光芒は希望足りえるか ②
チェシャ猫は透明となり、玉藻前を翻弄する。
「むぅ、もう一発撃つしかあるまい!」
と、力をため始めた。
その瞬間、玉藻前は殴られたような衝撃を受けたようだ。口から思い切り血を吐き出す。
「お、女子のおなかを殴るとは……」
「……」
先ほどまでの気弱な発言もなくなった。
冷静に戦況を分析し戦いに集中しているのだろう。こうなってしまっては玉藻前も苦戦間違いなしだろうに。
玉藻前は血をぬぐう。
「本気じゃのう! お主の本気と戦うのはいつ振りか! 本気ならば妾も本気で行かねばな!」
と、突然玉藻前の顔に赤い隈が浮かび上がる。何かオーラのようなものをまとっており、本気の姿らしい。
玉藻前は目を閉じていた。
「……まずい」
どこからか声が聞こえる。
「魔力探知……」
「そこじゃな」
と、玉藻前は私のほうめがけて突進。そして、思い切りこぶしをふるっていた。当たったようでチェシャ猫のうめきが聞こえる。
壁に当たったのか、壁がへこんだ。
「魔力の扱いなら妾が一番での。気配は消せても姿は残ったままじゃ。この世に存在しうる限り見つけるでの」
「相性が本当に悪いんだよ……」
「ま、とどめといこうかの」
と、玉藻前は何か力をため始めた。
殴られる音が聞こえる。どうやら透明化を解かずに殴っているようだ。それをひたすら耐える玉藻前。
なるほど、これは即死攻撃なのかもしれん。即死攻撃を止めようとして削り切ろうという魂胆だ。
「審判、アングル、全員下がったほうがいい」
「わかりました……」
「観客席の近くにいれば安全だろう」
私はアングルたちに告げる。
玉藻前はどんどん傷がついていく。が、まだ力をためている。削り切れるかどうかの勝負なのだろう。声を殺すことも忘れているのか息を切らす声が聞こえてくる。
「絶対、勝つ!」
チェシャ猫の声だけが聞こえてくる。
「ぐっ……」
と、玉藻前が膝をついた。
まずいな。攻撃を食らいすぎているのかもしれない。見えない相手を相手するというのは難しいのだろう。だから範囲攻撃を……なのだが、それをするには溜めが必要なんだな。
だがしかし、玉藻前は笑う。そして、玉藻前は浮かび上がる。
「あっ……」
「あと何発か殴られておったら負けておったの。本当に妾は瀕死に近い。これでしまいじゃ。強くなったの、チェシャ猫よ」
その瞬間。
浮かび上がった玉藻前を中心とした爆発が広がった。舞台の上に立っていたチェシャ猫はあきらめて姿を現し、爆発を身に受ける。爆発は観客席ぎりぎりまで広がっており、観客も黙ってその爆発を見ていた。
不思議ときれいな爆発だった。ピンク色の……冬に咲く桜のような感じの爆発。なんともきれいで、形容しがたいものだ。
そして、爆発がやむ。舞台もすっかり壊れてしまい、地面がえぐれていた。
そのえぐれている地面の真ん中で、チェシャ猫が目を閉じて寝転がっている。
「桜とともに有終の美を飾るがよい」
玉藻前が地面に降り立つ。
『な、なんと美しい爆発! 誰もが見惚れてしまうほど綺麗でした! 美しくも、驚異的! さすがにチェシャ猫は耐えきれません! 勝者、玉藻前!』
「ミツネ、これでよかろう? 勝ったのは妾じゃ」
「よくやった」
私は玉藻前をなでる。
『よって、二回戦へと足を進めるのはミツネ選手ー!』
私は、百戦無敗である。




