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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
502/659

ノリノリ★

「ぎゃははははは! 間抜け、間抜け、大間抜け~!」


 肉塊の怪僧はドスンドスンと飛び跳ねて、(おお)はしゃぎにはしゃいだ。

 その度に全身の弛んだ肉ひだがブルンブルンと、醜悪に震える。


 ロード・ハインマインは、快感だった。


 底抜けに()()鹿()な探索者どもは彼の見事な計略にはまって、“雷の間” にまんまと入り込んだ。

 “雷の間” はその名のとおり足を踏み入れた()()()の頭上に雷を落とす、愉快・痛快・爽快な、ハインマイン自慢の部屋だ。

 轟雷の直撃を受けた()()は肉体を燃やし尽くして、“灰” になってしまう。

 後に残されるのは真っ白な灰と、肉の燃えた臭いだけというわけだ。

 ロード・ハインマインは、この臭いが大好きだった。


「ぎゃははははは! ひひひっ! う~~~っ!」


 ダン、ダン、ダン!


 足首への過度の負荷も構わず、肥満漢の怪僧は足を踏み鳴らす。


 自分は世界最高の賢者だ!

 またしてもそれを証明してしまった!

 たまらない! たまらない!


 肥大した身体に詰まった、それ以上に肥大した自我。

 それがロード・ハインマインだ。


 自分が世界で一番、賢いと思っている。

 自分が世界で一番、偉いと思っている。

 自分が世界で一番、尊いと思っている。


 肥大した自我は認知を歪ませ、歪んだ認知はロード・ハインマインだけの歪んだ世界を幻出させる。

 迷宮の一画に築かれた俗悪なだけのこの寺院こそ、ロード・ハインマインの歪んだ精神が具現化した世界なのだ。


「ロード・ハインマイン世界一の賢者♪ ロード・ハインマイン世界一の支配者♪ ロード・ハインマイン世界一の君主(ロード)♪」


 口角の端から涎を垂らしながら狂喜する姿はまさしく――。


「――俗物ですね」


 突然響いた清澄(ルーシディティ)な声に、ロード・ハインマインは飛び上がった。

 “雷の間” から何事もなかったように、六人の探索者が出てくる。

 真ん中に立つのは白を基調とした僧衣をまとった聖女。


「僧正様、ただいま戻りました」


「げええええっっっ!!!?」


 自称世界一の賢者は、背骨が折れるほどに仰け反った。


◆◇◆


「あらあら、そんなに仰け反ったら “セルフ鯖折(さばお)り” ですよ」


 びっくりたまげて背骨が折れるほどに仰け反るロード・ハインマインに、にこやかに微笑みます。


「な、なぜだ!? なぜ生きている!? なぜ灰になっておらん!?」


「備えあれば憂いなし――ってやつだぜ。ロード・ハインマイン」


 背中から声がしてパーティの後ろから、ヒョコヒョコと()()が進み出ました。


「お、おまえは、エセ霊媒師の “ダック・(ショートの)オブ・ショート(アヒル)” !」


「ガァ! 久しぶりだな、生臭坊主のハインマイン!」


「ば、馬鹿な! いったいどこから湧いて出た!?」


「いざという時は『後で会おう』と “全透(オール・グラス)” と “静寂(サイレンス)” の魔法で姿と音を消して、側に付いていてもらっていたのです」


 口から心肥大した心臓が飛び出るほど驚いている僧正様に、事も無げに告げます。


()()に侵入する際の常套手段ですよ」


「おのれ、騙しおったな~~~!!!」


「どの口が言うのですか」


「だ、だが、なぜだ!? なぜあの轟雷を受けて無事でいられるのだ!? いったいどんなインチキを使いおった!?」


「こいつのお陰さ」


 ショートさんがそういって、翼端に握った杖を差し出します。


「そ、それは “雷轟(らいごう)の杖”!」


 黄色く濁った眼球を見開く、ロード・ハインマイン。


「どうして貴様がそれを!? その杖は七階の “炎の大王と女王” の宝のはず!」


「なぁに、ちょうど直前の仕事がそのふたりの “夫婦喧嘩” の仲裁だったもんでな。報酬に譲り受けたのさ。()()()()寺院なんていかにもな場所に入るんだ。しっかりと風雷の対策はしておかねえと。避雷針代わりってわけよ。ガァー!」


「つまりあなたは最初から、わたしたちの掌で踊らされていたわけです」


 そしてわたしはスチャッと、斜めに構えました。


()()()()の迷宮探索者の一番弟子であるこのわたしが、あなた如きに出し抜かれるわけがありません! 一昨日来やがれ――です!」


 ビシッ!


