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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
639/659

3★

 邂逅を果たした “フレッドシップ7” と “緋色の矢” は、暫時休息を摂っていた。

 情報の共有が行なわれて、五層の攻略を担当した “ドーンロアの一党” が最下層に降りていることも “緋色の矢” の知るところとなった。


「無茶にも程がある……あるが、状況を考えると是とすべきか」


 話を聞かされたスカーレットも、ドーンロアの判断の是非に迷った。

 パーティが置かれた状況、戦力、知見。

 それらを鑑みれば、五層から半ば以上が初見の階層(ヴァージンフロア)である大迷宮を踏破して地上を目指すよりも、二〇年前に知り尽くした最下層に討って()()()方が勝算がある――。


「わたしでもそう考えるかもしれないな……批評は避けよう」


 スカーレットは慎重に話題を閉じた。

 過去の行いからドーンロアとその一党には思うところが多々あったが、今は同じ “オペレーション・トライデント” を遂行する同志である。

 分別は必要だった。


 ふたつの熟練者のパーティは、“フレッドシップ7” を先鋒に進むことにした。

 これは “破滅蛙(ドゥームトード)” に呑まれたミーナの慮っての判断だ。

 “緋色の矢” の斥候(スカウト) を務めるミーナは、同じ盗賊であるジグの咄嗟の判断によって辛くも生還を果たしたが、精神的な動揺が懸念された。

 本人は『心配いらないって』と空元気を装ってはいたが、斥候(スカウト) は五感のすべてを研ぎ澄ますコンセントレーションが要求されるポジションである。

 スカーレットに説得されて、しぶしぶ引き下がった。


「しょうがないからあんたに譲ってあげる。けどあたしの代役なんだからヘマしたら承知しないからね」


 頭半分以上高いジグの鼻先に人差し指を突き付け、睨むミーナ。

 パーシャがそんなふたりを見て、


「あ~あ、あたいのお気に入りのペットが取られちゃった」


 ニヤニヤと後頭部に両手を当てた。

 その一方で、若い連中のやりとりなど視界に入っていない中年男もいた。


「……地上までの地図(マップ)は完成したか」


 ヴァルレハから彼女の描いた地図を手渡されたアッシュロードが、中身をつぶさに確認して漏らした。


「中央の大広間には抜けがあるけど、“K.O.D.sの玄室” と既存の踏破済みの区域(エリア)は接続できたわ」


「充分だ――がきんちょ、ニヤついてないでおめえも見ておけ」


「あ~い、それじゃヴァルレハ、こっちがあたいが描いたやつ」


 ふたつのパーティの地図係(マッパー)が互いの地図を交換して、確認し合う。


「油断してポカしない限りは、基点までは戻れるだろう」


 アッシュロードは楽観論者(オプチミスト)ではないが、悲観論者(ペシミスト)でもない。

 徹底した現実主義者(リアリスト)だ。

 ふたつのパーティの戦力、実力、志気、損耗度――それらと現在位置から地上への出口がある一層の基点 “E0()N0()” までの道程・難易度を勘案し、そう判断した。

 この “林檎の迷宮” の中層~浅層に出現する魔物は、“紫衣の魔女(アンドリーナ)の迷宮” の下層に棲息する強さに匹敵するが、最下層とまではいかない。

 大魔女の居城である最下層に挑めるだけの実力を身につけた、ふたつのパーティが協力しあえば、活路は拓けるだろう。


「攻撃には “剣” と “兜” が、回復には “盾” がある。精神力(マジックポイント)も持つはずだ。あとは――賭けだ」


 アッシュロードは話を締め括り、進発を指示した。

 二組のパーティの進退を決めるのは、部隊(クラン)の指揮官である迷宮保険屋の役目だ。

 “フレッドシップ7” と “緋色の矢” は、一区画(ブロック)の感覚を空けて進む。

 ()()()()にならなず、支援にも回避にも適切な距離だ。 

 第三層は中央部にある大広間を抜けると、のた打つように入組んだ回廊が現れる。

 転移地点(テレポイント)強制連結路(シュート)もないが、目的の座標を目指すのにまるで見当違いの方向に向かわなければならない、単純(シンプル)に面倒な構造をしている。

 “フレッドシップ7” が “ドーンロア一党” と最初の接触をし、探索者同士の戦いになった挙げ句、 “僭称者(役立たず)” の介入まで招き、アッシュロードとエルミナーゼが迷宮の深奥に転移させられたのもこの区画だ。


 魔物の “|奇襲《surpris attack》” を警戒しつつ、ジグは二つのパーティを先導する。

 最も警戒しなければならないのは、竜息(ブレス)を持つうえに出現数が多い “いぬ” だが、それ以外にも致命の一撃(クリティカル) がある魔物も厄介だ。

 驚かされ硬直している間に首を刎ねられてはたまらない。


(この階に出現するクリティカル持ちといえば、“中忍(レベル8忍者)” と “首狩り兎(ボーパル・ラビット)” ……あとなんだ?)


 思考したジグの視線の先で、回廊の床が盛り上がった。

 回廊中の土埃を吸い上げるように見る見るうちに膨れ上がったそれが、瞬くうちに巨大な人の形を成す。


「致命攻撃じゃないが、コイツの一撃も似たようなもんだったな―― “土塊巨人(アースジャイアント)”、遭遇(エンカウント) !」


 警告を発したジグの眼前で、五体の巨人が立ち上がった。


挿絵(By みてみん)


 巨人属の中でも特に精霊に近しい種族で、生命力(ヒットポイント)100を超えるアッシュロードを一撃で即死寸前まで追い詰めた強大な打撃力を誇る。

 さらには “僭称者” によって強化され、弱点だった “滅消(ディストラクション)” の呪文を受け付けなくなっている。


「この人数だと、却って戦い難いわね」


 スラリ――と聖剣の鞘を払って一同の前に進み出たのは、緑がかった金髪を輝かす美麗な軽戦士だった。


「あなたたちは下がってて――ヴァルレハ、お願い」


 促されたヴァルレハが短くルーンを唱えと、立ち所にエレンの姿が掻き消えた。

 光学透過の呪文を受けた美貌の軽戦士が、“退魔の聖剣(エセルナード)” を手に巨人たちの足下に突撃する。

 待機する仲間たちの目の前で、一体の巨人の足首が飛んだ。

 バランスを崩し、地響きを立てて膝を突く“土塊巨人”


 以前の戦いでパーシャによって確立された攻略法は共有され、“緋色の矢” も身につけていた。

 のみならずハンナ・バレンタインの手でマニュアル化され、探索者ギルドを通じて所属するすべての迷宮探索者に公開されてもいる。

 ”暗黒(ダークネス)” で目潰しをすると()()されて、手が着けられないほど暴れ回られることもあるが、この戦術ならその危険も低い。


 片足の次は片手が切り飛ばされ、支えを失った巨人がもんどり打って倒れる。

 五体すべての動きを封じると、エレンが姿を現して叫んだ。


「今よ!」


「よし、切り刻め! 不運な一発をもらうな!」


 黒衣の君主(ロード)が魔剣を手に、戦士たちの先頭を駆ける。

 黒衣の君主(ロード)が魔剣を手に、戦士たちの先頭を駆ける。

 強敵との戦いでは先手を取って一気呵成に押し切るのが肝要で、しくじれば反撃を喰らい壊滅するのは自分らであることを、熟練者たちは骨身に染みて理解している。



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