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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
651/659

新装備★

挿絵(By みてみん)


「準備万端整ってますよ、あいあい!」


 それは昭和の漫画か、アニメーションか。

 旋風(つむじ)を巻いてビュビュン!と執務室から飛び出していったジーナさんが、行ったと思ったら再びビュビュン!と戻ってきました。

 しかしながらその姿は一変していて、一体全体いずこで手に入れたのでしょうか。完全無欠の防寒着に身を包んでいました。


「はっはっは。あんたたちの全員分あるんだよ」


 ラーラさんの高笑いが玄室に響きます。


「凄いではありませんか。今の時代によくそんな逸品が残っていましたね。いったいどこで手に入れたのです?」


「手に入れたんじゃなくて縫ったのさ。ジーナが毎晩夜なべしてね」


「えっ!? わたしたち全員の分を!?」


 驚きの声を上げたのは田宮さんでしたが、思いは皆です。


「えへへへ、あい! 余った布の切れ端で、あたいやラーラの分も縫いました」


「こう見えてジーナは針仕事が得意なのさ。ノームっていうのは元来が手先が器用な種族だからね」


「ありがとう、ジーナ。これで次の探索の懸案がひとつ減った」


 パーティ代表して隼人くんがお礼を述べると、他のメンバーも口々に感謝の言葉を口にしました。

 早乙女くんに至ってはお礼をいう前に、


「……か、可愛いじゃねえか……」


 素直すぎる思いを吐露してしまいました。


「気が多い奴だ。デカい女(トキミ)の次は小っこい娘(ジーナ)か」


「あ゛あ゛っ!? 可愛いもんを可愛いっていって何が悪いんだ! それに俺の心は常にひとつだ!」


「まあまあ、ここはこのジーナに免じて、なかよくしてください。あい」


 フラッシュジャブの如しツッコミを入れる五代くんと、激高しつつパンチ佐藤風にノロケる早乙女くんの間に、得意顔のジーナさんが割って入ります。


「ラーラ・ララ、第六層についてキミたちが知っている限りのことを教えてほしい。現状では情報がまるで足りていない」


 五代くんと早乙女くんのやりとりにも表情を変えなかった隼人くんが、さらに面を引き締めて訊ねました。

 生真面目な性格に加えて、仲間を元の時代に戻すという責任感がいつからか彼から笑顔を遠ざけていました。


「それがあそこには滅多なことじゃ足を踏み入れなくてね。五層もそうだけど、別に食い物や燃料があるわけでもないし」


 ボリボリと頭を掻いて、申し訳なさげな顔をするラーラさん。


「判ってるのは階層(フロア)中が氷に覆われてるってことぐらいで、あとは “邪眼(イビルアイ)” っていう性悪の魔術師が(ねぐら)にしてるってことぐらいさね」


 そういって、最後に『猫は寒いのは苦手でさ』とバツ悪げに付け加えました。


「可能な限りの事態を想定して装備を用意しましょう。出来ることならナッツなどの栄養価(カロリー)の高い食料と、なにより携帯できて火持ちのよい燃料が必要です」


「そういや聖女様は “龍の文鎮(岩山の迷宮)” の最上層で、氷の迷宮を体験済みだったね」


「はい。あの迷宮では “動き回る海藻(クローリング・ケルプ)” を乾燥させて燃料にしたり、“動き回る蔓草ストラングラー・ヴァイン” の実を干してレーズンにしたりしていました」


「なんて贅沢な迷宮だい。燃料も食料も魔物から作れるなんてさ。ここじゃどっちもありゃしないってのに」


 ラーラさんが大いに呆れて天を仰ぎます。


「他にも体力回復効果のある “聖水(ホーリーウォーター)” が湧く泉がありました」


「おっ、それなら似たようなのがこの迷宮にもあるね」


「第三層の “鮮血の泉” と “黄金の泉” の泉水を汲んでいくのがよいでしょう。前者は生命力(ヒットポイント)を、後者は精神力(マジックポイント)をそれぞれ回復する効果がありますから」


