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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
465/658

構造物★

 その扉はキャンプを張った暗黒回廊(ダークゾーン)の出口から、一二区画(ブロック)ほど離れた場所にありました。

 一二区画は、約一二〇メートル。

 迷宮では同じ距離でも一分で辿り着けるときもあれば、延々と数時間にわたって歩かされることもあります。

 時空が歪んでいる=時間的距離が歪んでいるのです。

 今回は幸いなことに数分で、扉の前に立つことができました。

 その扉にはアカシニア文字で、


(スピリット)のコンサルタント (よろず)相談承り(マス)


「どうやらここで間違いなさそうだな」


 朗らかさが特徴の早乙女くんの声が、緊張に滲んでいます。

 頑丈そうな木製の扉には案内の他にも、見たことのない呪術的(シャーマニック)な文様が彫り込まれていました。

 

「五代」


「……ああ」


 隼人くんにうながされた五代くんが扉に近づき、他の五人は遠巻きに彼を見守ります。

 盗賊の七つ道具(シーブズツール)を取り出し、慎重に扉を調べる五代くん。

 その背中がジグさんと重なり、彼の今が思われます。


(……いえ今ではなく、もう一〇〇年も昔の話なのですよね)


 “林檎の迷宮” の探索はどうなったのでしょうか。

 エルミナーゼ様は無事に救出されたのでしょうか。

 レットさんたちは誰一人欠けることなく、リーンガミルを離れられたのでしょうか。


 わたしがいなくなったあと、あの人は……。


「鍵はかかってない。罠もな」


 作業を終え扉から離れた五代くんの声が、わたしを現実に引き戻しました。

 危険な兆候です。

 漫然と物思いに耽ってしまい、目の前の作業に集中ができていませんでした。

 他の人に気づかれないように軽く頭を振って、気持ちを引き締め直します。


「よし、行くぞ」


 隼人くんがうなずき、突入を指示。

 ハンドサインでのカウントダウンのあとに早乙女くんが扉を蹴破り、武器を抜いた前衛の三人が一気に躍り込みました。

 すかさず続く後衛。

 扉の先でわたしたちを待ち受けていたものは――。


「な、なによ、これ……」


 ()()を目の当たりにして、田宮さんが呆然と呟きました。

 他のメンバーも田宮さんと同じ物を見て、言葉を失っています。

 扉の奥は広大な空間でした。

 ですが、わたしたちの視線を奪っていたのは空間そのものではなく、視界を圧している――。


「……宇宙船?」


 馬鹿げた言葉が、唇から漏れます。

 でもそう形容するのが、一番しっくりくるからこその呟きです。

 扉の奥にあったのは横倒しになった巨大な……構造物でした。


「言われてみれば確かにそうも見えるが、俺にはデザイナーズマンションに見えるな。奇抜な」


「こんな生物的なですか? わたしには、その……クジラに見えます」


 わたしの漏らした言葉に隼人くんが反応し、さらに安西さんが答えます。


「暗闇で象を触る……だな。暗黒回廊(ダークゾーン)じゃねえけど」


 実家が仏寺だからでしょうか。

 早乙女くんが、難しい顔でうなづきました。


「印象を言い合ってても仕方ねえだろ。あれが何か結論を出すのは調べてからだ」


 五代くんがうんざりした様子で言い、誰もその正しさに反論できません。

 わたしたちはいつもの列順で一列縦隊を組み、構造物の周囲を調べ始めました。

 広間自体は、南北一二×東西五区画(ブロック)の面積があり、人によっては宇宙船にもマンションにもクジラにも見える構造物は、そのほぼすべてを占有しているようです。


「見ろ、扉だ」


 やがて広間の北の端に達したとき、五代くんが構造物の突端に入り口らしきものを発見しました。

 緩やかなスロープの先に設置されていて、非常用のランプのような明かりが明滅しています。


「いかにもな感じね……どうするの?」


「踏み込むのは周りを全部調べてからにしよう」


 田宮さんに答える隼人くんは、あくまで慎重でした。

 まだ構造物の西側に沿って歩いたに過ぎません。

 まずは周囲を完全に偵察しておくべきでしょう。

 反対の声はあがらず、わたしたちは一旦扉を離れ、今度は構造物の東側を南下しました。


「他に入り口はなさそう……」


 広間の入り口まで戻ってくると、安西さんが羊皮紙に地図を描き込みながら漏らしました。

 地図上で見ると構造物は、瓢箪(ひょうたん)形とでもいうような輪郭をしているのがわかります。

 全員がうなずき今度こそ扉を開けるために、再び北に向かいます。


「ドワーフの話では守護者(ガーディアン)がいるらしい」


「それもかなり手強いのがね」


 再度扉が見える位置まで戻ってくると、隼人くんと田宮さんが扉を見つめたまま呟き合います。


「イロノセさんによるとあの扉の鎖は、わたしたちみたいな人間を守護者から守るために巻かれていたらしいし」


「どっちにしろやるしかないんだろ? なら早いとこ片付けちまおうぜ」


「いいだろう――」


 戦意旺盛な早乙女くんに、隼人くんが突入を決意しました。

 全員が武器を抜き、まずは五代くんが扉につながるスロープを登り始めました。


「ぼ、防衛用のレーザーガンとかないよな」


「黙って」


 緊張のあまりでしょうか? 軽口を叩いてしまった早乙女くんを、田宮さんが叱責します。

 やがて視線の先で、五代くんは何事もなくスロープを登り切りました。

 ハンドサインで “来い” の合図が示されると、わたしたちは速やかに扉の近くに達しました。


(――鍵も罠もなし)


(よし、行くぞ!)


 バンッ!


 五代くんが迅速に扉を調べ問題がないことを確認すると、わたしたちは間髪入れずに扉を蹴破りました。

 即座に立ち塞がる、複数の人影。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 “呪い師(カンジャラー)” ×4

 “ドワーフ戦士(ファイター)” ×4


 そして青黒い鎧をまとった――。


挿絵(By みてみん)


 “守護者(ザ・ガーディアン)” !



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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味、一番きついのエバなんですよね。 先駆者、高レベル者として周りのフォロー、最終的な目的が一人だけ違う、大切な人と分かれ離れ。 癒やしがあって欲しいです。
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