宝石眠る鉱山に隠れる貴族 ②
公爵家の長男を名乗る男は私たちを奥へ引っ張っていった。
奥に進むと開けたところに出て、あたり一面が宝石によって光っている感じがする。これが全部宝石の鉱脈……?
と、公爵家の長男は腰を下ろす。
「あらためて。俺はエレバートン公爵家の長男、ロキ・エレバートンだ」
「ほう? 聞いたことはあるな。貴族名鑑に名前があった。たしか一か月前から消息不明と噂されていたな」
「そうなんだ。じゃ、俺の父は血眼になって俺を探してることだろうね。ま、俺の話はいい。お前らはどうしてここに? 魔力を感じる限りただの人間というわけでもなさそうだ」
王子は私たちを見定めるかのように笑う。
「神が遣わした人間ってことか? なるほどな。だからこんなにも神聖か。そりゃいい。あんたらならあの町でも忘れないでいられるだろうからな」
「やっぱりお前も被害に……」
「ああ。俺は昔から宝石が好きでね。遠くからこの鉱山を確認した時は心躍って近くまで来たんだ。でも、街で過ごしていると異変が起きた」
異変というのは……。
「護衛が俺のことを忘れたのさ。俺の名前も知らない、どこから来たのかも忘れちゃったと告げ、そのままあの町に住み着くようになった」
「……お前は平気だったのか?」
「俺の父は王弟でね。俺も一応王族の血が入ってるから護られたんだと思う。で、俺はあまりの不気味さに一人で戻ろうとしたがこの街からどういうわけか出られなかった。いずれ俺も忘れてしまうっていうのならこの鉱山の中でひっそりと公爵家の長男であることを忘れて宝石を掘っていたいなんて思ってここに住んでる」
なるほど。ここにいる理由がわかった。
「でもあんたはさっぱり忘れてないようじゃないか」
「そうなんだよな。王族の血が入ってるからって言って悪魔の力が人より効きにくいっていうだけだし俺もなんで忘れてないのかさっぱりだ」
「悪魔の力のこと知っとるんやな」
「俺も一応は勉強しているからな。悪魔は一通り把握している。こんなことができるのは悪魔ノームだろう? 俺も何となくそう思っている」
「忘れない……。もしかしたら宝石の力なのかもな」
宝石の力?
ミロクは近くの壁にある宝石の鉱脈を掘る。するとガーネットが出たといった。
「宝石が……。君が推察してる通りなら俺は宝石に助けられているのか」
「そうかもしれないな。とりあえずガーネットは手に入れた。あとはアウイナイトだけだ」
「アウイナイトか。それなら俺が持ってる。暇だからたまに採掘してるんだ。あげるよ」
と、ロキが手のひらサイズの宝石を手渡してくる。
私が受け取ることにした。
「それで、君たちは今後どうするの? この街で一生過ごすのか、それとも……」
「決まっとるやろがい」
「僕たちは外に出るよ。この街で一生過ごすのなんてまっぴらさ」
「そうだな。俺もそう思う」
私たちはこの街にとどまるつもりはない。
最強への道が閉ざされてしまうだろう。最強を目指すのなら世界を見なくてはならないからな。
こんなところで道草食ってる場合ではない。
「そうか。じゃ、俺も応援する。俺も家に帰らなくちゃならない。婚約者が待ってる」
「わかった。手早く討伐してやろう」
「頼んだ。俺の未来のためにも、よろしくな」
「ああ」
ミロクとロキは握手を交わした。
ロキの目はひどく焦燥しており、隠してはいるがつらかったのだろうと推測できる。一人で不安だったのかもしれないな。
「それじゃ、俺らは行く。倒したら呼びに来るからここでじっとしていることだ」
「ああ、宝石は俺の味方だからね。もし、俺をここから出してくれたら……。公爵家として全力でもてなそう」
「楽しみにしている。帰ったら準備しておくことだ」
私たちは鉱山を後にした。
「……しょうがない。レベル上げが足りないが、挑むとしようか」
「せやね。ま、うちとミツネがおるから安心してええよ」
「信頼している」
気安く信頼できると口にできるあたりミロクは純粋だな。
まぁ、期待された以上やるしかないが。




