分裂
マリリたちに弓などを教えた翌日、ミロクに呼び出された。
宿屋のほうに行くとミロクの隣に男がたっている。無愛想な顔で男はこちらを睨んでいた。ミロクはもう少し愛想よくしたらとかいっているが男はこれが素だという。
「誰や?」
「仲間になるやつだ。ボクシングのといえばわかるか?」
「ボクシング……。確かにテレビで見たことあるね。城崎 健介だっけ」
「そうだ。プレイヤーネームはナックル。不死鳥の羽に入れる」
ボクシングか。
「……女がいるじゃねえか。戦えんのか?」
と、ナックルは私たちを見据えるとそう鼻で笑った。
こいつも女が嫌いなのだろうか。なめられたものだ。だがしかし、安い挑発だというのは目に見えてるのでわざわざ乗っかってやる必要もない。
「実力は確かだ。二人はうちのメインの戦力となってる」
「そうなのか。それは失礼をした」
「なんっかいちいちムカつく奴やなぁ……」
キャトラは怒りを顔にあらわにしている。
私は別に気にしてはいないのだが。こういう無礼な奴はどこ探してもいるだろうし仕方ないと割り切ればいい。
「だが解せない。女が嫌いなミロク様がなぜ女をチームに入れてる?」
「こいつらは信用たりえる女性だからだ」
「信用、ねぇ」
ナックルは私たちを値踏みするかのようにじっくりと見る。
そして、ナックルはフラッと私たちに近づいてくると、私めがけて殴りかかってきた。私は腰に差している刀の鞘でナックルの拳をガードした。
すると今度はガードを崩そうとしているのか強い連撃が襲い掛かってきたのだった。私は何とか防いではいるが……。
「何するんやナックル! ミロク! うちはこんなやつ入れるの反対やで!」
「キャトラ……。その、俺と話している時はこんなんじゃなかったんだが」
「見抜けなかったあんたの落ち度やろ! こんな女に乱暴するような奴とは同じギルドにいとうないわ!」
キャトラはミロクに抗議をしている。
私はナックルの相手で大変だというのに。
「好きにしろよ! 俺だってお前らと仲良くするつもりは毛頭ないぜ! 俺だって女は嫌いだからなぁ!」
「……いい加減にしなよ」
「いい加減にしろ」
と、ミロクとリュウの冷たい声音が響く。ナックルは拳を止めていた。
「ナックルさんさ、失礼じゃない? 女が嫌いだからってそんな感情的になるの? 子供じゃないんだから嫌いなら嫌いで割り切って関わらずに過ごせばいいだけなんじゃないの? それなのに排除しようと攻撃しててさ。反撃しないミツネに感謝するべきだね」
「ナックル。俺はこの二人を信用してギルドに入れてるんだ。それをお前が気に食わないからと言って暴力振るってやめさせるのか? それじゃあ以前のお前と変わらないじゃないか。失望しているぞ」
「……すまん」
ナックルは殴るのをやめ、そうつぶやいた。
「謝るのは俺らじゃないだろう」
そういうとナックルは私たちのほうを向く。
キャトラはしかめっ面のままだが。
「すまなかったよ」
と、ぶっきらぼうに謝ってくれた。謝罪の気持ちはないんだろうな。
「許さへんわ。そんな気持ちのこもってない謝罪されたって何も解決しないねん」
「私はどちらでも。特に怒ってるわけじゃないからな」
ナックルはしかめっ面になる。
「それほど女に謝るのが屈辱か。馬鹿らしいわ。まだガキやなあんたも」
「ちっ」
「ミロク、うちはこの男と一緒にいとうないわ。しばらく別行動する。独断ですまんな」
「……わかった」
「こいつが誠心誠意謝ってこない限りは帰ってくるつもりはあらへんからな」
「わかった……。すまなかった」
「気にせんでええよ」
そういってキャトラは宿の部屋から出ていく。
「私も別行動にしよう。女が嫌いなんだろう? 入ったばかりだから少しは気持ちを落ち着かせるべきだ」
「ミツネまで……」
「私は怒ってはいないぞ。ナックルが女嫌いなんだろう? ナックルから頼んでくるなら戻ってもいいさ。悠長に待ってるとしよう」
私はキャトラの後を追うように出て行った。




