地下排水路の戦い ③
身動きができない。
液体の中なら泳げると思っていたが何かが私を押さえつけるかのように重くのしかかっている。私は刀を振り回すこともできていない。
私はこのまま死ぬのだろうか。それは、嫌だ。悔しい。
くそっ、どうすればいい。この身動きできない状況でどうすれば私は生き残れる。
私が考えていた時だった。私の目の前に小さな炎が灯される。炎は水の中でも消えることはなく、徐々に大きくなっていった。
そしてそのときだった。私の目の前がはじけ飛んだ。
「……ほえ?」
私の体は空中に投げ出される。そしてそのまま床に着地した。
「どういうことだ?」
「居場所知らせてくださってありがとうございます。おかげで風の魔法を当てられました」
先ほどのはじけ飛んだ原因はウインドだったらしい。
「キツネの獣人の種族スキルを使ったんだな」
「種族スキル? なんだそれは」
「それも知らずにやってたんか? 種族には固有のスキルがあってやな。うちは暗い場所でも見えるようになる夜目っちゅうスキル、リュウのシーフ族はスティール。そしてキツネの獣人は狐火っちゅうダメージは与えられない幻覚の炎を見せることができるんや」
「狐火を使ってくれたことで場所がわかったんです」
「なるほど。感謝する」
私のスキルのおかげだったか。
「話している暇はないぞ。ウォーターゴーレムはもう虫の息だ。最後の一撃を入れてやろう」
ミロクが会話を途切れさせ私たち全員をウォーターゴーレムに集中させる。
私は刀を構えゴーレムが飛ばしてくる水の玉を切り落とす。一回たりとも二人には当てないように。
「次は簡単に打ち消されないように全魔力を込める! ウインドぉ!」
「ならうちもとっておきの一矢やな」
キャトラは限界まで弦を引き、矢を放つ。
ウインド魔法とかぶさるように矢が飛んでいった。風は水をはじき、そして核があらわになる。核に矢が突き刺さると、核は光りだした。
そして、ボロボロと崩れ始めチリとなって消えていく。
「終わりやな」
「一時はひやひやしたぁ」
リュウはその場に座り込み、ミロクはドロップしたものを確認していた。
私は刀をしまう。そして狐火を出してみる。触ってみても熱くない。本当に幻覚の炎らしく身にまとわせてみても燃えることはなかった。
熱くない炎というのは何とも不思議だ。まさに狐に化かされるということか。
「お、レアドロだ」
「幸運やなー」
「何が落ちたの?」
どうやらレアなものが落ちたらしい。
私は梯子の近くに立ち帰れるように待機していた。
「これはリュウが持っておけ。魔力向上の種は」
「わかった」
「さ、帰ろう。俺は報告してくる」
そういうので私は梯子に手をかける。
梯子を上るとスラムの子供たちが穴の周りをかこっていた。子供たちに敵意はないようで何してるのかを見に来たようだ。
「お姉ちゃんたちなにしてるの」
と、シオンが子供たちの奥から歩いてくる。
「ちょっと排水路の魔物を倒していただけだ」
「お姉ちゃんたちあの魔物倒してくれたの! すごーい」
「えーゆーだ! ゆーしゃさまだ!」
子供たちが英雄だ勇者だと騒ぎ始めた。そんな大層なものじゃない。
「あの魔物倒してくれたんだ。ありがと」
「いい。こちらも依頼としてきたからな。それより通してくれないか?」
「わかった。みんなよけてあげて。帰るそうだから」
シオンが子供たちに命令すると子供たちはすぐに避ける。聞き分けがいい子供だな。
「ミツネお姉ちゃん。またスラムに遊びに来てね」
「ああ。たまに遊びに来てやるさ」
私は四人を連れてスラムから出て行ったのだった。