剣道を教えに
翌日、私はゲームにログインせず電車に乗っていた。
というのも用事がある。東京にある金持ちたちが通う高校に講師として招かれたのだ。剣道を教えるらしく、私に依頼が回ってきた。
これもどうやら金持ち校に通うお坊ちゃんたちのわがままらしく日本一の剣士から教わりたいといってきたのだった。
日本一、か。そういわれると嬉しいが。
『次はー……』
と、私が降りる駅のアナウンスが聞こえ電車を出た。
私はしばらく歩くと目的の高校が見えてきたので私は書類を見せて通させてもらう。まずは校長室にと言っていたので私は校長室に向かった。
ノックをして中に入る。
「失礼する」
「おお、よく来てくれました宗形様」
「こちらも呼んでいただき感謝する」
私はソファに座らされる。
おお、ふかふかだ。うちの道場とは大違い。さぞかし素材も一流のものを使っているんだろう。金があるな。
お茶を出され、私はお茶を飲む。
「本日は剣道の講師の話を受けていただきありがとうございました。百戦無敗の宗形様に来ていただけて嬉しい限りです」
「そう呼ばれているんですか」
「ええ。宗形様は公式戦はおろか練習でも一度も負けたことはないと聞いております。それは今もなお」
「まぁ、負けたことはないが」
私は特例として男性に交じって剣道の試合に出ている。
大人になると女性で剣道をやる人が少ないというのもあるのだが、男性じゃないと私の相手にならないからだ。
「あなたのようなお方に剣を教えてもらえるのはとても光栄だと思っております。ぜひ手加減なしにびしばしとご指導をお願いいたします」
「ああ」
「校長、そろそろ体育の時間です」
「わかった。では、お願いいたします」
校長が立ち上がり頭を下げてきた。
私は立ち上がりわかったと告げて体育館に向かう。体育館では体操着を着た男女が座っており、私は前に立たされた。
私が話し始めようとすると一人の男が声を上げる。
「こいつが先生~? よわそー。俺でも勝てると思うわ」
と、男が軽口をたたいていた。
筋肉はある。きっとなにかの武道をやっていた。自信ありげなところを見るに剣道をやっていたのだろう。
「今発言したのと今試合をしよう」
「俺に負けたら講師とかしないでくださいね?」
にやにやと笑いながら面などをつけていく。
私はなにもつけない。つける必要もない。受けたら受けたでその時だ。
「先生は何もつけないんですかー?」
「構わん。手加減なしで来い」
「わかりましたー! ではいきますよー!」
余裕打った声音で竹刀を持って突撃してくる。
「はあああああああ!!」
私は大きな声を上げて気合を込めた。
男はびくっと立ち止まる。私はその隙に相手に面を叩き込んだ。体育の先生が一本と旗を揚げると男は倒れこむ。
先生が急いで面を外すと白目をむいて泡を吹いていた。
「脳震盪だな。強く打ちすぎた」
「剣道3段だって自慢してた木内が瞬殺されたぜ……?」
「強さは本物ってことだね……」
わかってもらえたようならなによりだ。
私は竹刀を置き、生徒たちに向き合う。
「剣道は常に真剣でやっていると思え。こういう相手をなめてかかると死ぬぞ」
「「「「はいっ!」」」」
「あと、剣道に限った話ではないが、相手を尊重し敬うことも大事だ」
生徒は元気よく返事をする。
だがしかし、私の不安はある。というか、将来剣道をやる子は少ないと思うのだ。だから剣道を教えていいのだろうか、と。
私は先生にそう聞くと剣道がやりたいといっていたらしい。
「みんななんで剣道をやりたいと思ってたんだ?」
「今うちのクラスであるアニメが流行ってるんです!」
「アニメか」
「先生も見たことはありませんか? 剣星のタイガっていう剣道アニメ! 剣道やっている子以外にも見てる人いるんですよ!」
「……見たことはないな。剣道をモチーフにしてるのは珍しい」
「絶対損してますよ! 私たちはその剣星のタイガっていうアニメで剣道に興味を持って教えてもらいたいと思ったんですよ!」
なるほどな。
剣道は野球ほど人気スポーツではないからなぜとずっと思っていたがそういう理由か。まぁどういう理由であれ剣道に興味を持ってくれるのはうれしい限りだ。
「ならわかった。教えてやろう」
とりあえず素人ではなくなるっていうところまではな。