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迷宮保険  作者: 井上啓二
第四章 岩山の龍
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パスポート

「まったく()()()()の波動を感じて、すっかり目が覚めちまったぜ!」


 カパッと雑嚢の上蓋が開くと中から顔を出したのは……。


「――イェィ、エバ! 久しぶりだな!」


 赤と青の派手な模様のケープを羽織った、ノリノリな様子の…… “カエルさん” ……でした。


「「「「「「……え?」」」」」」


 わたしだけでなく、パーティの全員が呆気に取られました。


「なんだ、なんだ? 全員そろって間抜け面晒して? ――ははぁ、なるほどな。わかる。分かる。ご主人(マスター)のご尊顔を拝して、ビビっちまったんだな。俺様のご主人は、確かにビューティフォーだからな」


 うんうん、と腕組みをしてうなずく……カエルさん。


「よし、おまえらとは知らない仲じゃねえ。俺が一発、その緊張を解いてやる。さあ、みなさん、御一緒に――イェィ!」


「「「「「「……」」」」」」


「なんだ、なんだ、ノリの悪い奴らだな! ――ほら、イェィ!」


 そういって、実にリズミカルに楽しげに()()()()()する、カエルさん。

 そのクネクネした動きは、とても魔力で命を吹き込まれた魔導人形とは思えません。

 ハッと気がつくと、他のメンバーの視線がすべてわたしに注がれています。


 え、えーと……。

 こ、これはもしかしてあれですか?

 ここでまた “あれ” をやれと言うのですか?

 あのわたし的……黒歴史を?


(((((んっ、んっ!)))))


 と顎をしゃくられ、もはや無言とはいえない無言の圧力。


(ああ、もう! わかりましたから、そんな目で見ないでください――そ、それじゃ行きますよ~!)


「イ、イェィ!」


 わたしはギコチナイ笑顔を顔面に張り付けて、イェィ!

 両手の親指を立てて、腰をクネクネ、イェィ!


「お、ノってきたな! さすが俺の見込んだ、エバ・ライスライトだけあるぜ!」


 カエルさんは大喜びの大満足といった様子です。


「イェィ!」


「イ、イェィ!」


「「イェィ!」」


 しばしの間だ、わたしはカエルさんと “ダンジョンナイト・フィーバー” をしました。


「ひぃ、ふぅ……あ、あの、もうこの辺で」


「おっ、そうか。久しぶりのフィーバーに時が経つのも忘れちまったぜ」


 相変わらず腰をクネクネウネウネさせ続ける(このカエルには腰があるのです)、カエルさんです。


「あ、あのカエルさん」


「なんだ、エバ?」


 パチパチと指でリズムを取りながら、カエルさんが返事だけします。

 相変わらず()()なダンスに()()()()()していて、顔も向けてくれません。


「この絵は本当に……」


「ああ、俺のご主人の絵だぜ。こんな強い魔力を持ってるお方は、あの人以外にはいねえよ。なにしろ残留魔力が強すぎて、俺のスリープモードが解け(目が覚め)ちまったくらいだからな」


「…………やっぱり」


 わたしは口の中で小さく呟きました。


「ああ、しかもコイツはただの絵じゃない」


「え?」


「当たり前じゃないか。俺のスイッチが誤作動で入っちまうくらいなんだぞ。この絵も求めてるのさ。“俺の仲間(キーアイテム)”を」


「そ、そのキーアイテムってのは何なのさ!?」


 パーシャが喰い付くように訊ねました。


「さあ、そこまでは分からねーな。でも、この迷宮のどっかにはあるんだろうよ。そーでなきゃ、誰もこの先に進めねーだろ? キーアイテムが必要ってことは、()()()()入ってきてほしいってことなんだからよ」


「「「「「「……」」」」」」


 カエルさんの言葉に、全員が黙り込みます。


「それにしてもまったく凄い波動だぜ。こいつは久しぶりに充電率100%まで行くな。しばらくスリープしなくてもいいかもしれないぜ、こいつは」


 カエルさんは上機嫌で呵々大笑すると、


「――よし、それじゃ行くか!」


 と、パンと手を叩きました。


「へっ? 行くってどこにです?」


「あ? このチェックポイントを通過するための、キーアイテムを探しに決まってるじゃねーか」


「そ、それはわかるのですが……もしかしてカエルさん、あなたも一緒に?」


「あたぼうよ。今の俺様はサンダーボルトにバリバリだからな! 大船に乗ったつもりでいろよ、“フレンドシップ()”!」


「「「「「「……」」」」」」


 パーティの全員が目配せを交わし、わたしはカエルさんの背中に手を伸ばしました。


(ええと、確かこの辺りに……)


「うわ、なにをする! やめろ――!」


 ピッ、


 ヒュ~ンンン……。


「おやすみなさい、カエルさん」


「やれやれ、とんだお客さんだぜ」


「でも、おかげでおおよその筋道は立ったよ」


「ああ」


「……キーアイテム(パスポート)か」


「あそこしかないわね」


「蜘蛛の巣の扉ですね」


 わたしから、ジグさん、パーシャ、レットさん、カドモフさん、フェルさん、そして再びわたし。

 紡がれた言葉は、パーティの意思の疎通が確かな証拠です。


「よし、戻るぞ」


 レットさんの表情に再び気力が満ち、わたしたちも力強く頷きます。


「……せっかく気合いが入ったところに水を差すようで悪いんじゃが」


 いきなり、またしても腰の辺りで響く声。


「……わしのスイッチも切ってくれるとありがたい、クマ」


 視線を落とすと、雑嚢の中から気まずそうな顔で “熊の(STATUE )彫像(of BEAR)” が見上げていました。



 ()()()のスイッチを切って再び眠らせてあげる(スリープモードにする)と、わたしたちは “魔女の肖像画” が飾られた玄室を出て引き返しました。

 長い回廊を黙々と戻り……やがて、(くだん)の扉の前に辿り着きました。

 積年の蜘蛛の巣と埃にまみれた、開かずの扉。


(……今度も、鬼が出るか蛇が出るかですね)


 ジグさんが扉を調べ、何の気配をもないことを確認すると、わたしたちは武器を手に一気に突入しました。

 そして扉の奥で待ち受けていたものは、今度も鬼でもなければ、まして蛇などでもなく……。


 悪魔(デーモン)でした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 熊さんw これは悪魔も仲間になる流れですねw
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