異世界観光
酒吞童子の魔力には空間に干渉する能力があるらしく、その魔力がキャトラにも流れているために反応したのだとか。
それでログインしたタイミングでこちらの世界に来たと考えるならということらしい。起きたタイミングでログインしたような話ではなかった気がするが……。細かいことはいいだろう。
「酒吞童子とはなんでありましょうか」
「うちのテイムしてるモンスターや! Sランクの魔物やでえ!」
「なんと……」
ムラタは驚いたように軍帽を取る。
「酒吞童子……。日本三大悪妖怪の一人だな。鬼の酒吞童子、九尾狐の玉藻前、天狗になった崇徳天皇。すげえな」
「ちなみに玉藻前もミツネテイムしてるで」
「じゃあ残りは崇徳天皇だな」
いや、コンプリートするつもりはないが。
「そういえば気になったんですけどこの世界であちらの世界の魔物って召喚できるのでしょうか?」
「ああ、それ気になるなぁ。うちやってみるで!」
「なら私もついでにお披露目と行こうか」
私とキャトラは玉藻前と酒吞童子を召喚した。
すると、目の前には妖艶な九本の尻尾を有した女狐に、長身で筋肉質、太刀を懐に携えた鬼が現れた。どうやら召喚はできるようで、二人はきょろきょろと辺りを見渡している。
「なにやら魔力の質が違うの……」
「そうですねぇ」
「ミツネよ、ここはどこじゃ?」
「キャトラ殿。ここはどこなのでしょう」
二人が私たちに尋ねてくる。
「異世界だ」
「なんと! 異世界! 存在するとは昔聞いておりましたが……。ここがその異世界! いいですねぇ、とてもそそられますよ!」
「そうじゃのぅ。妾としてもとても興味深い。呼んでくれたこと感謝するぞ」
「珍しいな。文句言わないなんて」
「そなたが戦い以外で呼ぶからじゃろう! ま、でも楽しいしいいんじゃがな! っと、そっちは見ない顔じゃな? 新入りか?」
「アヴァリティアだ。よろしく頼むぞ玉藻前様」
「礼儀正しいのぅ!」
こいつ意外と目上の人とか尊敬するタイプなのか。
「玉藻前、この国の探検とでも行きましょうか?」
「妾はそなたとだけは絶対に周りたくないぞよ」
「そうですか。ではキャトラ殿。一緒に行ってもらっても?」
「ま、暇やしええやろ」
「ミツネ。妾達も行くぞよ」
「わかった」
私は玉藻前とこの国の観光を始めるために門に向かう。
すると、後ろから急いだ様子の魔法兵団の装束を着た男性がこちらを見ていた。そして、息を切らしながらもこちらに近づく。
「なにやら、強大な魔力を感じたのですがっ……。その魔力はこの狐様のでしょうかっ」
「そうじゃのぅ。わかるかの? 妾は強大なのじゃ」
「……敵ではないのですよね?」
「敵だ」
「嘘をつくんじゃのうて! 妾はこの女狐の味方じゃて」
「冗談だ」
「心臓に悪いであろうこの人間の!」
私はその男を見ると、ほっと一息ついてるのを見てしまった。
「観光に行くつもりだ。この魔物は玉藻前という。この世界にいる間はこちらに滞在させておくから困ったら何か言ってくれ」
「妾を楽しませてくれるんなら協力してもええのぅ」
「はっ」
「じゃ、行ってくるから。玉藻前、行くぞ」
「またのぅ」
私と玉藻前は王城から外に出たのだった。




