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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
613/659

人馬一体★

「ど、どっちに逃げた」


「南だ」


 慌てる早乙女くんに、屈み込んで床を調べる五代くんが答えました。

 厚く堆積した埃の上に、小さな足跡が点々と続いています。

 歩幅からして、かなりの速さで走っていったようです


「ねえ、枝葉さん……あの子」


「ええ、こうまでハッキリ足跡を残しているのですから、かなりの強さです」


 憂いを帯びた田宮さんに、わたしは小さくうなずきました。


「だが今はそれが却って好都合だ――跡を追うぞ」


 怪我の功名的に “狂乱の舞踏会” から解放されて、パーティは進発しました。

 先頭に五代くんが立ち、殿(しんがり)をわたしが守るいつもの一列縦隊です。

 舞踏場(ボールルーム)の南は、一区画(ブロック)四方はある方柱が幾本も立ち並ぶ広大な空間でした。

 ステッチちゃんの足跡はその方柱の間を、わたしたちを誘うように幻惑するように行ったり来たりしています。


「……まるで遊んでいるみたい」


 安西さんが悲しげに呟きました。


「きっと、そうなのでしょう。これはわたしたちへの……五代くんへの挑戦です」


「同じ盗賊(シーフ) として、五代の力量を測ってるってわけか」


 イガグリ頭を掻いて、早乙女くんが嘆息しました。

 五代くんは無言で、行きつ戻りつする足跡を追っていきます。

 しばらくして足跡が南に折れました。

 迷わず何の痕跡もない西に向かう五代くん。


「どうして?」


 田宮さんが訊ねました。


「南の方は足跡が深い。自分の足跡を辿って戻った―― “止め足” だ」


(ヒグマ)かよ」


 五代くんの返答に、もう一度イガグリ頭を掻く早乙女くん。

 幸いなことにわたしたちは “反発(レビテイト)” の呪文を施しているので、邪魔な足跡を残して五代くんを煩わせる心配はありません。

 徘徊する魔物ワンダリングモンスターの足跡さえない真っ新な床の上を、練達の斥候(スカウト) が進みます。

 やがて行き着いたのは……。


「扉」


「ただし鍵が掛かってる」


 安西さんの呟きに、素っ気なく答える五代くん。

 ですが本当に素っ気なければ無視する人なので、彼女さんへの気遣いでしょう。


キーアイテム(パスポート)が必要か?」


 隼人くんが訊ねました。

 もしそうなら、ここより先には進めません。


 カシャン、


 答えるよりも速く、五代くんがあっさり鍵を解除しました。


「アイツの置き土産だ。キーアイテムは必要ない」


「あなたの彼氏さんは本当に頼りになりますね」


 微笑を向けたわたしに、安西さんが嬉しそうにうなずきます。

 扉の先には再び小さな可愛らしい足跡が転々と続いていました。

 二区画ほど西に向かうとT字路が現れ、南北に真っ直ぐな回廊が伸びていました。

 ステッチちゃんの足跡は北に向かっています。

 安西さんのマッピングが終わるのを待っての、忍耐の追跡が続きます。

 ここでも壁面には、デフォルメされた極彩色のキャラクターたちが笑っています。


 前方に扉が現れ、五代くんが立ち止まりました。

 腰の後ろから短剣(ショートソード) を抜き放ち腰を落とします。

 後続のわたしたちもそれぞれ武器を構え、口の中で呪文や祝詞(しゅくし)を呟きます。

 扉の奥から、凄まじい気配が溢れ出てきました。


“ヒィヒイィィィィイインンッ!”


