表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮保険  作者: 井上啓二
第四章 岩山の龍
330/659

運命の鎧★

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 それは、聖銀に輝く五つの武具であった。

 ここからほど近い、もうひとつの大迷宮と連結された次元回廊(ワームホール)を通り現れた。


 ひとつは、兜。

 ひとつは、鎧。

 ひとつは、盾。

 ひとつは、篭手。

 ひとつは、剣。


 それぞれに象嵌された大粒の金剛石が、七色の光彩を放つ装具たち。


「まさか、あれは」


 アッシュロードの頭上に出現した五つの輝きを見て、ガブリエルが喘いだ。


「…………そう、あれこそ強大な天敵に蹂躙されるしかない、か弱い人間を憐れんだ女神ニルダニスが造り与え賜ふた、“伝説の武具”

 埋め込まれた神石の加護により、致命(クリティカル)石化(ストーン)(ポイズン)吸精(エナジードレイン) 。あらゆる状態異常に完全に抵抗し、巨人(ジャイアント)不死属(アンデット)竜属(ドラゴン)(アニマル)魔族(デーモン)、あらゆる敵の攻撃を減殺する。

 剣には風の、兜には氷の、鎧には護りの、盾には癒やしの、そして篭手には究極の破壊の尽きることのない力を宿し、資格所有者の求めに応じ次元回廊を通じてあらゆる時空に出現、窮地を救う。

 対高次元生命体(天使・悪魔)究極決戦兵器―― “運命の騎士” の装備だ」


「……あれが “K.O.D.sナイト・オブ・ディスティニー・シリーズ” ……」


 ドーラの説明に、ガブリエルは呆然と呟いた。


「……あれが、ルシフェルを倒したニルダニスの鎧……」


 そしてドーラは二〇年ぶりに見るその姿に、胸が張り裂ける思いだった。

 かつてドーラは城塞都市 “リーンガミル” に穿たれた大地下迷宮で、この武具を……武具を身につけた男の姿を、幾度となく見ていた。

 数奇な運命と悲しみの末に、女神の試練を潜り抜け “運命の騎士ナイト・オブ・ディスティニー” となった、今よりもずっと若く同じように孤独だった男……少年。


(……またそいつをまとうのかい……………………ミチユキ……)


 結局、自分の人生はこの男の傍観者でしかないのか……。

 理解しているつもりだった現実を突き付けられたドーラの眼前で、アッシュロード(ミチユキ)が命じる。


「――装着」


 五つの武具が再び量子に分解され、煌めく光粒子となってアッシュロードにまとわりつく。

 次の瞬間そこには、聖銀に輝く鎧をまとった騎士が立っていた。

 蒼白い聖光を放つ装甲で、全身を余さずに包んだ金剛石の騎士。

 今正統なる資格所有者の求めに応じ、主の危機を救うため、伝説の武具が二〇年ぶりに装着されたのである。


「知ってるか? この鎧にとっちゃ、天使(テメエら)も魔族と同じ悪魔系(カテゴリー)だってことをよ」


 装甲の奥から、アッシュロードの声が響く。

 それはくたびれた保険屋の声でありながら、そうではなかった。

 そこには微塵の疲労も倦怠も停滞もなかった。

 むしろ言葉の端々からみなぎる不自然なほどの精気が、普段の保険屋を知る者の不安をいや増した。


「……貴様っ」


 痛烈な皮肉に、やはり強靱な装甲に覆われたミカエルの顔が、抑制しきれない不快感に歪む。

 突如として現れた強大極まる気配を前に、切り離したはずの不必要な感情が甦ってくるのを抑えることができない。

 不快感は敵愾心に変わり、敵愾心は怒りに結び付く。


「下等生物が、身のほどを知れ!」


 雷光をまとった神剣が、必殺の念と共に振り下ろされた。

 アッシュロードの手中の “退魔の聖剣 (エセルナード)” が即座に反応。

 主を護るため、十字形の鍔に象嵌された金剛石がブンッ! と震え、刀身が風をはらんだ。

 “烈風(ウィンド・ブレード)” が発生し、太陽の軌跡を描く大天使の剣を、白刃を散らすことなく弾き飛ばす。

 同じ風属性の力を感知し、まるで気負っているかのようだ。


 神鎧の兜の奥で、ミカエルは目を見張った。

 今、眼前の男は何もしていない。

 ただ無造作に剣を握っていたにすぎない。

 しかしその剣が意思を持って動き、大天使の斬撃を防いだのだ。


(……ニルダニスっ)


 ここより遙か高次元に存在する “宇宙的規模の集合意識”

 その中でもことさら母性が強い部位に向かって、ミカエルは呻いた。

 なぜ、このような下等な生物に力を貸すのか。

 我らの方が、あなたに遙かに近しい存在ではないか。

 だが、それでもやはりミカエルは天使の軍団を統べる天界の長だった。

 昂ぶりを鎮め、不必要な感情を切り離すよう自らを戒めた。

 ニルダニスが助力している以上、これは互角の闘争。

 死力を尽くさねば、敗北も有り得る――と。


 対するアッシュロードも、兜の奥で顔を歪めていた。

 胸に走り続ける激痛。

 鋭い牙を持った何かに、心臓が今にも食い破られそうだった。

 

(……どうやら、()()()()()()()があるらしいっ)


 クローズド・ヘルムで幸いだった、とアッシュロードは思った。

 面頬の奥の表情は脂汗に塗れて苦痛に歪み、二目と見られない有様だ。

 そのくせ、隅々まで油を差したように身体は動く。

 甲冑に動かされているようでさえある。

 心臓が破裂する前に、ケリを着けなければならない。

 要するに


(“ガンガン行こうぜ” ――だ)


「――ガブ、デカいのがくるよ。今度こそ気張りな」


 ふたりの動きが止まったのを見て、ドーラが声だけで励ました。


 黄金の鎧と聖銀の鎧。

 太陽の神剣と退魔の聖剣。

 天使と人間――。


 神に比肩する力を持つ者同士の、後先考えない全力での戦いが始まる。

 世界が持ちこたえられるかどうかは、今度こそ背後の “熾天使(セラフ)” が戦いの影響を封じられるかに掛かっている。


「わかっているわ。これ以上、()()()()()ことには絶対にしない」


 ガブリエルが背中の翼を広げ、その時に備える。

 地軸が傾ぎ、星々が啼く戦いが、まもなく始まるのだ。

 そして、天使と人間は同時に動いた。


 天使の炎の呪文を、人間の氷の息吹が吹き消す。

 人間の障壁を天使の神剣が切り裂き、天使の盾を人間の聖剣が打ち砕く。

 天使が生物の頂点に立つ生命力で瞬く間に傷を癒せば、女神の造りし鎧をまとった人間も同様の速さで回復した。

 ふたつの強大で異質な力の激突は、迷宮を、岩山を、大地を揺るがした。

 そして、その影響を最小限に抑え込む、もうひとりの天使。

 全開でぶつかり合う三つの力は互いに一歩も退かず、急速に臨界に近づく。


 大天使が持てる力の全てを注ぎ込み、究極の破壊呪文を投げつけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 強大な力を何時でも使えるってのは面白くないですからね。 ペナルティがあったほうが良いですよね。 にしても、K.O.D.sを装備できてよかったです。 アイテム8個持ってるから装備できない、っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