タイムカプセル
「悪いけど先に読ませてもらったよ……あんたの知り合いかい?」
一〇〇年後の “呪いの大穴”
その第一層にある “兄弟愛の自警団” の一室では、光量を落とした“永光” が仄暗く闇を払っていました。
「はい……わたしの一番の友達からです」
紙面に視線を釘付けにされたまま、玄室の主であるラーラ・ララさんに答えました。
猫人のラーラさんに最適化された魔法光は弱く、室内は薄暮のようでしたが、それでも手紙の文面はわたしの心に突き刺さりました。
「……なんて書かれてるの?」
パーティの前衛を務める田宮佐那子さんが、堅い声音で訊ねました。
一×一区画の玄室にはラーラさんと田宮さんの他にも、
志摩隼人くん。
五代忍くん。
早乙女月照くん。
安西恋さん。
たちパーティのメンバーと、
霊媒師にして迷宮の除霊師、“ダック・オブ・ショート” さん。
悪の魔法使いによってひとつ目の巨人に姿を変えられてしまった、オウンさん。
そしてラーラさんの腹心である、左右の頬から鼻梁にかけて一文字の傷跡がある戦士のドッジさん。
がいました。
大所帯でしたが一〇メートル×一〇メートルの広さがあるうえに、迷宮は空間が歪んでいるので、不思議と狭苦しさは感じません。
……ただ、崩落した瓦礫の下から突然現れた宝箱。
その中から発見された手紙に、驚きと不安の混じった不穏な空気が漂っているだけです。
「……」
わたしは黙って田宮さんに手紙を差し出しました。
一〇〇年の時を超えて届いた……あの娘からの手紙を。
「……拝見します」
田宮さんは丸められた羊皮紙を捧げて敬礼すると、再び広げました。
隼人くんたちパーティのメンバーだけでなく、ショートさんやオウンさんも覗き込んでいます。
田宮さんは背の低いショートさんのために、手紙の位置を下げてあげました。
重苦しい沈黙が……流れます。
「……あのホビットからか……未熟な連中だなんて言ってくれるぜ」
やがて早乙女くんが、絞り出すように呟きました。
「……熟練者手前の彼女からしたら、わたしたちはまだ未熟者よ」
答えた田宮さんの声にも、力はありません。
隼人くん、五代くん、安西さんは黙り込んだままです。
「……手紙の文面から察するに、ライスライトの親友のこのホビットは、自分たちの勝利を疑っちゃいなかったみてえだな……ガァ」
「……オウ~ン」
「……彼女たちの戦いの様子は伝わってはいないのですか?」
オウンさんの悲しげな声が消えたあと、わたしはラーラさんに訊ねました。
「……残念だけどね、寡聞にして聞かないよ――あんたはどうだい、ショート?」
「……申し訳ないがオイラもだ、ガァ」
わたしは黙するしかありません。
彼女たちの戦いの詳細は定かでなくても、その結末がどうであったかは、今のこの世界を見れば明らかです。
悪魔王 “災禍をもたらす者” に挑んだパーシャたちは……。
「……まだ彼女たちが死んだと決まったわけじゃないよ」
押し黙ったわたしに、田宮さんが言葉を掛けます。
「……そうですね」
わたしは手紙と一緒に収められていた薄汚れた外套に、そっと触れました。
埃にまみれて斑になった、黒い外套。
例え決戦に敗れたとしても、誰もが誰も散ってしまったわけではないはずです。
誰かはきっと、生き残ったはずなのです。
(……そうですよね?)
わたしは外套から顔を上げました。
そして早乙女くんに向き直って、腰に携えていた戦棍を差し出します。
「これを使ってください」
火の七日間の折にトリニティさんから頂いた戦棍、銘 “粉砕するもの” です。
+1相当の強化魔法が施されていて、早乙女くんが現在使っている無銘の品よりも強力です。
「いいのか?」
わたしはうなずき、外套にくるまれていた新しい戦棍を手に取ります。
パーシャが一〇〇年の時を超えて届けてくれた武器です。
手にしただけで、これまでの物とは比較にならない力を感じます。
“聖女の戦棍”
これからのわたしの得物です。
「似合ってる」
「……ああ、そうだな」
安西さんが呟き、五代くんが同意します。
わたしは寂しく微笑みました。
これほどの強力な品です。
悪魔王との決戦で用いれば、さぞかし有為なことだったでしょう。
それをわたしのために、迷宮深くに隠しておいてくれたのです。
「現状を確認しましょう。わたしたちが置かれている状況。解決すべき課題。克服すべき困難。立ち向かうべき敵――すべてを整理して明確にしましょう。そして休息を摂り、レベルを上げ、次の探索に臨むのです」







