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短編

世界を破滅させる七柱の魔王

作者: アキラ

ケース1 渇愛故に傲慢


 それは天才だった。


 一を聴いて十を識り、十を観て百を能う


 故に、頼られた。故に、疲れた。


 やがて、その優秀を妬む者どもに虐げられる。


 それでも、天才は理想を追い掛ける。


 かつて、母より聞いた楽園を想い描きながら。


 それでも、人は群れる生き物だ。愛し、愛され、支え合い、それは天才とて例外ではない。


「こんなにも人類(すべて)を愛しているのに、どうして、愛されないのだろうか?」


 その欲望(罪火)は正しく燃えた。


『よかろう、そのためのチカラをくれてやろう』


 その欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 天才は、渇愛のチカラを手に入れた。


 楽園を実現するために、天才は同胞(ドレイ)を集め、国をつくり、第一歩を踏み出した。


 それは、正義を信じる独裁の統治機構。


 やがて、天才は世界を支配する魔王となる。




ケース2 不老故に怠惰


 勤勉な子どもがいた。子どもは幼い頃より、親の言うことをよく聞き、我儘を言わず従った。


 ある日、子どもの親が死んだ。親のお願い(命令)に従って生きてきた子どもは、途方に暮れた。大人たちを頼っても、彼らは口を揃えてこう言った。


「お前はもう子どもではないのだから、自分で考えなさい」


 それは大人たちの優しさであり、歪だった子ども(オトナ)への壊心の言葉だった。


 人は楽をする生き物だ。言われたことだけをやる、それはとてもとても楽だった。幼き頃より、それを不幸と思わなかったそのコドモは


大人になりたくない(老いたくない)


 ただ、それだけが欲望(罪火)となって心を燃やす。


『そうか、ではそのためにチカラをやろう』


 その純粋な欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 コドモは不老のチカラを手に入れた。


 老いず、餓えず、渇かず、衰えず、育たず、覚えず……


 それは、今を固定する永久の休眠機構。


 やがて、コドモは世界を停滞させる魔王となる。




ケース3 無欲故に憤怒


 平穏な村に老人が住んでいた。


 子は健やかに育ち、孫は無邪気に遊ぶ。充分な広さの家に、肥沃な土地ゆえの豊作。そこにあるのは、小さな幸せ。


 この村は、どこの家族もそうだった。だから、老人は村を好いていたし、村もまた、老人を慕っていた。


 穏やかに健やかに、後は余生を過ごすだけ。


 そのはずだった。


 ある日、村は地獄に変わった。侵略だった。


 肥沃な土地を求めたどこぞの王が、私利私欲に濡れた野望(ユメ)を叶えるための虐殺だった。


 子らの怒声が聞こえた。孫の悲鳴が聞こえた。村人たちの絶叫が響き渡った。


「なぜじゃ、なぜ……隷従すらも許されぬ……?」


 人は我儘な生き物だ。結局のところ、己の望むように自由に生きる。だがだからこそ、死こそ最も忌み嫌う束縛だ。死後に、生きる自由はないのだから。老人は生きたかった。家族と共に、村と共に。


