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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
422/659

そういうときもある。

「あ~、やっぱりまだ全然片付いていません」


 淑女協定に基づき某客室に入ると、某さんが()()()()()()()部屋の真ん中で、ぽつねんと立ち尽くしていました。

 衣類だの武器だの鎧だのが、あっちにポイポイ、こっちにポイポイポイ。

 明日にはリーンガミルを発つというのに、“焔爆(フレイム・ボム)” を受けたようなこの散らかり様。

 まさに “非常の人” アッシュロード()さんの面目躍如です。

 日常生活では、これっぱかしも役に立ちません。


「……あ? なんだ、おめえ?」


「なんだと言われましても。お当番ですよ、今日の」


「その言い方やめろ、卑猥だ」


 臭い顔をするアッシュロードさん。


「いいからどっか行ってろ。俺ぁ、これから本気出すんだ」


「本気を出して、ここからさらに散らかすのですか? いいからあなたの方こそ、ベッドの上にでも避難していてください」


 そういうとわたしは、ドシドシとアッシュロードさんの背中を押して()()()()()


「……あ~」


 決まり手、押し出し。ライスライトの勝ち。


「さて――それじゃやりますか!」


 ムンッと僧衣の袖を捲ると、わたしは今度こそ部屋の片付けに掛かりました。


「……出会った頃は、曲がりなりにも素直な娘だったのに」


 出会った頃は曲がりなりにもハードボイルドだった誰かさんが、追いやられたベッドの上でブツブツ言っています。


「あなたにはあなたに、わたしにはわたしに向いた仕事があるのですよ」


 結局アッシュロードさんはそれきっり黙り込んでしまい、つまらなそうに部屋が片付いていく様子を眺めていました。

 あとで遊んであげますから、もう少し我慢しててください。


「……なぁ」


 少ししてからアッシュロードさんが、珍しく遠慮がちな声を出しました。


「なんです?」


「……おめえ、いいのか?」


「なにがです?」


「……だから、このまま(けえ)っちまってだよ」


「……」


 一瞬、しわくちゃの衣類を伸ばしていた手が止まりました。

 まったくどうすれば、こうもしわくちゃに出来るというのでしょう。


「良いも悪いも、他にどうしろというのですか。“フレンドシップ7” を抜けて、隼人くんたちのパーティに入れとでも?」


 再び衣類をピンピンと伸ばしながら、わたしは答えました。


「そんな不義理なことはできませんよ」


「……そりゃ、そうだけどよ」


 なんとも煮え切らない口調のアッシュロードさん。


「……ちっとばかし、割り切り(ドライ)すぎなんじゃねえかと思ってな」


「割り切らなければやっていけませんよ。世界三大地下迷宮の最深部を目指すのです。いくら友だちの頼みだからといって、はい、いいですよ――なんて言えるわけがないではありませんか」


「……」


「わたしはすでに “フレンドシップ7”の一員であり、城塞都市 “大アカシニア”の探索者ギルドに席を置く身なのです。“呪いの大穴(あの迷宮)” はわたしの迷宮ではないのです。そもそも――」


「……そもそも?」


「わたしはあなたの()()()なのですから。持ち主のあなたが帰国する以上、わたしだけが残るなんてそんなこと、契約的にも、法律的にも、道義的にも、愛情的も有り得ません」


 ぐぅの音も出ないアッシュロードさん。


「進むべき道は前にしかないのです」


「……おめえ、ますます優等生ぶりに磨きが掛かってきたな」


 ぐぅの音の代わりに、ため息を吐くアッシュロードさん。


「……でもな、若えんだから道が一本だとか思い込むなよ。少し身体の向きを変えるだけで、後ろに続いてた道だって前に伸びてることになるんだからよ」


 再び止まる、わたしの手。


「ど、どうしたのです、急に大人ぶって」


「……俺ぁ、大人だ。それも悪い部類のな。俺だけじゃねぇ。おめえの周りには良い大人がいねえ」


「そ、そんなことありませんよ! ドーラさんもトリニティさんもボッシュさんも、皆さん素晴らしい人で尊敬しています! もちろんあなたも!」


「……探索者としてならな。だがそれが本当におまえのためになっているのか」


「もちろんなっていますとも! わたしも探索者なのですよ!?」


 バンバンバンッ! と埃なんてついていない真新しい礼服を叩きます。


「アッシュロードさん! いったいどうしたというのですか!? 急に良い大人に目覚めてしまって! 何か悪い物でも食べたのですか!?」


 わたしの剣幕にアッシュロードさんは、


『…………そういうときも、あるんだよ』


 としょんぼり呟いたきり、今度こそ本当に黙り込んでしまいました。


 まったくこの人は!

 自分のせいでわたしが友だちと別れたと――元の世界に帰らないと罪悪感に駆られているのですから!

 ええ、そうです! そのとおりです!

 でもそれは、五週遅れの罪悪感です!

 不器用! 鈍感! クソ真面目の聖人()()のコンコンチキ!

 もう知りません!


 プイッ!


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「…………ごめんなさい」


「…………そうときも、ある」


「…………うん」


 女王陛下付きの侍女メリッサさんが、寺院に運び込まれた隼人くんたちの急を告げに現れたのは、わたしが目尻に浮かんだ涙を擦って、グスッと鼻をすすったその時でした。



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、林檎は1で13超えたやつの移籍前提だったらしいしな。 Lv7のパーティではよほど敵運に恵まれなければ即死だろう。 あるいは寺院に運び込まれたということは誰かが回収したか生存者いたとい…
[一言] 即落ち二話w
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