「し、史上最高だとぉぉ!?」


「そうです、史上最高です。当然()()()なんて、相手にもなりません。かすりもしません。一ミリぽっちも眼中にありません」


((((((……ノリノリだな、聖女さま))))))


 なにやら複数の生温い視線を感じますが、キニシナイ。


「とにかくこれで()()()()はクリアしました。あとはあなたを煮ようが焼こうが自由にできます」


「は、謀りおったな~~~!!!」


「わたしたちはこれでも “(グッド)” のパーティですので。いろいろと面倒な手続きを踏む必要があるのですよ」


「これが “善” のパーティのやることか! 聖女の言うことか!」


「あ、わたし “混沌にして善(カオティック・グッド)” なので、その辺りは全然気にしないのです。目的が正しければ『何をやってもよかろうなのだ~!』な人なのです」


 悪しからず。


「ムキーーーーッッッッ!!!」


 怒りにドス黒く染まる怪僧に、表情と声を真面目にして告げます。


「あなたの話はショートさんから聞いていました。普通にお願いしても協力をしてくれないことはわかっていたので、一芝居打たせてもらったのです」


「俺たちも手荒な真似はしたくない。知っていることを話してもらおう」


「ぐぬぬぬーーーーっっっ!!!」


 一歩踏み出た隼人くんに、ロード・ハインマインが後ずさります。

 と次の瞬間、


「ぎゃはははははは! ならばわしの方から手荒な真似をしてくれるわ!」


 突然狂ったように哄笑すると、醜く膨張した僧侶はいきなり強気になりました。


「吹けよ、風! 呼べよ、嵐! いでよ我が守護神――出てこいシャザーン!」


 両手を天に掲げて叫ぶ、ロード・ハインマイン。


 するとどうでしょう!

 強烈な妖気が辺りに漂い始め、蒼白い半透明な巨人となって現れたのです!


挿絵(By みてみん)


「ぎゃはははは 見るがいい! そして恐れるがいい! これぞ我がカミカゼ寺院の守り神、“風の大王ダイジン” だ!」


 “大気の巨人(エアー・ジャイアント)” より、さらに強大な精霊力。

 カミカゼ寺院に祀られていたのは、風の精霊王 “ジン” だったのです。


「ふむ、一応看板に偽りはなかったってわけか――殿下、出番だぜ!」


「オウ~~~ン!」


 ショートさんが叫ぶなり “全透” の呪文を切ったオウンさんが、雄叫びと共に姿を現しました。


「げぇ!? “狂気の暴走者(マッド・スタンピード)”!」


 またも仰天する、ロード・ハインマイン。


「ひ、卑怯だぞ! 次から次へと!」


「何を言っているのですか。わたしはちゃんと言いましたよ、“全透” の呪文を使ったと。隠し球が一人しかいないのなら “透過” の呪文で充分ではないですか」


 人の話を聞いてないから、そんなに驚くことになるのです。


 とにかくこれでキャスティングは完了。

 役者が揃って、いよいよ第三層のラストバトルです。

 

 さあ、盛り上がって参りました!



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― 新着の感想 ―
[一言] 今回はこちらで書かせて頂きます。 「ノリノリ」楽しませて頂きました♪ 前回から、エバちゃん達が余裕そうでしたので、心配することなく見てましたが、ハインマイン、無様ですね…w (私は雷撃で焼か…
[一言] 憎まれっ子世に憚ると言いますが、なんでこんなのが生き残っているのやら。 この場にいる全員でボコボコにしてやりましょう。 多分説得すれば、ジンも寝返ってくれると思いますw ……個人的に、エバ…
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