 激しい()()()()と共に扉が開き、徘徊する魔物―― “黒騎士(ブラックナイト)” が、悍馬の魔物 “悪夢(ナイトメア)” に跨がって登場しました。


挿絵(By みてみん)


「強敵です! 騎士は “呪死(デス)” の加護を! 愛馬は “竜息(ブレス)” を用います!」


 初見の魔物にも関わらず、“認知(アイデンティファイ)” の加護が必要な情報を、“怪物百科モンスターズ・マニュアル” の知識から引き出してくれます。

 加護と竜息の両方に対抗できるのは、“神璧(グレイト・ウォール)” と “酸滅オキシジェン・デストロイ” の合わせ技ですが……。

 隼人くんが叫びました。


「まずは馬の足を止めろ! あの重量じゃ “神璧” の封じ込めが効かない!」


 まさしくその通りです。

 あの暴竜と見まごうばかりの巨大な悍馬 “悪夢”

 それに跨がる重装甲の “黒騎士”

 両者を合わせた重量が突進力を得れば、一枚や二枚の “璧” では抑え込めません。

 それでも、


(出足を止められれば――)


 わたしは詠唱が不要な “聖女の(メイス オブ)戦棍( セイント)” を振るい、運動エネルギーを得る前の彼らを不可視の壁で囲い込みました。


 ガシャンッ!


 あっけなく粉砕される、護りの障壁。

 一枚程度では、ローギアの発進すら止めることができません。


突撃(チャージ)、来る!」


散開(ブレイク)!」


 田宮さんが叫び、隼人くんの鋭声が飛びます!

 猛々しい(いなな)きと、耳障りな甲冑の金属音、そして激しい蹄鉄(ていてつ)の爪音を轟かせて、人馬一体の凶器が一瞬前までパーティのいた空間を駆け抜けます!


「まるで暴走列車だぜ!」


 転がるように回避した早乙女くんが、顔を引きつらせておののきます。


「ですが却って与し易いとも言えます。質量攻撃をしかけてくる魔物に最も効果的なのは()()()です」


 “黒騎士” とその乗騎が向き直り、再度の突撃に向けて凶馬が前足を蹴ったとき、安西さんもまた呪文の詠唱を始めていました。


「来るぞ!」


 隼人くんが警告を発した直後、黒騎士が再度の突撃を敢行しました。

 騎士と騎馬を合わせて半トンを優に超える質量が、数秒でトップスピードまで加速しました。

 回廊を疾駆する、巨大な黒い砲弾。

 その時、複雑な韻を踏み、印を組み上げ、安西さんの呪文が完成しました。


(問題は騎士と馬、どちらに呪文を掛けるか――です)


 質量攻撃をしかけてくる魔物に対しては、その運動エネルギーを逆手にとり自爆を誘うのが常道です。

 しかし今回の相対しているのは、騎士とその乗騎。

 馬を操っているのはもちろん騎士ですが、馬自身にも意思があり闘志があります。

 片方がコントロールを失っても、もう片方が制御する。

 

(安西さんはどちらに?)

 

「暗黒よりも冥い真の闇で汝らを閉ざさん―― “深淵(アビス)”!」


「その手がありました!」


 安西さんの見事な判断に、わたしは快哉を叫びました。

 “深淵” は “滅消(ディストラクション)” と同じ魔術師系第五位階に属する呪文で、第四位階の “暗黒(ダークネス)” 同様、対象の感覚野を狂わせます。

 しかし “暗黒” やその下位互換の “宵闇(トワイライト)” が、中規模範囲(グループ)までしか効果がないのに対し、“深淵” は相対するすべての対象に効果がある大規模範囲(対複数グループ)呪文なのです。

 同じ位階に “滅消” “氷嵐(アイス・ストーム)” があることに加え、質量攻撃や装甲値(アーマークラス)の低い敵が複数集団で出現しないことから、滅多には使わない呪文でしたが――。


(まさにこの状況でこそ使う呪文です!)


 共に感覚野を狂わされた “黒騎士” と “悪夢” があらぬ方向に進路を転じ、極彩色のキャラクターが描かれた内壁に激突します。

 内壁が崩れ、衝撃音が回廊の空気を震わせます。

 猛塵の中から馬上から吹き飛ばされた “黒騎士” が剣を支えに立ち上がりました。

 悍馬の魔物 “悪夢” も頭を振って、身体を起こします。

 どちらもまだまだ戦闘力を維持しているようです。

 ですがこれで、人馬一体は解かれました。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


(さあ、第二ラウンドの始まりです)



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― 新着の感想 ―
騎兵は歩兵からしてみたら、絶望しか無いですよね。 分離したのはナイスかと。
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