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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
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対抗手段★

挿絵(By みてみん)


 迷宮一の嫌われ者ロード・ハインマインが召喚したのは、四大元素(エレメンタル)の中でも最強と言われる “風の大王ダイジン” でした。

 腕組みをした青く透き徹る半透明の巨体が、黙然とわたしたちを見下ろしています。


「ぎゃははは! それだけじゃないぞ! それだけじゃないぞ! まだまだいるぞ! まだいるぞ!」


 物狂ったような怪僧に呼び寄せられるように、迷宮の暗闇から無数の魔物が現れました。

 動物系の魔物。

 アルパカに似ていますが違います。

 これはラマです。

 可愛らしい外見をしていますが、その表情は主同様に狂気に取り憑かれています。

 この第三層に大量に生息している、“マッド・ラマ” と呼ばれる魔物です。


 神獣か霊獣扱いなのでしょう。

 チベットの高僧(ラマ)が着ているような、赤い袈裟(ローブ)をまとっています。

 どうやらこの階層(フロア)に生息している群は、ここから逃げ出して繁殖した個体のようです。


「どうだ! どうだ! どうだ! 我が寺院の霊獣様だぞ! 強いんだぞ!」


「ちょっとうるさいので黙っていてください」


 わたしは口の中で小さく祝詞(しゅくし)を唱えました。


「――!!?」


 カチンコチン! と “棘縛(ソーン・ホールド)” に絡め取られたロード・ハインマインが、得意の絶頂のまま硬直します。


「いやはや鮮やかだねぇ。まったく惚れ惚れするぜ、ライスライト」


「ショートさん、オウンさん、ラマの方をお願いします」


「そいつは構わねえが、いいのかい? “ダイジン” の方が手強そうだぜ?」


「あのジンを独力で突破できないようでは、これから先わたしたちに展望はないでしょう――そうですよね、隼人くん」


「そのとおりだ。“風の大王” は俺たちでやる」


 隼人くんがうなずき、他のみんなも首肯します。


「了解だ、それじゃおっぱじめようぜ、殿下! ガァー!」


「オウ~ン!」


 ショートさんが力強くひと鳴きすれば、オウンさんが野太く応え、ふたりは狂獣の群れに吶喊(とっかん)していきました。


「――お待たせしました陛下。我ら迷宮探索者六名。人の身なれど全力でお相手(つかまつ)ります」


 わたしが一礼すると偉大なる “風の大王ダイジン” が、ゆっくりと腕組みを解きます。

 さあ、決戦です。


「厳父たる男神 “カドルトス” よ―― “静寂(サイレンス)” !」


 先手必勝とばかりに早乙女くんが “ダイジン” の魔法を封じ込めに掛かります。

 しかし――。


「畜生! なんでだよ!」


「相手は “風の大王” だぞ。大気の振動を止める “静寂” が通るか」


 五代くんが短剣(ショートソード) を逆手に構えたまま、容赦ないツッコミを入れます。


「大気系だけでなく、すべての魔法への抵抗力が高そうね」


「あの身体だ。直接攻撃にも耐性がありそうだな。装甲値(アーマークラス)は低そうだ」


「―― “暗黒(ダークネス)”、行きます!」


 田宮さんが腰を落として刀の柄に手を添えれば、隼人くんが盾を持ち上げパーティを守る鉄壁の盾役(タンク) となります。

 そしてふたりの行動に先んじて唱えられる、安西さんの呪文。

 定石(セオリー)どおり呪文無効化の効かない支援呪文で、“風の大王” の防御力を下げたのです。


 そのとき筋骨隆々の “風の大王” の逞しい胸が、階層中の空気を吸い込むような勢いで膨らみました。


(――いけません!)


 咄嗟に浮かぶ、対抗手段!


(お借りします、フェルさん!)


「慈母なる女神 “ニルダニス “ の烈しき息吹持て――風よ、()き刃となれ!」


 次の瞬間 “風の大王” とわたしの中心で、ふたつの風の奔流がぶつかり合いました!

 大王の息吹(ブレス)とわたしの “烈風(ウィンド・ブレード)” が互いの精霊力を打ち消し合いながら、しのぎを削ります!

 現時点で風の息吹を無効化する手段は、これしかありません!


「ぐううううっっっ!!!」


(こ、この圧力! 押し切られたら……全滅です!)


「てえぇぇーーーーいいぃぃぃいっっっ!!!」


 気合い裂帛!

 渾身の精神力を振り絞って押し返せば、ぶつかり合う大気が弾け、ふたつの精霊力が雲散霧消します!


「はぁ、はぁ、はぁ――!!!」


「瑞穂!」


「だ、大丈夫です!」


 振り返った隼人くんに、荒い息で答えます。

 大粒の汗が顔中に浮かび、ボタボタと零れ落ちました。


「ですが “烈風” はあと三回しか使えません! それも “神癒(ゴッド・ヒール)” の分を消費してです!」


「それだけあれば充分だ! 瑞穂が押さえている間にやるぞ!」


「「「「おうっ!!!」」」


 隼人くん、田宮さんが真っ正面から突っ込み、五代くんはいつの間にか視界から消えています。

 安西さんが再び “暗黒の” 呪文を唱え、早乙女くんは“神璧(グレイト・ウォール)” の加護を嘆願します。

 そしてわたしは――。


「もういっちょうです!」


 またも大量の吸気を溜め込み始めた “風の大王” に合わせて、“烈風” の祝詞を唱えるのでした。


 ――風よ! 我らを守る壁となれ!



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[一言] 大王なのにダイジンとはこれ如何にw
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