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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
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タイムカプセル

「悪いけど先に読ませてもらったよ……あんたの知り合いかい?」


 一〇〇年後の “呪いの大穴”

 その第一層にある “兄弟愛(ララ)の自警団” の一室では、光量を落とした“永光コンティニュアル・ライト” が仄暗く闇を払っていました。


「はい……わたしの一番の友達からです」


 紙面に視線を釘付けにされたまま、玄室(執務室)の主であるラーラ・ララさんに答えました。

 猫人(フェルミス)のラーラさんに最適化された魔法光は弱く、室内は薄暮のようでしたが、それでも手紙の文面はわたしの心に突き刺さりました。


「……なんて書かれてるの?」


 パーティの前衛を務める田宮(たみや)佐那子(さなこ)さんが、堅い声音で訊ねました。

 一×一区画(ブロック)の玄室にはラーラさんと田宮さんの他にも、


 志摩(しま)隼人(はやと)くん。

 五代(ごだい)(しのぶ)くん。

 早乙女(さおとめ)月照(つきてる)くん。

 安西(あんざい)(れん)さん。


 たちパーティのメンバーと、


 霊媒師にして迷宮の除霊師、“ダック・(ショートの)オブ・ショート(アヒル)” さん。

 悪の魔法使いによってひとつ目の巨人に姿を変えられてしまった、オウンさん。

 そしてラーラさんの腹心である、左右の頬から鼻梁にかけて一文字の傷跡がある戦士のドッジさん。


 がいました。


 大所帯でしたが一〇メートル×一〇メートルの広さがあるうえに、迷宮は空間が歪んでいるので、不思議と狭苦しさは感じません。

 ……ただ、崩落した瓦礫の下から突然現れた宝箱(タイムカプセル)

 その中から発見された手紙に、驚きと不安の混じった不穏な空気が漂っているだけです。


「……」


 わたしは黙って田宮さんに手紙を差し出しました。

 一〇〇年の時を超えて届いた……あの娘からの手紙を。


「……拝見します」


 田宮さんは丸められた羊皮紙を捧げて敬礼すると、再び広げました。

 隼人くんたちパーティのメンバーだけでなく、ショートさんやオウンさんも覗き込んでいます。

 田宮さんは背の低いショートさんのために、手紙の位置を下げてあげました。

 重苦しい沈黙が……流れます。


「……あのホビットからか……未熟な連中だなんて言ってくれるぜ」


 やがて早乙女くんが、絞り出すように呟きました。


「……熟練者(マスタークラス)手前の彼女からしたら、わたしたちはまだ未熟者よ」


 答えた田宮さんの声にも、力はありません。

 隼人くん、五代くん、安西さんは黙り込んだままです。


「……手紙の文面から察するに、ライスライトの親友のこのホビットは、自分たちの勝利を疑っちゃいなかったみてえだな……ガァ」


「……オウ~ン」


「……彼女たちの戦いの様子は伝わってはいないのですか?」


 オウンさんの悲しげな声が消えたあと、わたしはラーラさんに訊ねました。


「……残念だけどね、寡聞にして聞かないよ――あんたはどうだい、ショート?」


「……申し訳ないがオイラもだ、ガァ」


 わたしは黙するしかありません。

 彼女たちの戦いの詳細は定かでなくても、その結末がどうであったかは、今のこの世界を見れば明らかです。

 悪魔王 “災禍をもたらす者(メイルフィック)” に挑んだパーシャたちは……。


「……まだ彼女たちが死んだと決まったわけじゃないよ」


 押し黙ったわたしに、田宮さんが言葉を掛けます。


「……そうですね」


 わたしは手紙と一緒に収められていた薄汚れた外套(マント)に、そっと触れました。

 埃にまみれて(まだら)になった、黒い外套。

 例え決戦に敗れたとしても、誰もが誰も散ってしまったわけではないはずです。

 誰かはきっと、生き残ったはずなのです。


(……そうですよね?)


 わたしは外套から顔を上げました。

 そして早乙女くんに向き直って、腰に(たずさ)えていた戦棍(メイス)を差し出します。


「これを使ってください」


 火の七日間の折にトリニティさんから頂いた戦棍、銘 “粉砕するもの” です。

 +1相当の強化魔法が施されていて、早乙女くんが現在使っている無銘の品よりも強力です。


「いいのか?」


 わたしはうなずき、外套にくるまれていた新しい戦棍を手に取ります。

 パーシャが一〇〇年の時を超えて届けてくれた武器です。

 手にしただけで、これまでの物とは比較にならない力を感じます。


 “聖女の(メイス オブ)戦棍( セイント)


 これからのわたしの得物です。


「似合ってる」


「……ああ、そうだな」


 安西さんが呟き、五代くんが同意します。

 わたしは寂しく微笑みました。

 これほどの強力な品です。

 悪魔王との決戦で用いれば、さぞかし有為なことだったでしょう。

 それをわたしのために、迷宮深くに隠しておいてくれたのです。


「現状を確認しましょう。わたしたちが置かれている状況。解決すべき課題。克服すべき困難。立ち向かうべき敵――すべてを整理して明確にしましょう。そして休息を摂り、レベルを上げ、次の探索に臨むのです」



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― 新着の感想 ―
[一言] 戦いの様子が伝わってないってのがちょっと気になります。
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