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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
589/658

昇降機の番人★

挿絵(By みてみん)


「も、もう駄目だぁぁぁ――ムギュウッッゥ!!!」


 土下座(重力)の呪いに抗しきれず、早乙女くんが蛙のように潰れてしまいました。


(いけません! このままでは肋骨ごと肺まで潰されてしまいます!)


「慈母なる女神 “ニルダニス” よ―― “神癒(ゴッド・ヒール)” !」


 わたしはすかさず祝詞(しゅくし)を唱え、究極の癒やしの加護を嘆願しました。

 (デッド)以外のあらゆる状態(バッドステータス)を回復させる “神癒” は、恐慌(アフレイド)混乱(コンフュージョン)などの惑乱した精神はもちろんのこと、一切の呪いの類を打ち消します。

 心優しいひとつめ巨人オウンさんの足に掛けられた “痒みの呪い” を解いたのも、この加護でした。

 効果はたちどころに現れ、早乙女くんを “目玉の魔獣” の呪いから解き放ちます。


「た、助かった! ――野郎、よくも人を轢死(れきし)体みたいに!」


真名(マナ)を口にしなければ、あの呪いは効果を現しません!」


「こんな奴、“目玉の魔獣(ハークルビースト)” で充分だ」


 奇声を上げて這いずり回る巨大な目玉の魔物に、隼人くんが盾をかざします。

 無数に生える触腕からビュッ!ビュツ!と、即効性の麻痺毒を飛ばし続けるので、一瞬たりとも気を抜けないのです。


「Hukrle! Hukrle!」


「――それで、どうするさね?」


 ラーラさんがどこ楽しそうに、わたしに一瞥をくれました。

 そういえばこの人と本格的に共闘するのは、これが初めてです。


「そうですね、一見したところ目蓋がないようですから――」


「は? ――はっは! そうか、そいつはいいね。それでいいこうじゃないさね!」


「安西さん、これで毒液を防いでください!」


「了解! 借りるね!」


「わたしと早乙女くんが隙を作ります! 全員、わたしたちの前へ! 早乙女くん、準備はいいですか!?」


「おう、いつでも来いや!」


「最大輝度で! ――慈母なる女神 “ニルダニス” よ!」

「三倍返しだ! ――厳父たる男神 “カドルトス” よ!」


「「“短明(ライト)” !」」


 迷宮の暗闇に、眩いふたつ太陽が爆発しました。


「Huーーーーーーgrleeeeeeーーーーー!!!!」


 真正面から閃光に射られて、無数の触腕から麻痺毒を含んだ体液をめったやたらに飛ばし、“目玉の魔獣” が悶え狂います。


護り()()御壁よ(マツ)!」


 安西さんが間髪入れずに、わたしから手渡された戦棍(メイス)の魔力を解放して、乱れ飛ぶ毒液を防ぎます。

 “目玉の魔獣” はわたしたちのことなど文字どおり眼中からなくし、猛スピードで床を這いずり、迷宮の内壁に激突しました。

 轟音が澱んだ大気を震わし、強化煉瓦の壁が崩れ、濛々とした土埃が上がります。


「よし、動きが止まった! トドメを刺しな!」


 目玉が完全に()()()()と、ラーラさんが叫びました。

 そして真っ先に “蝶飾りの(バタフライ)ナイフ” を逆手に、躍りかかります。

 隼人くんが、田宮さんが、五代くんが、剣を、刀を、短剣を振りかざし続きます。


「触腕に気をつけろ! 物狂ってる分、予期しない方向からくるぞ!」


 隼人くんが+1相当の魔剣で、未だ蠢く無数の腕を切り飛ばしながら叫びます。

 切れ味だけならその魔剣を凌駕する業物で、田宮さんもまず腕を処理しています。


「気をつけろ、麻痺毒だけじゃなく遅効性の毒もあるぞ!」


 五代くんが短剣に付着した体液から、麻痺(パラライズ)だけでなく(ポイズン)の臭いを嗅ぎ取って、鋭く警告しました。

 わたしと早乙女くん、安西さんは距離を取り、体液の射程外からすぐに援護できる態勢を整えます。

 回復役(ヒーラー)後衛攻撃(バックアタック)を受けて行動不能になっては、元も子もありません。

 しかしわたしたちの出番はないまま、一分もかからずに練達の前衛によって無数の触腕はすべて刈り取られ、“目玉の魔獣” は丸坊主にされてしまいました。

 最後、隼人くんがトドメの一突きを瞳の中心に深々と刺し入れ、“目玉の魔獣” は息絶えました。

 静寂が戻った広間には澱んだ空気の代わりに、鼻の曲がる異臭が漂っています。


「ぺっぺっ! うへえ、酷い臭いだぜ!」


 早乙女くんが渋面を作って口の中の不快感を吐き出せば、


「怪我はない?」


「……問題ない」


 隣りでは安西さんがペタペタと、彼氏の怪我の有無を確認しています。


再出現(リポップ)すると思うか?」


「わかりません。ですが明らかに通常種とは違いますから、その可能性は無きにしも非ずでしょう」


 隼人くんに訊ねられましたが、わたしは否定しきれませんでした。

 この魔物が “固定モンスター” なら、時間が経てばまた復活するでしょう。

 それが迷宮の(ことわり)なのです。


昇降機(エレベーター) を使うたびにこいつ戦うなんて、ゾッとするわね」


 刀に付いた魔物の体液を慎重に拭いながら、田宮さんが心底嫌そうな顔をします。

 

「目玉が復活する前に四階に下りるぞ――荷物を取ってこよう」


 モタモタしていれば、また面倒なことになるかもしれません。

 わたしたちは隼人くんの判断を()とし、いったん自室に背嚢その他の探索に必要な装備を取りに戻りました。

 そうして再びリフトに乗って戻ってくると、異臭の消えやらぬ広間の奥に鎮座する昇降機に乗り込んだのです。


「目玉が甦るようなら、可能な限りあたしたちで掃除しておくよ」


「お願いします」


「気をつけて行くんだよ。あんたたちはもう……あたしらの希望なんだからさ」


 見送ってくれるラーラさんたちにうなずくと、わたしたちは昇降機を作動させて、再び迷宮の第四層へと下りていきました。 


(必ず生きて戻ります)



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― 新着の感想 ―
[一言] 鈴木土下座衛門、個人的に大好きなので、どんどんリポップさせてほしいですw
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