 その欲望(罪火)は冷たい色をしていた。


『おぉ、チカラを与えようではないか』


 その欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 老人は、無欲のチカラを手に入れた。


 生きることをやめた殺戮人形。他者を拒絶し、孤独に佇む永久機関。


 それは、悪意を動力に変換する絶対の復讐機構。


 やがて、老人は世界を破壊する魔王となる。




ケース4 不死故に暴食


 死に場所を求める男がいた。


 家族を失った。故郷を失った。国を失った。主を失った。部下を失った。敵を失った。……


 己以外のなにもかもを失った。


 あてもなくただ歩く。食糧は底をつき、喉の渇きすらも癒せはしない。


 それで良い。そのはずだった。


 何処とも知れぬ場所に、遂に倒れる。


 なんにもならなかった。何も残らなかった。


「死にたくねえ……」


 人は死を恐れる生き物に過ぎない。己の生きた痕跡を残せずして、どうして男が死を受け入れるのだろうか。


 その欲望(罪火)は己の身すらも焼いた。


『美味そうだ、チカラをやるよ』


 その欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 男は、不死のチカラを手に入れた。


 餓える、渇く、育つ、覚える、傷つく、癒える、喰らう、呑む……


 それは、ケダモノと化した利己の暴走機構。


 やがて、男は世界を栄養にする魔王となる。




ケース5 好奇故に強欲


 それは凡愚だった。


 運動は得意でなく、かといって、頭も良くはない。特別なところなど何処にもなく、ただ、平凡にして愚かしくも幸福な一生を過ごすはずだった。


 ある日、凡愚の暮らす村に賢者が住み着いた。


 賢者は村人たちに惜しげもなく、知恵を与えた。


 凡愚もまた、教わり、されど、それは知識に留まった。ただ、知っているだけだった。


 人は理解できぬことに恐怖を抱く生き物だ。凡愚は、得体の知れない知識を理解するために、足繁く賢者の元に通った。されど、遂に賢者が天寿を全うしても、凡愚が理解することはなかった。


理解し(わかり)たい」


 その欲望(罪火)は身を擽るように燻った。


『ほう、ではチカラを与えてみようかの』


 その欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 凡愚は、好奇のチカラを手に入れた。


 理解するための、当て所もない終わり無き旅路。凡ゆるモノを求め、しかして凡愚は何一つ理解できはしない。


 それは、限界が分からない無知の蓄積機構。


 やがて、凡愚は世界を枯らす魔王となる。




ケース6 耽溺故に色欲


 その女は虐げられた。


 お前のせいで金が無い、お前のせいで恋人に逃げられた、お前のせいで傷つけられた、お前のせいで()()()()()……


 お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで……


 女は被虐の地獄(テンゴク)で想った。


 楽しくないのならば、何故、ワタシをここに置く?


 ワタシは(くる)しい、だって、痛い


 だから、(たの)しい


 あぁ、そうだ!この人にも、(たの)死んで貰えばイイんだ!


 「アハ!ねぇ、(くる)しい!?(たの)しい!?アハハハ!ワタシは(くる)しいよ!(たの)しいよ!だから、きっと、あなたもタノシイヨネ?」


 もはや、女にとって苦楽は同じことだった。


 人は本能(カイラク)に従う生き物の一つだ。だが、女は従える環境になかった。故に、新たな快楽(ホンノウ)が必要だった。


 その欲望(罪火)は激しく燃え盛る。


『イイわね、チカラを与えましょう』


 その欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 女は、耽溺のチカラを手に入れた。


 夢中になったのは、ただ一つ。己に快楽(クツウ)を、他に苦痛(カイラク)を。


 それは、夢見る乙女の情愛の奉仕機構。


 やがて、女は世界を幸福にする魔王となる。




ケース7 妄執故に嫉妬


 それは双子だった。明るい姉と暗い弟、騒がしい姉と物静かな弟、武術を得意とした姉と魔術を得意とした弟。


 双子は互いに互いを羨ましがっていた。


 弟は陽光が如き姉を。

 姉は月影が如き弟を。


 そして、双子は互いに互いが欲するままに、半身を学習しようと仲良くなった。


 いつまでもいつまでも、半身のそれを手に入れることは叶わなかった。


 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい……


 人は欠陥のある生き物だ。目が悪い、耳が悪い、醜い、背が低い、太りやすい、頭が悪い、足が遅い、疲れやすい……。既に己が持っている美点に目は向かず、己が汚点と他の美点ばかり目に映る。


「「手に入らないのなら、目障りだ」」


 その欲望(罪火)は昏く舐めるように燃え広がった。


『ククク、ほれチカラをやろう』


 その欲望(養分)に一匹の悪魔が惹かれた。


 双子は、妄執のチカラを手に入れた。


 他の能力(チカラ)を蝕む毒煙。己の能力(チカラ)を鍛える溶鉱炉。


 それは、溶接された妄念の焼却機構。


 やがて、双子は世界に優越する魔王となる。

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