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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
546/660

迷宮の短いトンネルを抜けると……。

「走って!」


 叫ぶや否や、隧道(すいどう)の天井に無数の亀裂が走りました!

 即座に走り出すパーティ!

 ですがここで盾役(タンク) の隼人くんが先陣を切っていたのが裏目に出ました!

 剣に鎧に兜に盾――重武装の彼は思うように走ることができません!

 亀裂はあっという間に先頭の隼人くんを追い越し、崩壊が始まります!


「くっ!」


 苦衷の呻きを漏らしながら、隼人くんが走ります!

 隧道の長さは約四区画(ブロック)、約四〇メートル!

 パーティの位置は入口から約一〇メートル余り!

 一斉回頭(回れ右)して、わたしを先頭に戻る方が近いのですが――!


(いけません! そんな余裕はありません!)


「“ニルダニス” !」


 女神の御名を叫び、“聖女の(メイス オブ)戦棍( セイント)” を一振り!

 “神璧(グレイト・ウォール)” の加護で隧道を()()ます!


「長くは持ちません! 走り抜けてください!」


「「「「「おうっ!」」」」」


 走る!

 走る!!

 走ります!!!


 魔法の障壁が岩盤の圧倒的な質量を支えきれずに、後方から次々に崩れ始めます!

 亀裂に追い越され、崩落に追いつかれるようとする隧道を、ひたすらに走ります!


 先頭の隼人くんが出口の淵に手を掛け、続く田宮さんが踏み台となってその身体を押し上げます!

 隧道から出た隼人くんが田宮さんを引っ張り上げ、身軽な五代くんが間髪入れずに飛び上がれば、続く安西さんの手をつかんで引きずり上げました!


「た、頼む!」


「少しはダイエットしなさい!」


 飛びついた大柄で完全武装な早乙女くんを隼人くんと引き上げながら、田宮さんが罵ります!


「俺は太ってねえよ!」


 わたしは背中で早乙女くんを押し上げながら、横目で迫りくる崩落を見ました!


(間に合わないかも――しれない!)


 目を見開いた瞬間、背中の重さが消えて、力強い腕がわたしを引き上げたのです!

 そして大音響と濛々たる土埃をあげて、隧道は完全に崩落したのでした!


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」


 乱れに乱れた呼吸。

 走っていたときの何倍もの汗が全身から噴き出ます。


「無事か!?」


「え、ええ、間一髪……」


 引き上げてくれた隼人くんに、どうにかそれだけを答えます。


「ケホッ、ケホッ!」


 喘息の持病を持つ安西さんが巻き起こる土埃に、口を覆って咳き込みました。


「平気か?」


 労る五代くんに、涙目でうなずく安西さん。


「まだ気を抜くな、周辺の安全を確認しろ!」


 隼人くんが剣を抜き放って、辺りに警戒の視線を走らせます。

 先ほど “女型の彫像” の急襲を受けたばかりです。

 危機を脱した直後の弛緩が危険なことは身に染みています。

 即座に防円陣サークルフォーメンションが組まれ、全員が武器を構えます。


「魔物は……いねえみてえだぞ」


 早乙女くんがゴクリと生唾を呑み込んで言いました。

 五代くんの偵察してきたとおり、そこは広大な正方形の広間でした。

 見通しが利く分、魔物の有無は確認しやすいようです。


「枝葉、現在位置を」


「はい」


 隼人くんの指示に、大粒の宝石が煌めく指輪の魔力を解放します。


(西)に6、()に17です」


 安西さんが羊皮紙と尖筆を取り出し、地図上に座標を描き込みました。


「あの金庫からはそんなに離れてないよ。ただ……」


「ええ。期せずして一方通行になってしまいましたね……」


 転移地点(テレポイント)強制連結路(シュート)……どちらも一方通行の仕掛け(ギミック)ですが、崩落によって隧道が塞がれたため同様に、後戻りが出来なくなってしまったのです。


「なあに大丈夫だ! 俺たちは全員無事で怪我もしてねえ! それになんてたって、あと七回も “神癒(ゴッド・ヒール)” が使えるんだからよ! 七回も!」


 ゴッチン!


「ぐわっ!」


 早乙女くんが快活に広間の先を振り向いた直後、顔を抑えてうずくまりました!


「ちょっ、どうしたの!?」


「敵か!?」


「見えないぞ!」


「落ち着いて、冷静に!」


 動揺が走るパーティを一喝して、戦棍を構えます。


「敵の気配は……ありません」


 それでもわたしは油断せずに、状況を確かめます。


「な、なんか鼻にぶつかった……」


 鼻声・涙声で告げる早乙女くん。


「うわ……出てるわよ、大量に」


 ボタボタと零れる鼻血に、田宮さんが顔をしかめます。


「いったい何が起った?」


 隼人くんの――全員の疑問に答えたのは五代くんでした。


「どうやら衝突事故らしいな――これを見ろ」


「な、なに?」


 何もない宙空に顎をしゃくる五代くんに、安西さんがおっかなびっくり訊ねます。


「ここだ」


「ここって何もない――えっ?」


 安西さんだけでなく全員が、()()に気づきました。


「……血が付いてる」


 呆然と呟く安西さん。

 ちょうど早乙女くんの鼻の高さ辺りの空間に、少量の血が浮かんでいたのです。


「どうして、何もないのに……」


「何もなくはない」


 そういうと五代くんは血の浮かぶ空間に歩み寄り、なんとコンコンと叩いて見せたではありませんか。


()()()()だ」


 ザワ……とした驚きがパーティに走ります。


「おそらくこの広間全体に見えない壁が立ち塞がってるんだろう」


 それは初めて見聞きする仕掛けでした。


 “紫衣の魔女(アンドリーナ)の迷宮”

 “龍の文鎮(岩山の迷宮)

 “呪いの大穴”


 世界三大地下迷宮からもこのような仕掛けは、発見・報告されていません。

 迷宮の短い隧道を抜けるとそこは…… “(グラス)の広間” でした。



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― 新着の感想 ―
[一言] >あと七回も ”神癒” が使えるんだからよ 自慢なんでしょうけど、油断にならないように気をつけてほしいですね。 透明な壁、極悪ですね。 全部壊すしかw
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