◇副町長の恐怖心 ②
階段を下りていくと長い廊下が続いていた。
ボスのお出ましの用やな。うちは廊下を歩いていくとデカい鉄扉が目の前にある。うちは鉄扉を開いて中に入ると鉄扉は勝手にしまった。
そして、部屋の中が一気に明るくなる。
「ぶもっ、ブモォオオオオ!」
「ミノタウロス! 本物や!」
よくあるファンタジーの魔物、ミノタウロス。牛の顔をしたでかい人間が鉄のとげが付いたこん棒を持っていた。
その棍棒で戦うんやろう。うちは距離を取って矢を放っているだけでええ。やったるかぁ! ゲームは楽しまんとなぁ!
うちは弓矢を構え矢を放つ。
矢はミノタウロスの鼻に突き刺さった。
「ブモォオオオオオオ!!」
「おわっと」
ミノタウロスは棍棒を振り下ろす。
地面を割るほどの衝撃でうちが当たったら一撃で死にそうや。防具もまだ弱いままやし一撃でも受けたら終わりやな。
弓はいいもん使っとるとはいえ一撃も当たらずにっちゅうのはきついなぁ。
「しゃあない、スキル使ったるか」
うちは狙いを定める。
狩人に昇格した際スキルをもらった。
「”一矢強化”」
一矢強化っちゅうのは次に放つ矢の威力を二倍するっちゅう効果がある。
別のスキルと重複可能でもう一つの威力底上げスキル剛射と合わさって威力は実質四倍や。狙い補正はうちはいらんからな。
狙いをゆっくり定め急所を狙う。一撃で決めなければうちは殺されるかもしれへん。
「急所っつったら心臓か。なら、左胸のあたりやな」
狙いを定める。
アーチェリーの天才、射撃の天才とはうちのことや。ここで外したら天才の名が泣く。ここで決めなきゃ恥だ。
うちは矢を放った。
矢はまっすぐに心臓めがけて飛んでいく。うちは足元にまた矢を放った。
「躱すのはなしやで」
一矢強化は連発して使えないんや。五発うたんと強化できんようになっとる。だから、躱すなんて以ての外やで。ミノタウロスよ。
うちが放った矢はミノタウロスの左胸に直撃した。
そして、ミノタウロスはそのまま地面に倒れ塵となって消えていく。
「勝ちぃーーーーーー! うちも強いんやなぁー!」
うちは喜びに震えた。
ミツネなら楽勝だったやろうがうちはそうでもないと思ってた。でも、うちだってソロは余裕。自信がついた。
うちは上機嫌のままドロップしたもんを拾う。
ミノタウロスの皮と蹄やった。
「これで副町長の記憶が戻るなぁ。副町長が鍵をもってたら一発で終わるんやが……」
うちがそうぼやくと突然地鳴りが起き、部屋が崩れ始める。
必要がなくなったから崩れるんか! まずい、どうやってでよう。
うちが慌てふためいていると目の前に魔法陣が光る。まるでその中へ入れと言わんばかりのように。
「ダメでもともとや! 死んだら南無三!」
うちは魔法陣に飛び込んだ。
気が付くと副町長の家におった。
どうやらうちは元の世界に戻ってきたらしい。よかった。死ぬことはなかったか。
副町長の頭上の靄が霧散し消える。副町長は目を覚ました。
「あ、あれ……私は寝ていたのですか?」
「おはようさん。起きてばかりで悪いんやが時計塔の鍵をもっとらんか?」
「鍵……? 時計塔の鍵は……えっと、私は持っておりませんね」
「そうかぁ。もっとるやつに心当たりとかはおらんか?」
「心当たりなら……。多分時計塔の技工士を務めるシュバルツという男が持っているかと」
シュバルツ。
技工士か。あのリストの中にいたなぁ。
「それより、記憶は大丈夫か? 過去のこと全部思い出したんちゃう?」
「記憶……? そういえば……! 思い出した……!」
「忘れることは怖いわなぁ。ま、ありがとな。うちはそのシュバルツってやつの工房に向かってみるで」
うちは副町長の家を後にした。
ま、今日は夜遅いし行くっちゅうことになったら明日かな。宿に戻ろ。