新年前
私のヘッドギアが壊れてしまった。
私はヘッドギアを壊した猫を撫でながら自分のヘッドギアの亡骸を見る。
「今電器屋開いてないもんな。年末だしな」
「新年、イベントがあったんやけどなあ」
「まあ任せとけ。取り急ぎ持ってきてもらう」
と、どこかに電話をかけ始める弥勒。
「それよりその猫ちゃんどうするの? 首輪もしてないようだし多分野良だよね?」
「お姉ちゃん、飼おうよ! 世話は私がするから!」
「うむ……」
私が撫でているのに逃げようとする素振りはない。こいつなら別に飼育してもいいか。
私は動物に逃げられるから犬すら撫でたことがない。でもこの猫は意外と図太いようだ。
「まぁ、いいんじゃないか? 私も動物は好きだしな。餌とか首輪とかは後日買いに行こう」
「いいの!? やったぁ!」
「で、名前は何にするんや? 飼うんなら名前いるやんか」
「え、えーと、お姉ちゃんつけていいよ?」
「ん、センスがないからな。楠音の好きなようにつけるといい」
そういうと、楠音は猫を持ち上げる。
「じゃあ、君の名前は今からミソカだ!」
「拾った日が大晦日だからミソカなのかな」
「そうだよ!」
「ミソカか。いい名前じゃないか。で、この猫の品種はなんだ?」
「品種? 品種ってあるの?」
「あるぞ。マンチカン、スコティッシュ、ペルシャとかたくさんある」
「これはメインクーンじゃねえの?」
メインクーンか。悪くない。
「え、ならメイちゃんも良かったかな……?」
「雄雌わからんからメイちゃんはな……」
雄だったらどうするんだ。
「頼んだぞ」
と、弥勒が携帯を閉じる。
「来年の一月に出る最新型のヘッドギアを貰えることになったぞ」
「……未発売?」
「そうだ。製品としては出来上がってるし、あとは広告の準備などの宣伝期間っていう感じでな」
「なんで未発売のにしたのだ? 私は別になんでもいいのだが……」
「その未発売の方が頑丈、且つ容量が多いからだ。リンメアもこれからアプデが来るだろうし、そのアプデのための容量がなくなったら困るからな。それに、そちらの方がラグが少ない」
ラグとはなんだ。絨毯か?
まあ、なんにせよ持ってくるのか。
「着くとしたらちょうど新年を迎える頃になるだろうな。初期設定と引き継ぎは俺がやろう。幽音できないんだろ?」
「頼む」
初期設定とかやり方がよくわからん。私は機械に対してはもうてんでダメだからな……。
でも、新年迎える頃、か。
「……あ、蕎麦ないぞ」
「コンビニなら開いとるやろ。カップ麺でええよ」
「……誰が行く?」
と、私たち5人睨み合う。
「ジャンケンにしようか。いくぞ、最初は……」
と、楠音も何故かジャンケンを。
「楠音、これは誰が買いに行くかだから楠音は参加しなくていいんだぞ」
「そうなの?」
わかってなかったか。
「ま、気を取り直して……じゃーんけーん」
「ありやとうござっしたぁ〜」
コンビニの自動ドアをくぐる。
なぜ私が負けたのだ。私の家でやるのになぜ家主が買いに行かされなくちゃならん。
ジャンケンでも負けるとは本当に今日はついてない……。
「あれ、宗形さん」
「ん? なにしてるんだ商店街の連中」
商店街の連中が集団で歩いていた。
「忘年会よぉ! 家で飲んでた酒無くなっちまってなぁ! ホントは宗形さんも誘おうと思ったんだが、高級車が停まってるもんでよ。誰か来てんだって思ってな」
弥勒たちだな。
「でもこんな辺鄙な街であんな高級車は目立つなあ」
「金持ちの友人いるのかい……。それとも、これかい?」
八百屋のおばさんが小指を立ててくる。
「そんなんじゃないですよ。まあ、ちょっとした友人ですから」
「またまたあ。金持ち捕まえて貢がせようとしてるんじゃなぁい?」
「馬鹿野郎っ、宗形ちゃんに限ってそれはねえだろっ」
「いやいや、24で独り身でしょお? ありえるってぇ」
「いやいやいやっ、宗形ちゃんは真面目だ! そんなことは絶対しねえ!」
するしないで議論が分かれる。
「ま、誰か来てるんならうち寄ってきなよ! 野菜とかあげたれあげたれ」
「魚は無理だなあー! 魚はその日のうちにだからなぁーっ」
と、私は商店街の人たちに連れていかれる。
冬野菜をたくさんもらい、酒屋で酒を……。
「酒屋があるなら別にコンビニで酒買わなくても」
「馬鹿野郎! これはでぇじな商品だぜえっ、こんなやつらにやるわけねーっ」
私にはいいのか?
「いや、私だけってのもアレだから金払うぞ」
「気にするなってんだぜい! 宗形ちゃんはうちの倅に剣道教えてくれてっからなぁ! あいつ飽き性だったのに剣道だけは真面目にやってやんの」
「ああ、練習などは本当に真面目にやっていますが……」
「あれはきっと……あれだな」
と、みんなでニヤニヤしている。
「……さすがに私も鈍くはないのでわかりますが。そんな感情はないですよ?」
「あちゃー! 告白する前にフラれたなぁ!」
「ま、動機はなんにせよ真面目にやるのはいいことですからね。しばらくこのままで」
「鬼だなお前さんも!」
ははは、恋は人を突き動かすからな。しばらくは原動力となるがいい。
あいつはサボり癖凄いらしいからな。
と、たくさん話していると。
ゴォーンという鐘の音がなる。
「あ、友人たち待たせてるんで私行きます!」
「おう! また来年もよろしくな!」
私は酒屋を出て家に走って戻るのだった。




