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出発の準備は続きます。
「――キーアイテムは使い終わったのも含めて、全部持ってくのよね?」
食料を背嚢に詰める手を止めて、ふと思い出したように、田宮さんがわたしに顔を向けました。
「もちろんです。“熊さん” のように複数箇所で求められる場合もありますから」
“熊さん” = “熊の置物” は、“紫衣の魔女の迷宮” の二階で手に入るアイテムです。
手に入れたばかりの二階で求められる品ですが、それ以外にも四階のある地点でも先に進むために必要になるのです。
これまでに手に入れたキーアイテムは以下の品々です。
○“ドワーフの金鋸”
○“宝石の錫杖”
○“黄金の鍵”
○“悪魔の石像”
“♠のジャックのカード”
“バッテリー”
○“骨の鍵”
○印がついているのが、すでに使ったアイテムになります。
“ドワーフの金鋸” は、二階の主なきゴーレムが守っていた “ドワーフの廃工房” で手に入れた品で、ショートさんの仕事場である “宇宙船” に至る鉄扉を封印していた
太い鎖を断ち切るのに使いました。
“黄金の鍵” は、三階でわたしと一時離れ離れになってしまった隼人くんたちが、黄色い緞帳に覆われた玄室で手に入れた物です。その玄室には黄金を溶かしたような水を湛える泉があって、そこで溺れて浮かんでいたショートさんを助けたお礼として譲り受けた品でした。
黄金の泉から得た黄金の鍵。これは四階の “ジグルルーの信託銀行” の最奥にある“金塊貯蔵庫” の鍵で、わたしたちはそこで強力な守護者である男型と女型の二体の “黄金の彫像” と激闘を演じたのです。
“宝石の錫杖” は、二階の “時の賢者ルーソ” 様の物置で入手した品です。この品もまた強力な守護者 “怨霊” に守られていて、わたしたちはこの霊を鎮めるために、ショートさんの宇宙船で “除霊薬” を調合しなければならなかったのです。
この “宝石の錫杖” は、思い出すのもゲンナリする三階の北域の “カミカゼ寺院” (ええ、あの俗物、怪僧 “ロード・ハインマイン” いた寺院です)のご神体である “青い炎” を宿して、四階へ下りる縄梯子がある玄室の隠し扉を浮かび上がらせたのでした。
“悪魔の石像” は、三階で隼人くんたちと一時逸れてしまったわたしが、心優しいひとつ目の巨人 “オウンさん” と、赤い緞帳に覆われた玄室で入手した品です。その玄室には鮮血のような色をした泉が湧いていて、そこから現れた古代海洋神の眷属、“深き者” を駆逐した際に手に入れた、まるで生きているかのような気味の悪い石像です。
この不気味な石の像は、四階の “ジグルルー信託銀行” の最奥にある金塊貯蔵庫のさらに先、“鏡の間” を抜けて何区画も進んだ先にある、“悪魔の顔” を模した巨大な石扉を開ける鍵でした。
(この “悪魔の顔” に辿り着く直前に、わたしたちは ルーソ様の “店舗 兼 研究室” を見つけたのですが……無念にも入口と思しき異形の “頭蓋骨が埋め込まれた鉄扉” は固く閉ざされいて、開くことは叶いませんでした)
“悪魔の石像” は 巨大な“悪魔の顔” の口を開き、奥には枯れ果てた白骨樹林―― “迷宮樹林” が拡がっていたのです。ここでわたしたちは無垢であるが故に時として危険極まる “樹精” と遭遇し、彼女が召喚した “赤銅色の悪魔” & ”黄銅色の悪魔” と死闘を演じることになったのです。
五代くんの捨て身の自己犠牲のお陰でからくも危機を脱したわたしたちでしたが、その時に彼の鎧に挟まったていたのが、“♠のジャックのカード” でした。
わたしたちのいた世界のトランプにそっくりなこのカードは、まだ用途がわかっていません。
“バッテリー” は、九死に一生の生還を果たし五代くんの蘇生に成功したあとの、第二次の探索で入手した品です。
第二次探索は、四階へ縄梯子ではなく昇降機 を使って下りる区域の探索でした。
そこは “永劫回廊” とでもいうべき、まるで次元連結しているかのような、長大な回廊から始まる区域でした。
どこまでも真っ直ぐに伸びる回廊を幾日も歩き続けたあと、現れたのは一転して “竜の腸” のようにのた打つ回廊。さらにその先にあったのは、最少の玄室が数珠つなぎに並ぶ区画。そこを突破したらしたで、待っていたのは広大な暗黒回廊。
“バッテリー” はその暗黒回廊を抜けた先の小部屋にあった、“古びた旅行鞄” から出てきた物(何か部品?)です。この古い蓄電池も使い道がわかっていません。
そして、“骨の鍵” です。
この人骨で作られた嫌悪感を催す鍵こそ、“時の賢者ルーソ” 様の店舗 兼 研究室に入室するためのキーアイテムなのでした。
わたしたちはこの鍵を手に入れるために、ショートさんから餞別に頂いたゴム製の “アヒルの浮き輪” の秘めたる力を解放して、“万能潜水艦ハワード号” を出現させ、この迷宮で一番深いとされる湖に潜ったのです。
