楓対蓮人~後編~
炎をまともに喰らった楓は床へと倒れこんでいた。
死んではいないが、かなりの重症であることは確かである。
「ゴホ・・・コハ!・・・まだ・・・私は、負けてない!『我を癒し給え』【回復呪装】」
回復呪装ですぐに回復しきれるような怪我ではない。
それに回復呪装はあくまで回復速度の上昇だけだ。火傷のようなけがを治しきるこてゃ不可能であり、煙もそれなりに吸っているはずなので回復呪装だけでは足りていないはずだ。
「私は・・・負けられないんだ!『式神よ・・・我の望みに応じ・・・・権限せよ。式神召喚・・・急急如律令』【キュウコ】」
先程まで剣に纏わせていた式神を召喚した。
あの式神は武器に宿るタイプなので戦闘能力はそこまで高くないはずだ。
「式神をむやみやたらに傷つけるものではないぞ
『彼の者の式神を現世へと返し給え』【強制送還】」
この呪術は相手との実力差が高かったり、相手が瀕死の状態だったりと相手の方が弱い状況下でしか使うことができない。
「これで分かっただろ。お前に全ての穢れを倒すことは不可能だ」
「まだ・・・まだ・・・私は戦える・・・・・死なない限り私は戦い続ける・・・・それがあの子への償いだから」
「何を言っているのかは分からんが、つまり無駄死にすることがそのあの子への償いと言う訳か。無様だな」
「な!」
「だってそうだろ。お前はついこの間穢れを全て祓うといった。だが今度はどうだ。前回は死んででも全ての穢れを祓おうとする気が見えたが、今はその気など全く見えんぞ。今はただ死んでも仕方がないといった感じだ。それを無様といわずに何と言えばいい!」
「あなたに好き勝手言われる筋合いは・・・ない!これは使う気がなかったけど・・・
『我望む!式神よ真の姿を現し給え!その力は万物をも焼き払う炎とならん!』【式神昇華】」
楓の召喚していた一本の尾を持ち、大きさは人の赤ん坊と同じくらいの金の毛並みを持つ狐は、徐々に大きくなっていき、最終的に大きさは大人数人分となり九本の尾が生えていた。
「へぇ・・・呪力が高い割には式神が弱すぎるとは思っていたけど、その式神って代々受け継がれているタイプのやつか。だがな、その程度じゃまだ弱いよ。確かにその式神はかなりの実力があるとは思うけど、式神昇華できるのが自分だけだとか思ってないよね
【式神昇華】真の姿を現せ!朱乃」
朱乃は刀の刀身を長くしていき、最終的に俺二人分近くある大太刀となった。
「これで最後だ
『炎よ纏い給え!舞い踊り給え!我が望むは敵の首なり!急急如律令!』【纏炎舞】【十六夜の舞・改・夜桜百乱】」
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「はい!そこまで!」
「な!呪装が!」
「式神の強制送還をこの数同時にか・・・・流石というべきか・・・だが、さっきの言葉は撤回してもらう
『崇め給え、傅き給え、全を統べる神となりて敵を討つ。万神調伏、急急如律令』【纒神呪】」
「へぇ・・・その年でそこまで。でもそれは危ないかな
『収め給え』」
「くそ!ここまで・・・御門島の連中は、陰陽頭はここまで強いのかよ・・・」
「いやはや、感服するよ!まさか本土の外でここまで実力をつける人がいるとはね!ここまで強いものは本土でもほとんどいないよ!それはそうとして、先程はすまなかった」
陰陽頭は頭を下げてきた。
「いや、まあ分かってて乗ったから大丈夫ですよ。御門島の人との力の差がどれほどのものか知っておきたかったこともあるんで・・・だから頭を上げてください」
「ははは!それでもすまなかった。で、だ。これで二人の強さは分かってもらえただろう!と、いうことで、だ!西の最強雲類鷲楓君、東・・・いや、本土最強の陰陽師霧ケ峰蓮人君!この二人は陽影を語るに相応しいとは思わないかい!」
「まあ、確かに実力を見た限り申し分はないが・・・・・」
「些か実力差が大きすぎやしないだろうか・・・・」
「実力差などこれからいくらでも詰められるだろう!呪力の量は楓君も御門島の者たちにも引けは取らない!あとは知識と技術、そして実戦経験を積んでいけばいいだろう!」
「おい!まて土御門有馬。僕はこいつと夫婦になりたくなどありません!」
「わたしも、です」
「それは無理だ、よ!陰陽師の全ては神託に従い、戦い続けるしかないんだ!神託の結果は過程がどう変わろうが変わることはない!」
「だったら、僕が今すぐ変えてやろうか?今、この場でお前を殺せばどうなる」
「それは無理なことだ!確かに君は強い。でもね、僕には遠く及ばないよ。それに僕が言っているのは夫婦になれじゃない。子を作れと言っているんだ。子さえ作れば別に結婚なんてしなくてもいいよ」
「私はこの男の子など産みたくないです」
