愛もなければ勇気もない ②
玄関の方に行くと、怒りの表情を浮かべる大人二人と、きっちりスーツを着込んだ男の人。
私の両親と探偵か弁護士だろう。母が私の胸ぐらを掴み壁に押し付ける。
「楠音を返しなさい!」
「いきなり乱暴だな。私は高校卒業までいうことを聞いてやったじゃないか。それなのにまだ不満か」
「黙れ! 楠音はこの奥だな」
父は土足のまま中へ入っていく。
私は母を振り解く。
「入れさせるものか! ここは私の家だ!」
「ちっ」
父は私を睨む。
だがしかし、父は笑う。すると、スーツ姿の男性が私に対して名刺を差し出してきたのだった。
名刺を受け取ると弁護士という肩書きが見える。
「うちの大切な娘を誘拐してくれやがって。この代償は高くつくぜ」
「……そう来たか。楠音を取り戻すためなら何でもするんだな」
私たちの間で終わるならまだしも第三者を巻き込み始めたか。
「いいのかしら。楠音を返さないと……わかるわよね」
「…………」
「あなたは絶対に日の目を見れない犯罪者なのよ? 知らない街だからこそ、呑気に過ごせていたけれど、ねぇ」
汚い……。
素直に楠音を……。いや。
「私は犯罪者だとバレてもいい。楠音だけは……」
「へぇー」
性格悪そうな笑みを浮かべる。
私は犯罪者である。だからどうした。私の周りにはアイツらがいる。それだけでいいじゃないか。
私は、父の通り道を塞ぐ。
「どけ」
「断る! 楠音だけは絶対に渡すものか! 楠音は私と一緒にいることを望んでいる! お前らのような娘を道具としてしか見てない奴らになんか渡すものか」
と、父は私の頬を殴る。
「やめなさい、手を出してしまったら……」
「うるせえ! こいつがどかねえのが悪いんだ! どけよ、オラ!」
何発も顔を殴る。
きつい。顔に何発も入れられて、気を失ってしまいそうだ。男は、やっぱ力が強いな……。
だがしかし、楠音を守れるのは私だけなのだ。私が守らければ……。
すると、母さんは近くにあった私の木刀を手にしていた。
「どけなさい!」
と、木刀を振り下ろしてくる。私は躱すことができず、肩に木刀が当たった。
痛い。だが、いいのか。そんなすぐ暴力に出て。
「おやめなさい! こちらが暴行罪で……」
「うるせえ! 俺はもうカンカンに怒ってんだよ」
と、もう一発殴られそうになる。
だがしかし、その拳は届かない。
「そこまでだぜ。おいおい、パンチがなってねえな」
と、城崎が拳を受け止めていた。
「すごい傷……。よく仮にも自分の娘をこれだけタコ殴りにできるもんやな……。痣残るんちゃう?」
と、ミケが私の顔を見て心配そうな顔をする。
私はミケの手を借りる。さすがに気を失いそうなくらい痛い。私が手を出さなかったのをいいことにこいつらタコ殴りにしやがって……。
「パンチの基本でも教えてやろうか?」
「なんだてめえ……」
「俺か? 俺はプロのボクサーだぜ。ほら、こいよ。殴り合いなら俺の方が得意だ」
城崎は挑発するかのように手招く。
すると、奥から弥勒が歩いてきたのだった。
「証拠も取れたし、こちらから訴えようか。暴行を働いたと」
「…………」
殴ってしまった重大さがわかったらしい。父と母は後ずさる。
「訴えられたくないのなら、親権を幽音に渡してもらおうか。それとも何か? この町で幽音が殺人者だって言いふらすつもりか? ならばこちらも同じ手に出てやるよ。俺は金だけはたくさんあってね。そういうことは容易くできてしまう。ここは賢い判断を頼むよ」
弥勒がいい笑顔だが、心が笑っている気がしない。
「…………」
「お二方、あのお方がいては僕なんて太刀打ちできませんとも……」
「そしてもう一つ。お前本当に弁護士か?」
「えっ」
「弁護士ならバッジがあるはずだろう。見せてみろ」
「え、えっと……」
「ああ、そうだ。勝手に弁護士を名乗るのも犯罪だからな。名刺まできっちり渡したんだ。弁護士会でお前の名前があるかどうかも確かめて……」
「も、もも、申し訳ありませんでした! 私はこのお二人に頼まれて!」
と、弁護士はニセモノらしい。
なんだ。弁護士だと思って殴らずにいたのに。殴ればよかったか。耐えて損した気分だ。
私は口を切ったらしく、鉄の味が口の中に広がっている。
私は血を吐き出す。
「おい、どうするんだ。親権を私によこすか、このまま裁判でも何でも戦うか。選べよ」
「や、やるわよ」
渋い顔で私を睨みつける。
「親権も何でもやるわよ!」
「そうか」
その言葉を聞けて満足だ。
私はそのまま気を失ったのだった。




