立ち上がって言われた扉を開けると、そこには沢山の布がハンガーにかけてあり、大きな鏡が一つ置いてあった。
鏡を覗き込んで驚く。
8頭身の透き通る肌の美人が立っていたのだ!
目は二重でくりっと大きく、紫色。
髪の毛は、光り輝くクリーム色で、胸まである。
鼻筋は通っていて、唇はぽってりとしていて、まるでさくらんぼのように艶があり鮮やかなピンク色だった。
もう女の私でもキスしてみたくなる……。
何?この女神は!
世界的に有名な下着メーカーのモデルも真っ青なスタイルの良さ。そして顔はCGのようにシンメトリーで可愛い!
もう、下着姿で天使の羽を付けてランウェイを歩きたい!
そして投げキスをしたなら、何万人という観客から歓声が上がるんだ……。
なーんて変な想像をしてしまった。
鏡の前でくるっと一回転をしてみる。
生成りのすとんとしたロングドレスがふわりと広がり、お腹の辺りまで見えた。
自分じゃなくなる夢。
いいじゃない?
私はご機嫌で、先ほどの部屋に戻る。えーっと、妖精は日本が何処か教えろと言っていたわね。
本棚を見てびっくりした。
見たことのない文字。
地図がわかるような本を探そうとするけど、見つからない。
「ねぇ妖精さん。地図ってどれ?」
そう聞くと、妖精は隣に来た。
「だから、私はゴースト! スズキスズはノーマルなの?それとも、ギフト?」
そう聞かれたがなんの事だかわからない。
「ノーマルとギフトって何?」
私の質問にゴーストは肩を落とした。
「魔法が使えるか、使えないかよ」
その答えに目を輝かせてしまった!
「魔法?さすが、夢の世界。魔法かぁ。私にも使えるのかな?どうなのかな?」
私の反応を見て、ゴーストは空中で胡座をかいた。
「その反応じゃノーマルね。メイベルはギフトだった。試しに使えるかどうかやってみる?」
「やってみたい!どうすればいいの?」
「例えば、私のように浮いて、あぐらをかく」
ゴーストは自分の足を指差した。
「成程。あぐらをかいてから浮けばいいの?浮いてからあぐらをかくの?」
「お好きなように。ルールなんてないよ」
ゴーストは私の質問が馬鹿らしいとばかりに手を広げた。
私はベッドに戻りあぐらをかく。
そして目を閉じて、念じる。
浮けー。浮けー! 体よ浮けー!!!
思いっきり念じた。
ゴツン!!
頭を天井にぶつけて、痛みで目を開けた。
「めっちゃ痛い!でも浮いてる!ういてるー!!箒が無くても、空飛べるー!!!」
空中ではしゃぐと、ゴーストが横に来た。
「箒って何よ?意味わかんない。スズキスズはノーマルだけど、メイベルの魔力を使えるって事ね」
「そもそも、私のいた世界に魔法は存在しないよ?魔法使いは物語の中の世界。架空のものなの」
私の説明にゴーストはびっくりする。
「なにそれ??じゃあ、ドラゴンが出たらどうするの?」
「ドラゴンもいないもの。人間を襲うのは、肉食動物くらいかな?でも、むしろ数が減って保護しなきゃいけないくらいよ」
ゴーストは考え込む。
「謎の世界ね」
その答えに、私はフフフと笑った。
「ゴースト……幽霊や妖精も、空想上の生き物だよ?『幽霊が見える』って言ったら、面白がって、場合によってはテレビ局が取材に来るわ。そういえばあなた、なんで名前なの?」
「私の本当の名前は私も知らないの。みんなリトルって呼ぶわ。ゴーストに向かって本当の名前を言うと、ゴーストは本来の姿に戻るの。それが、死神だったり、魔物の亡霊だったり、人を喰らう者だったり。本名を呼ばれて姿を現したが最後、呼んだ者はどうなるかわからない」
その説明を聞いてびっくりしてしまった。
「ゴーストって怖いものなの?」
「ゴーストの私が言うのもなんだけど、本名さえ呼ばなければ大丈夫よ。今の会話で思ったんだけど、この世界について説明しないといけないわね」
「説明してくれるなら聞きたい!お願いします先生!」
私は空中で正座をした。
「この世界には、ギフトと呼ばれる魔法使いがいるわ。ギフトは人口の30%くらいね。両親がギフトだから子供もギフトとは限らないし、ノーマルの両親からギフトが産まれることもあるわ」
「???何故?遺伝ではないの?って、遺伝って考え方合ってる?」
「合っているわ。大昔は、ギフトとかノーマルとかそんなのわからずにいたのよ。『手からお水が出る。便利ねー』とか、そんなレベルでね。だからギフトとノーマルのカップルが沢山いたわけ」
「成程。ご先祖様にギフトがいる可能性が誰でもあるから両親関係なくギフトが生まれてくるんだ」
「そうなの。ギフトだったとしても、能力も千差万別。ノーマルの方が得意な分野だってある」
「例えば?ノーマルが得意なのは何?」
「そうね、理論立てて考える事とかは、ノーマルの方が格段に能力が高いわ。学校で習うんだけど、ギフトは感覚的にできちゃうから考えないっていわれてる」
リトルは本を指差してそう言った。
「へえー。うーん、例えば、かけっこが遅い人は、何故遅いかを考えるけど、速い人は何故自分が早いのかは考えない。そんな感じ?」
「まぁ、そうかな。だからお互いに尊重しあって生きてるのよ」
「ノーマルが成し遂げた事とかってあるの?」
「そうねー。例えば、夜にライトが灯り、街が明るいのはノーマルのおかげ。ノーマルがライトを開発してくれたから、松明に火を灯すなんてしなくて良くなった」
「じゃあ、ギフトが成し遂げた事は?」
「魔族から世界を守る。魔族と不可侵条約を結んだから、大丈夫なの。これはギフトが成し遂げた事ね」
「へえ!すごい」
「そしたら、共同開発とかしたものってある?」
「沢山ありすぎてわからないわ」
リトルは部屋の中を飛び回った。
「ねぇ、スズキスズの事、教えて。なんでメイベルの体にいるの?」
「なんでメイベルの体に入ってあるのか?それは私にもわからない。私の最後の記憶は、会社の先輩と飲みに行って、お酒をすっごい飲んで、何軒かハシゴした事までは覚えているのよ」
「スズキスズは、お酒を飲んで記憶を無くしたのね。じゃあ、これまでの生活について教えてよ」
お酒を飲んで記憶を無くしたとズバッと言われて落ち込んだ。
「私は28歳の普通の会社員。趣味はこれといって無いけど、それなりに生活していたよ」
「ふーん。この世界に来たって事は、多分、スズキスズは死んでるよ。そこの記憶はないの?」
「えっ?私死んだの?」
「だって、異世界から来たんでしょ?それしか考えられないよ。異世界から来た魂が、死にかけていたメイベルの体に入ったの。そのおかげでメイベルは死なずに済んだけど、メイベルの意識が戻るかは微妙ね」