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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
615/660

やっぱりの――いきなりの――★

 “黒騎士(ブラックナイト)” とその愛馬である悍馬の魔物 “悪夢(ナイトメア)” を撃破したパーティは、引き続き怪盗少女♥ステッチちゃんを追って長い回廊を進みます。

 壁面の絵は青空からお花畑に変わり、その中で踊っているキャラクターたちもまた変化していました。

 良く見れば擬人化したキモカワ?な魔物たちで、若干キモい成分が多い絵柄です。

 そのせいか誰かにジッと見られているような気さえしました。

 痕跡を見失わないよう、それでいて周囲の気配に気を配りつつ、慌てず・急いで・正確に追跡します。


「冷えてきました」


 前方から流れてくる冷気に、わたしは注意を喚起しました。


「あの扉からだな」


 正面を見据える隼人くんの視線の先に、先程 “黒騎士” が現れたものとそっくりな扉が現れます。

 

「今度は氷属性の魔物?」


 愛刀の鍔を押し上げ、鯉口を緩める田宮さん。


「可能性はあります。ですがこの感じは以前にも覚えがあります」


(そう、あれは “龍の文鎮(岩山の迷宮)” の第四層から最上層への長い長い縄梯子を登ったとき)


「開けてみればハッキリする」


 ひとり扉に近づく五代くんの言葉に、全員がうなずき武器を構えました。

 職人の手際と慎重さで扉を調べる五代くん。

 緊迫した時間が流れます。

 やがて、スッと五代くんが扉を離れました。


「魔物の気配はない」


「だとすると――つまりはどういうことだ?」


 早乙女くんが戦棍(メイス)を下ろして首を捻りました。


「つまり、こういうことでしょう」


 わたしは扉を惜しき開き、噴き出してくる猛烈な冷気を浴びながら言いました。


「この下の第六層は、氷の階層(フロア)なのです」


 ポッカリと穿たれた下層への(たてあな)

 垂れ下がる縄梯子を揺らして、凍えるような冷風が噴き上がってきます。


「遠足でいった富士山の氷穴・風穴を思い出すよ」


 安西さんが両手で身体を抱きしめてブルッと震えました。


「下りるなら極地探検と同等の耐寒装備が必要です」


 “真龍(ラージブレス)” の(しとね)であった岩山の迷宮の最上層が、まざまざと思い出されます。

 苦しかったと表現するには生やさしすぎる探索・戦いでした。


「へーーーーぷしょんっ! ――そんなもん、今はねーぞ」


 特大のくしゃみを一発、早乙女くんが訊ねます。


「今は必要ない。あのガキは下りちゃいない」


 坑の淵に向かって、五代くんが顎をしゃくりました。

 小さな足跡が転々と続き、坑の向こう岸にある扉の奥へと消えていました。

 

「“止め足” の可能性は?」


「ない。深さが通常と同じだ」


「よし、後々下りることになるかもしれないから、マッピングだけ正確に頼む」


 隼人くんに促され、わたしは嵌めている “示位の指輪(コーディネイトリング)” の力を解放しました。

 大粒の宝石が示した座標を、安西さんが手早く羊皮紙に描き写します。


「GPSと紐付けした、マッピングアプリがあれば便利なんだけどなぁ」


 かじかむ手に白い息を吐きかけながら羽根ペンを動かす安西さんに、早乙女くんが気の毒そうに呟きました。


「でも羊皮紙の地図にも良いところがあります」


「? 例えば?」


「落としても決して壊れません」


 マッピングが終わり、追跡が再開されます。

 ステッチちゃんの足跡を追って、長い回廊を進み続けます。

 彼女の後ろ姿は以前として見えません。

 真っ直ぐな回廊はときに直角に折れ、そして再び真っ直ぐに伸びていました。

 やがて……。


「おい、行き止まりだぜ」


 行き着いた先は袋小路で呆気に取られたのは、もちろん早乙女くんです。


「慌てるな。隠し扉(シークレット・ドア)だ」


 足跡が消えた壁を一目でそれと看破する五代くん。

 地図によると隠し扉の先は、エントランスホール――つまりわたしたちはぐるっと回って、元の場所に戻ってきたのでした。


「結果的に “祝いと狂乱の夜会” はクリアしたな。めでたしめでたしだ」


 隠し扉を潜りながら、自分を慰めるように早乙女くんが述懐します。


「確かに一生あの舞踏会で踊らされるのはご免だったものね」


 嘆息混じりに同意する田宮さん。

 愚痴っぽくなるのは、疲労が蓄積されて志気と集中力が下がっているからです。

 ですがキーアイテム(パスポート)と取り返すまでは、帰還するわけにはいきません。

 今さらながらステッチちゃんに出し抜かれた、自分の甘さが悔やまれます。

 しかも足跡が続いてる先が……


  “プレイハウス・ミステリーシアター『大人の遊び』”


 ……なのですから、ニントモカントモなのです。


「辛いわー、今のテンションでこういう場所に入るの辛いわー」


 ゲンナリと田宮さんが溜息を漏らします。

 名前からして、おそらく男の人が楽しむそっち系のアトラクションなのでしょう。 

 元気なときには勢いとノリで足を踏み入れることもできるでしょうが……こういうときに男女混合パーティは不便です。


「お、親父とお袋が、町内旅行で歌舞伎町のニューハーフショーを見てきたぜ」


「どういう町内なのよ。どういうお坊さんなのよ。お父さんは破戒僧なわけ?」


 田宮さんに容赦なくズバズバ突っ込まれ、シュンと黙り込む早乙女くん。


「集中しろ。探索中だぞ」


 弛んだ志気を、隼人くんが引き締めます。

 

「なにが待ち受けてようと足跡を追う以外の選択肢はない」


(((((この看板を前に真顔でそのセリフ。さすが俺たちのリーダー)))))


 それでもわたしたちは古強者(ヴェテラン)

 意を決してアトラクション “プレイハウス・ミステリーシアター『大人の遊び』” に足を踏み入れます。


 そして出迎えてくれたのが、やっぱりの――いきなりの――。


挿絵(By みてみん)


「男子全員、回れ右! 見るな、このスケベウジ虫ども!」


「いえ、後ろを向いていけません! 裸女の後ろを見てください!」


 反射的に叫んだ総務(クラス)委員田宮さんには申し訳ありませんが、いま背中を向けたらパーティは全滅です。


「あの “フランケンシュタイン” “吸血鬼” “狼男” は、ここから現れたのでしょう」


 全裸の美女の背後に立つ黒い影を見据えて、戦棍を構えるわたし。


挿絵(By みてみん)


「“美女(ビューティー)()野獣(ビースト)” ……ここはそういった()()のアトラクションです」

 

 野獣の咆哮が空気を震わせました。



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