◇時計塔管理人の諦観 ②
俺らは苦戦しながらも階段を探し降りていく。
すると、一本道の廊下のようなところに出た。他に分かれ道もなく、歩いていくとデカい鉄扉が見られるだけ。
もしかしなくても最深部……。ボス部屋だろう。
「覚悟はいいな? 今まで戦ってきたやつらとは強さが違うだろう。油断はするな」
俺は鉄扉を開く。
中に入ると勝手に扉が閉まり、そして部屋の明かりがついた。
「ブモォオオオオオオ!」
俺らの目の前にいるのは巨人のような大きさを持つ二足歩行の牛だった。乳牛のような白黒模様で鉄のとげつき棍棒を持っている。
ミノタウロスという魔物だろう。
鼻には鼻輪がついており牛ということを強調されているように思える。
「先手必勝っす!」
シラトリが剣で足を斬りつける。
がろくなダメージにはなっていなかった。棍棒がシラトリめがけて振り下ろされそうになったがリュウが背後から攻撃を加え、ミノタウロスは大きく体勢を崩す。
三人がかりでもきつそうだ。レベルが低いからだろうな……。
「やっぱあいつらがいないと俺らは弱いな」
「そうだね……。僕も身のこなしだけは自信あるけど武器の使い方とかまではねぇ。僕って暗殺スタイルで急所狙うタイプだし」
「俺もミツネさんのような剣術はできねっすわ。剣術と剣道ってやっぱ違うっすからねぇ」
「気にするな。お前ら二人は戦うために入れたわけじゃない。リュウはその軽い身のこなしでいろいろと敵の本拠地に忍び込んでもらう予定だったさ」
「斥候が僕の役割とは聞いてたけどあの二人を見てると嫉妬はしちゃう、ね!」
リュウはナイフで足を切りつける。
ミノタウロスは転び、棍棒を手放した。俺も剣を抜きミノタウロスの目に突き刺す。ミノタウロスは目を押さえ痛がるそぶりを見せた。
そしてシラトリは左胸のあたりに剣を突き刺す。ミノタウロスは大きく暴れたのだった。
「シラトリ! 攻撃をやめるなよ!」
「この暴れようはきついっすよ!? 一撃で決められない分暴れますって!」
「なら一回引っこ抜け! 何度も突き刺せ」
俺らは数で勝負するしかない。
ミツネやキャトラのようにバカでかいダメージを与えることはまず不可能だ。ミツネとキャトラが規格外すぎるのだが。
スカウトしてよかったとはいえ、ちょっと自信はなくすがな。
「ミノタウロスの呼吸が小さくなってきた! もう少し!」
「うらああああ! これでしまいっす!」
「やっぱ苦労するな……」
俺とシラトリの剣がミノタウロスの心臓に突き刺さった。
ミノタウロスはそのまま塵となって消えていく。俺らは刀を引っこ抜きしまった。そして物をドロップしたのでそれを拾うと突然地鳴りがする。
ダンジョンが崩れ去るのだろう。もうこのダンジョンが存在することはなくなった。ボスを倒せば崩壊すると相場が決まっている。
そして、俺らの前に魔法陣が現れる。俺らはその魔法陣の上に乗ると元の世界に転送されるのだった。
俺らは元の世界に放り出され、管理人の頭の上を見ると黒い靄が霧散する。
そして、管理人の目が開いた。
「あれ、私は……」
「おはようだ。気分はどうだ?」
「……大丈夫です。なにか、私は眠っていたような気がします。お話の最中に眠ってしまい申し訳ありません」
管理人は深く頭を下げた。
「それで鍵……でしたっけ。寝てるときに思い出したのですが、鍵は技工士のシュバルツという男が持っています。時計塔の様子がおかしくて数年前に鍵を貸して以降返してもらうのを忘れてしまいまして。面目ない。ですが私より技工士のほうがもっていたほうがいいと思ってまして」
「シュバルツか。そいつの家はどこにあるだろうか」
「待ってください。地図を書きましょう」
そういって管理人は紙を広げ、鉛筆ですらすらっと簡易的な地図を描く。
ここから若干近いな。シュバルツの工房が家を兼ねているということでシュバルツは基本ここにいるということだ。
「ここがシュバルツの工房です」
「ありがとう。感謝する」
「いえ。お役に立てたのなら満足です」
俺はソファから立ち上がり管理人の家を後にした。
「もう夜遅いな。行くとしたら明日だろう」
「そうっすね。俺もログアウトするっす」
「僕もしようかな」
俺らは宿に戻りログアウトすることになったのだった。