「何故僕がこいつと・・・そもそも、だ。穢れは僕がすべて祓う。だから神子など必要がない。故に、俺はこいつと子作りなどしない。これは決定事項だ。こいつと子を生すことになったとしても子にそんな使命を任せる気はない」
「ふむ、困ったね・・・どうすればいいか・・・・・そうだね!とりあえずは条件付きの婚約者という体にしよう。条件は今から3年後に御門島で行われる陰陽師の大会で好成績を残すこと。それが条件だ。まあ、まずは御門島に行ける様に強くならないとね!目標は8傑に勝つこと・・・は無理だとしても、善戦することだね。その点に関しては蓮人君は不可能ではないかな?その年齢から約3年間は呪力が伸びやすい時期だからね」
「私は・・・」
「うーん?楓君か・・・・まあ、とりあえずの目標は8傑傘下の家の当主に善戦できる事、かな。まあ、これからの成長に期待と言ったところだ、ね!」
「分かった。その条件をのんでやる。だがな、僕が善戦できるようになるのは8傑ではない!僕は4神やお前に勝てる様になってやる。どれだけ時間がかかろうとも、だ」
「うん、うん!その意気は良し!分かった、君のその意に応えるとしよう。とりあえず・・・・海若君、しばらく任務の無い8傑は誰かいるかな?」
「はぁ・・・確か、基本大きな任務の無いときは自由にしてもよいと通達されている、烏鷺嘉美様が空いているかと思います。まあ、仕事を請け負ってくれるかは別ですけれど」
「ああ、彼か・・・うーん、彼か~・・・・・・如何しようかな~・・・・・そうだ!たしか彼が空いてたはずだよね!」
「もしかして、4神の方ですか?4神の方は基本的に御門島から出てはいけないはずでは?」
「今回は大きな理由があるから問題ナッシング!じゃあ、朦良君に連絡をよろしくね!」
「ああ、彼女ですか・・・流石に彼といったら怒られますよ・・・まあ、いいんですけど。彼女なら渋谷に行きたいだのなんだのって、結構うるさいですから喜んで引き受けてくれそうですよね・・・・・その手続きをするのは私なんですから、その辺考えてほしいのですが・・・・・ブツブツブツブツ」
海若さんはかなり大変な役回りの様だ。
「じゃあ、一カ月くらいで君の師匠となる人が行くからね!楓君もいろいろと教えて貰うといいよ。特に式神のことについては彼女は四神の中でも随一だよ。勿論戦闘能力は言わずとも分かってると思うけど」
「ああ、分かった。五年以内にお前を抜いてやるよ」
「五年後に僕との差が大きく開いていないといいねぇ~」
その日の会合はそこでお開きになった。
それから一週間後
「で、だ・・・何で僕が引っ越すことになっているのか説明してもらおうか」
「ふむ・・・確かにの。わしも知らんかったんじゃが、四神とお主は訓練を取るからの。少なくとも焔恢寮の設備では心もとないのじゃよ。そこでじゃ、陰陽頭様が家を建ててくれたそうじゃ。だからお主と楓さんはそっちの家で暮らしてもらう事となる」
「ちょっと待て!僕があの女と同棲だと!ふざけるな!」
「とは言ってもお主たちの住居はすでにそっちに変わってしまっておる。よって、ここに住み続けることは不可能じゃよ」
「分かった。なら一つ条件がある。僕は僕、楓は楓で自分の世話は自分ですることだ。流石に他人のことまで気にかけてられるか」
「まあ、それについては後にしてくれるかの。わしにお主らの生活についてとやかく言う筋合はないからの」
じっさまに連れられ、蓮人と楓は引っ越し先の方へと向かった。
この際も無言で、あの日以来まともに言葉も交わしていない。
「ほれ、ここじゃよ」
「え、マジで言ってんの?ここ家賃ばかにならないんじゃないの」
「そうじゃの・・・・確かここは陰陽頭様が土地ごと買ったらしいからの、大丈夫じゃよ。気にすることは無い。じゃあ、中を案内するからの。ついて来い」
じっさまの後についていき、風呂場や各個人の部屋、キッチンやダイニング、トレーニングルームなどに案内された。
「OK。大体は分かったよ。ありがとな」
「よいよい。また何かあったら聞きに来ると良いぞ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「さてと、楓。とりあえず風呂の時間と、食事についてどうするか話そう」
「・・・・・・私は訓練後すぐに入る。食事はその後でいい」
「分かった。僕はその後にでも入るとするよ。食事はキッチンが空いているときに勝手に作るから無視してくれていい」
「分かった。じゃあ、私は部屋に戻るから」
ここ一週間はこんな感じだ。
もっと正確にいうのであれば、あった直後数時間しかまともに会話も出来ていない。
「僕も部屋に居るから、何かあったらノックしてくれれば出るよ。あと今日は午後から穢れ払いに行ってくるから」
それを聞いた後、楓は自分の部屋へと戻り?蓮人は昼食の準備を始めた。
食材はじっさまが数日分は置いていってくれたようだ。