「武具も新調したい。俺たちが持ち帰った戦利品の鑑定はどうなってる?」


 訊ねたのは五代くんでした。

 ステッチちゃんを追跡しながら、宝箱の罠を識別しすべての解錠に成功したのは、今や熟練者(マスタークラス)に手の届く古強者(ヴェテラン)盗賊(シーフ) の彼です。


「もちろん鑑定は済んでるよ――ドッジ」


「いくつか前衛向けの逸品が出た。まずはこいつだ」


 ラーラさんに促されて、ドッジさんが大きなズタ袋から一本の長剣をわたしたちに差し出しました。


「魔剣か?」


「もちろんだ。ただの魔剣じゃないぞ。炎の精霊の力を宿した、“炎の剣(フレイムソード)” だ」


「おおっ、いかにもファンタジーな剣じゃねえか!」


 目を輝かせたのは、もちろん――です。


「くそっ、戦士系の職業(クラス) に就くべきだったな! 俺が使いたいぐらいだぜ! 炎の戦棍(ファイヤーメイス)はないのかよ!」


「その剣はステッチちゃんの外套(マント)から零れた品です。彼女の宝物だったのでしょう」


 わたしはやるせない気持ちで、不浄な魔術師に連れ去られた彼女の小さな姿を思い浮かべました。

 “転移(テレポート)” する瞬間、彼女は “……ごめんなさい” と確かに謝ってくれたのです。


「剣じゃないが、これも使い様によっては強力な得物になる」


 ドッジさんが次に取り出したのは、大型の石弓――クロスボウでした。


「“ヘビィクロスボウ” だ。前衛と盗賊が使えるが――」


「なら、俺がもらう」


 五代くんが進み出ます。


「大丈夫? 重そうだよ?」


 安西さんが心配げに確認します。

 身軽さが信条の盗賊に重い装備はタブーです。


「いざとなったら打ち捨てる――遠距離からの狙撃は試してみたい戦術だった。今の手弓じゃ威力も射程も足りないからな」


 五代くんはメインアームの短剣(ショートソード) の他に、サイドアームとしてこの迷宮で手に入れた小型の弓を所持していました。

 魔物を射る他にも、罠が仕掛けられていそうなスイッチを遠くから作動させるなど多目的に使ってきました。

 “ジググルーの信託銀行” のスイッチを押す際に、大活躍した弓です。


「連射はできないが、これなら一撃必殺の威力がある」


「遠距離からの不意(Sneak)打ち(Attack) か、ますます暗殺者(アサシン)めいてきたな――言っとくけど今のは完全な褒め言葉だぞ! ファンタジーじゃ忍者と暗殺者は盗賊の上位職業なんだ!」


 見る見る険しい表情になった安西さんに、先手を打って弁明する早乙女くん。


「聖職者向けの品もあるぞ。こいつは “聖なる錫杖(ホーリーバッシャー)” と呼ばれる清められた錫杖だ。見てのとおり通常の戦棍よりも長さがある。後衛にいながら殴ることができるぞ」


「それは早乙女くんが使ってください」


 目を輝かせる早乙女くんに、わたしは微笑を向けました。


「いいのか!?」


「わたしにはこの “聖女の(メイス オブ)戦棍( セイント)”がありますから。それに錫杖なら、やはりいずれは仏門に入るあなたでしょう」


「そ、そうか、それじゃありがたく使わせてもらうぜ!」


 早乙女くんが手に取った杖を一振りすると、シャン!と頭輪(ずりん)の音が響きました。


「次に “道化師(フラック)” の野郎が現れたら、今度は俺がコイツでぶん殴ってやるぜ!」


 鼻息も荒く、闘志満々に宣言する早乙女くん。


「――なあ、枝葉にもらった、この “粉砕するもの” だけどよ、これはどうする?」


予備武器(サイドアーム)として持っていくのも手ですが、戦棍は重過ぎて体力を消耗してしまうでしょう。早乙女くんさえよろしければ、それはジーナさんに」


「そうか、そうだよな――おっし、今日からこの+1の戦棍はジーナのもんだ!」


「あいい!? あたいに!?」


「わたしも早乙女くんも、その戦棍には助けられました。良い品ですから、あなたの力になってくれるでしょう」


 “心の迷宮” から帰還した際に、トリニティ・レインさんから頂いた+1の魔法の装備群のひとつ。“龍の文鎮(岩山の迷宮)” を共に戦い抜き、この一〇〇年後の世界に来た後も、パーシャの宝箱(タイムカプセル)から “聖女の戦棍” を入手してからは、早乙女くんが振るってきた得物です。

 初めて手に入れた魔法の武器で、愛着もひとしおでした。

 ジーナさんに使ってもらえるなら喜ばしい限りです。


「ありがとう、聖女様! ありがとう、ゲッショー!」


「あ、ゲッショーいうな~! あ、俺はまだ在家だ~!」


 まるで歌舞伎役者のように錫杖を構えて、大見得を切る早乙女くん。


「まるで “勧進帳の弁慶” ですね」


「はは、どうせなら “山伏” のコスプレもしたいところだぜ。三層の “修験者(カラステング)” から奪ってくっか」


 新しい武器を手にし、大いに気をよくしている早乙女くんの隣で、隼人くんもまた新しい魔剣―― “炎の剣” ――を抜き放ちました。

 赫々(かくかく)とした炎をまとう刃が、薄暗い執務室を照らします。


「こいつはいい。次の階層(フロア)にはピッタリだ」


 隼人くんが満足げにうなずきます。


挿絵(By みてみん)



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