楓対蓮人~前編~
「おお、蓮人帰ってきたのか!陸も無事のようじゃな。よかった、よかった」
「じっさま!良かったじゃねぇよ!あのレベルの穢れは違う所の管轄だろ!やるとしても俺がいることが条件だったはずだ!何で三人だけで行かせたんだ!?」
「いやな、わしも最初に調べたときはまだレベル3だったんじゃよ。レベル5などここらに出るわけがないんじゃよ。ここら辺には結界が張ってある。その結界はレベル4以上の侵入自体を拒む物じゃ。レベル4以上が突然生まれたとしても、すぐに消えるはずじゃったんだ。それが今回のは突然変異種と言えばよいのかの。まあ、それが出てきたようじゃ。わしが知ったのも、土御門有馬様が教えてくださったからじゃ」
「土御門?陰陽頭か?」
「うむ。今日は会合じゃからの。お主にも伝えてあったじゃろ」
「ああ、じっさまが迎えに行ってたのか。まあ、いいや。今回は間に合ったからな。だが、次からはマジで気をつけろよ。陸たちに何かあってからでは遅いんだからな!あと、新入寮者が来たぞ。陸のことを守ってくれてたみたいだ」
「本当か?なら、陸の手当てを終えたら水ノ上神社へ行くとしよう。蓮人手伝ってくれるかの?」
「ああ、分かったよ。『穢れを掃い給え』【浄化】」
「『彼の者の傷を閉ざし給え』【回復呪装・強化】」
元々呪札には呪力が込められている。それは最低限使うのに必要な量だけなので、さらに呪力を込めることによって効果を高めたり、持続時間を長くすることができる。
陸の手当ても終えた蓮人達は楓と簡単な自己紹介をした後水上神社へと向かった。
「さてと、たしかここら辺に・・・・お、あった、あった。ほれ、早く入れ。他の者にバレるわけにはいかんからな」
「分かってるよ」
「は~い」
「分かったっす」
「こんなところに扉が・・・」
「久しぶりにここに来たな」
「ほれほれ、しゃべっとらんで早うせい」
「は~いよ」
順番に水ノ上神社の下へと入っていった。
中には偉そうな人ばかりだったが、みんなが皆じっさまには頭を下げていてとても不思議な光景のように思えた。
まあ、今までも何回かは見た事があったこともあり、そこまで反応に困ったりはしなかったが・・・それとこれとは話が別で、ともかく不思議な光景だった。
じっさまは一体何者だろうか・・・
「陰陽頭様がいらっしゃいます」
高いところにいた一人の男が突然声を出した。
恐らくだが、陰陽頭のお付きの人なのだろう。
「皆久しぶりだね。始めましての人もいるだろうから、改めて自己紹介といこう!私が土御門有馬だ!俺が陰陽師の頂点だ!挑みたいやつがいたらいつでも相手になろう!」
「陰陽頭様、進行がくれますので自己紹介はその辺で終わりにしてください。どうしても自己紹介がしたいのであれば、話を終えた後にどうぞご自由にしてください」
お付きの人にも何種類かいるが、この人は兎も角効率的に仕事を進めるタイプの様だ。
これが雇人に口を出せない人なんかだとマジで話長くなるので助かった。
「おお、そうかい?では話を戻すとしよう今回の会合の目的・・・と言うか、話の内容はついこの間下った神託についてだ!ついに!あぁ、ついに!この世界に神子が生まれるという神託が下ったんだ!よ!拍手!」
全員では無いがまばらに拍手していた。
それとは反対に全体的には大きく盛り上がっていた。
「陸さん。神子って何すか?」
「神子とは穢れと陰陽師の戦いを終わらせると言われている存在だよ」
「ヘ~、そんなすごい存在がいるんすか。ここで言うってことはこん中に神子がいるって事っすか!」
「いや、それはどうだろうね?生まれるって言っていたから、この中にはいない可能性の方が高いかな」
後ろの方で令人が騒いでいるようだ。
「では、ある人物を紹介しよう!雲類鷲楓君、前に来てくれるかな」
「マジっすか!楓ちゃんが神子ナンスか!」
「楓様なら確かに・・・」
「実力は確かだが・・・レベル6以降にはまだ勝てるかどうか・・・」
偉そうなおっさんたちが好き勝手にあれこれ言っているが、たしかに言っていることは正しいので言い返すことは出来ないだろう。
「ではもう一人!霧ケ峰蓮人君!前に出てきてもらおう!」
「蓮人もっすか!確かに蓮人は強いし納得っす!」
「誰だあのものは?」
「神子が二人もいるのか!?」
「蓮人、れんと?・・・・なんだか、最近聞いたことのあるような?」
「劉漸次様の所にいたようだから、焔恢寮の一員だと思うのだが・・・」
「では、この二人の力を知らない者も多いだろうからね!デモンストレーションも兼ねて二人には戦ってもらうとしよう!」
「おい、何で僕がこいつと戦わねばならん」
「私は戦う建前が出来たので丁度いい。戦おう」
「戦えないのなら陰陽師をやめて貰っても結構だよ。君一人の穴なら、本土から一人連れてくれば事足りよう」
「お前の言う本土の陰陽師の実力なんて見たことないから分からんが、かなり上のやつを連れてこねえと足りないけど、本土の守りは大丈夫か?」