その霧深き迷宮湖には、まるで “ネス湖” のUMAのような巨大な海洋生物がいて、わたしたちはこれと遭遇し、初めての魔導雷撃戦を展開した末に、巨大化した生物に呑み込まれてしまいました。
生物の体内は、迷宮慣れした古強者であるわたしたちにも脅威の世界でした。
“ハワード号” は巨大な胃にまで達して、そこで胃壁に突き刺さった人の身の丈を遙かに超える異物を見いだしたのです。
この異物こそが、巨大な海洋生物を凶暴化させている原因だったのです。
わたしは苦労して異物を取り除き、海洋生物を狂気から解放、正気に戻しました。
“ネッシー” と名付けた海洋生物はわたしたちに懐いてくれて、束の間の心安まる交流が成されたのです。
そして “ネッシー” が去ったあと、残された異物の中か出てきたのが、“骨の鍵” だったのです。
パーティははすぐさまとって返し、ルーソ様の忠実な侍女である “トキミ” さんと合流、彼女と共にルーソ様の店舗 兼 研究所に向かいました。
途中の魔物との遭遇戦は、主との再会にはやるトキミさんが実力を存分に発揮して一蹴。
わたしたちは問題なく “骨の鍵” で “頭蓋骨の扉” を開けて、長く閉ざされていたルーソ様の店舗 兼 研究室に足を踏み入れたのです。
しかしそこで見たものは、苔むした彼の墓でした。
予想外の光景にわたしたちは呆然とし、言葉なく消沈するトキミさんの代わりに、激高する早乙女くん。
そんな早乙女くんを抑えたのが、五代くんの冷静な観察眼でした。
墓は偽造でルーソ様は生きていると、五代くんは看破したのです。
そうして――。
わたしたちは何らかの理由で姿を隠している時の賢者様を捜して、迷宮のさらなる深みを目指すことになったのです。
「これはあなたが持っていてください」
わたしは、手に入れたキーアイテムの数々を腰の雑嚢に収めるながら、そのうちのひとつ――1枚を、安西さんに差し出しました。
「いいの?」
「あなたが持つのが一番相応しいでしょうから」
「ありがとう」
安西さんは、五代くんが命に替えて手に入れた “♠のジャックのカード” を両手で抱きしめました。
当の五代くんはなんともいえない顔でそっぽを、向いています。
微苦笑を浮べるわたしに、隼人くんが真面目な声で訊ねました。
「四階には、五階に下りる縄梯子がなかった」
「はい。昇降機を使って下りるしかないでしょう」
「……となると、またあの目玉を片付けないとな」
「上等だぜ! あの時の土下座の屈辱、忘れてねーからな!」
うなずいたわたしに、五代くん、早乙女くんが続きます。
「“目玉の魔獣” は、あたいたちがやっつけるから任せて! あいつ、麻痺さえ気をつければ、自警団のいい訓練になるから!」
「お任せしましょう」
勢い込むジーナさんに、わたしは微笑みます。
「任されました、聖女様! あい!」
「――そほいじゃ、準備ができたなら、そろそろ行こうじゃないかね」
ラーラさんの言葉に全員がうなずき、ここに第五層の初探索が始まったのです。
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ガコン、
と鈍い振動がゴンドラに走って、昇降機が止まりました。
前衛は剣の鞘を払い、刀の鯉口を緩め、後衛は腰に吊った戦棍を手にし、あるいは呪文を口ずさみます。
昇降機が止まったことは隠せないのですから、待ち伏せされる危険は限りなく高いのです。
「覚悟はいいか?」
「迷宮一の “死亡遊戯” 、“メンフレディのテーマパーク” ……さて、なにが出迎えてくれるやら」
隼人くんが肩越しに確認を取れば、早乙女くんが引きつった笑いで答えます。
「どうせなら楽しませてほしいわね」
刀の鍔を押し上げながら、田宮さんもうなずきます。
「行くぞ――突入!」
扉が開くと同時に、わたしたちは武器を手に躍り出ました。
『BIG MOUTH♪ BIG MOUTH♪ BIG BIG MOUTH♪♪
BIG MOUTH♪ BIG MOUTH♪ BIG BIG MOUTH♪♪』
『BIG MO~UTH♪ BIG MO~UTH♪♪』
出迎えたのは、底抜けに陽気で……エレクトリカルな歌声でした。
★完結! スピンオフ・第三回配信完結しました!
『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信~・第三回』
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エバさんが大活躍する、ダンジョン配信物です。
本編への動線確保のため、こちらも応援お願いいたしますm(__)m
作者多忙のため、しばらく週一の掲載になります
ごめんなさい (´;ω;`) ブワッ







