女子は女子、男子は男子★
「あの “フランケンシュタイン” “吸血鬼” “狼男” は、ここから現れたのでしょう」
全裸の美女の背後に立つ黒い影を見据えて、戦棍を構えるわたし。
「“美女と野獣” ……ここはそういった趣向のアトラクションです」
野獣の咆哮が空気を震わせました。
「ちょっと男子! どこ見てるの! あんたたちの相手はあっちの黒い奴よ!」
これぞ総務委員の面目躍如。
田宮さんが真っ赤な顔で呆けている “ちょっと男子ズ” に、目標を割り振りました。
「助かった」
「いや、まったく!」
「……」
田宮さんの一喝で裸女の呪縛から解かれた、隼人くん、早乙女くん、五代くんが、心底ホッとした顔でファイティングポーズを採りました。
「女子はこっちのこの娘ね! よくもわたしの彼氏を誘惑したわねー!」
安西さんが、こちらも(別の意味で)顔を真っ赤にして “美女” を睨みます。
気持ちは分かります。
「手加減の必要はないでしょう。“美女” のモンスターレベルは14.ですが特殊能力は聖職者系第三位階の加護だけです。それよりも “野獣” の方が手強いです。“美女” を一気呵成に片付けて援護に向かいましょう」
「忍くん、“野獣” は石化を持ってるから気をつけて!」
「……了解!」
「おら、いくぜー! 厳父たる男神 “カドルトス” よ! ―― “神璧” !」
「エバ・ライスライト! 先鋒仕ります!」
「任せた!」
「わたしも!」
わたしを先頭に、田宮さん、安西さんが一直線に突撃します。
“美女” の耐呪率は八九パーセントと高く、安西さんの呪文はまず通りません。
そうであるなら例えかすり傷といえども与えるために、自らも続いたのでしょう。
「田宮さん、安西さん、白い奴にアレを仕掛けます!」
「「OK!」」
女の意地にかけて、今必殺の――!
「「「ジェット・ストリーム・アタック!!!」」」
ライスライトは “美女” を、強く殴った.
そして二回ヒットして、30のダメージ.
田宮さんは “美女” を、激しく斬った.
そして一回ヒットして、22のダメージ.
安西さんは “美女” を、猛然とチョップした.
そして一回ヒットして、15のダメージ.
“美女” は、死んだ.
「「「どうよ!」」」
ドヤ顔で “ちょっと男子ズ” を振り向きます。
“GuGAAAaaaAAAAッッッッ!!!”
「馬鹿野郎! 順番考えろ順番! スーパーサイヤ人になっちまったじゃねえか!」
“よくもビューティーをーーー!!!”
――とばかりに手が付けられないほど凶暴になった “野獣” を前に、早乙女くんが怒鳴り散らしました。
(((……しまった、そりゃそうだ)))
「援護します!」
ここから本番です。
「“野獣” のモンスターレベルは “美女” と同じ14、最大生命力は200です! 魔法の無効化能力は二五パーセントですが、炎と氷の両方に耐性があります! 安西さんの言ったとおり石化持ちです!」
怖いのはやはり石化ですが、わたしと早乙女くんで八回の “神癒” が使えます。
先のことを考えると、強敵ですが単体の敵を相手消耗したくないのはむしろ――。
「安西は呪文を温存! 瑞穂と月照で “神璧” を重ねがけして、前衛で削り倒す!」
「はい!」「おう」「了解!」
隼人くんから的確な指示が飛び、三人の魔法使いが同時に応じます。
「少々外面は怖いですが、愛する女性を打ち倒されて覚醒したあなたは “漢” です。全力でお相手いたします」
わたしは畏敬の意を持って宣言すると、“聖女の戦棍” を一振り、封じられていた魔力を解放しました。
原作どおりこちら側に来てくれて、“美女” と幸せになってほしかったのですが、運命は非情、人生は過酷です。
さらに早乙女くんがもう一重に “神璧” の加護を願い、安西さんは “宵闇” の呪文で “野獣” の視覚野を乱して装甲値を上げました。
「よし、削り倒せ!」
「おう!」
守備を固めた隼人くんが敵の動揺を見て指示。自らも白刃を煌めかせ突撃します。
田宮さんも凜とした気合いで続きます。
五代くんの姿はすでになく、完全に気配を消して敵味方に関係なく隠れています。
“GIGYAAAAaaaAAAAッッッッ!!!”
視界を宵闇に覆われて、滅多矢鱈に両腕を振り回す “野獣”
しかし狂乱した動きは却って単調な規則性を生み、練達の戦士たちは易々とこれを躱して、鋭い一刀を浴びせました。
鮮血が飛び、黒い体皮と階層の極彩色の壁を濡らします。
攻撃を反復する隼人くんと田宮さん。
文字どおり削り倒す戦術です。
「タフな野郎だ! 生命力200は伊達じゃないぜ!」
前衛の戦いを注視しながら、早乙女くんが驚愕します。
浅手深手を問わず多くの傷を負いながらも、“野獣” は衰えるどころか、ますます猛り狂うばかりです。
(ですが、すでに愛する者を失った身。燃え尽きる前の炎の強勢)
視線の先で、限界に達した “野獣” の動きが、見る見る弱まってきました。
大小無数の傷からの出血が、強靱な体力を奪い去ったのです。
「今です」
「……っ!」
わたしが呟くのと同時に、“野獣” の背後に現れた五代くんが音もなく跳躍。
逆手に構えた短剣 の切っ先に全体重をかけて、“野獣” の延髄に突き刺します。
両脚を野獣の胴に回し、左手を柄頭に添えて抉る五代くん。
無念と悲しみに満ちた、断末魔の咆哮。
やがてそれも途絶え、五代くんが “野獣” の背中から離れました。
“野獣” は一歩二歩 “美女” に近づき、彼女の亡骸に手を伸ばして……倒れました。
「せめて、一つ所に」
隼人くんがうなずき、“美女” を抱きかかえて “野獣” の傍らに移しました。
わたしは聖印を切り、寄り添うふたりの骸に鎮魂の祈りを捧げました。
そして神妙な面持ちのメンバーに告げます。
「感傷に浸っている暇はありません。先を急ぎましょう」
“プレイハウス・ミステリーシアター『大人の遊び』”
このアトラクションは、今始まったばかりなのですから。