「御託はいいよ。戦えない腰抜けやすぐに死ぬ屑はいらないんだよね。ほら、何だったかな?数年前に起こった悲劇?あの時も弱いからみんな死んじゃったんだよね!弱い屑がさっさと死んで、後処理をするのはこっちなのに、無駄に仕事を増やさないでほしいよね」
「お前今なんか言ったか?」
「屑がさっさと死んでくれて助かったって言ったよ!」
「そこまで言うなら腕の一本や二本は覚悟しておけよ。こいつを倒したら次はお前だ」
そう言って蓮人は楓の方を向く。
「と、いう事でだ。お前と戦ってやる。どこからでもかかってこい」
「なめるのもいい加減にしろ!今すぐ呪装をつけろ!」
「うーん・・・気が乗らないけど、あくまでこれは俺がアイツをぶん殴る前のデモンストレーションだしな。じゃあ、少しばかし力を見せようか
『祓い給え!清め給え!我が願いに応じ、我が身体へ宿り給え!纏神威、急急如律令!』【白麗貴人】」
「何の変化もないではないか!」
「まさか、今のが呪装というのではないだろうな!」
「『祓い給え!清め給え!救急如律令!』」
「楓様が全身完全呪装で本気だぞ!」
「あの呪装がかかっているのかすら良く分からない状態のやつが、そこまで脅威だというのか!」
「ほら、これでいいんだろ?何処からでもかかってこい。全てを防ぎ、心からへし折ってやろう」
「ふぅ。なめてると死ぬぞ!【朧蓮華の舞・裏・朧百花】」
先程もみたが、楓は完全にスピード型の様だ。
確かにそこらの人に比べれば圧倒的に早いが、はっきり言って力が足りなすぎる。
「スピードだけだな」
剣での攻撃を弾く。
「スピードが速いならこれくらい防げるかな?【裂空礁弾】急急如律令!」
「くっ!」
「楓様が防戦一方だぞ!」
「まさか、あの男は楓様よりも強いというのか!」
「よく耐えたね。では今度は【裂空礁雨】急急如律令!」
裂空礁弾が正面からの連続攻撃だとするならば、裂空礁雨は空中からの無差別連続攻撃。基本は対集団戦闘用の技だが、一対一でも範囲を絞ればかなりの高火力攻撃にも引けを取らない。
「これくらい耐えて見せろよ。あくまでこれはデモンストレーションだ。この程度で終わったら観客も納得しないだろう」
「くそ!なめるな!【十六夜の舞・裏・韋駄天】
『我が式神よ、我が名に応え現れ給え!』【キュウコ】
『式神よ我が武器に宿り給え!式神呪装、急急如律令!』【纏炎舞】」
高速で移動しながら祝詞を唱え式神を呪装させたようだ。
「ふむ、まあそれなりに実力は高いようだな。でも、まだまだ足りないな
『素は素とし、焔炎の炎を纏いて我が前に姿を現し給え』【式神召喚】
こんな所か?
『其の名宿りて、我が僕とならん』【式神隷属】名は耀とす」
全身に炎を纏った狐の式神を召喚した。
式神召喚に必要なのはイメージと一定以上の呪力。
イメージが高かろうとも呪力が足りなければ満足な能力が宿らず、呪力が高かろうともイメージがしっかりとなければまともな能力と姿にならない。
その式神召喚を戦闘中に行った蓮人ははっきり言って異常である。
「『我が名に応じ、其の姿を現せ』【朱乃】
『式神よ我が命に従い、其の姿を開放せよ』【錬金神威】」
式神には大きく分けて三種類に分けられる。
一つは楓のように武器等に宿るもの。
一つは召喚者と共に戦うもの。
最後に召喚者の武器となるもの。
種類としては上二つが多いとされ、最後の錬金のものは少ないとされている。
蓮人の朱乃が変える姿は剣だ。
正確には刀へと姿を変える。切れ味は並みの剣や刀では気付かないうちに切られているレベルだ。
「『式神よ我が武器に宿り給え』【纏焔珠】
こんな所か?お前の【纏炎舞】は」
「なんで、そんな簡単に、人の呪術をマネできるの!」
「何でって、そもそも陰陽師の基本は真似をすることだ。真似をできない時点で陰陽師としては終わっている可能性の方が高いだろ。まあ、即興で真似と自己流にアレンジできるやつは少ないらしいけどな」
まず、見ただけで真似できる時点で高レベルな陰陽師のはずだ。
それに関してはなれでどうこうできるような問題じゃない。
知識が深ければ簡単な呪術ならばマネできる可能性はあるが、それこそ陰陽頭や本土で八傑や四神と呼ばれる者たち程度だろう。
「まあ、レベル5一体とその連れ程度に苦戦している程度じゃ、知れない領域だよな」
「・・・・・」
「ここまで言われて反論できない時点でお前はもう終わってるよ」
「・・・・!」
「そんな睨んできても全く怖くねえよ。せめて行動で示せよ。ほら、何処からでもかかってこい。俺はここから一歩も動かずにお前を倒してやろう。お前の自信とプライドもろとも、全て俺が潰してやる!」
楓は高速の移動から一点突破。直接俺を狙いに来たようだ。
確かにスピードがそのまま攻撃に乗れば、攻撃力は高くなるだろう。
だが、あいつは攻撃の仕方を間違えた。そもそもの攻撃力もスピードでも負けている時点で、よりスピード重視の攻撃にして、一撃一撃の威力を下げれば、うまくいけば数分程度なら逃げられたかもしれなかった。まあ、その可能性もはっきり言って皆無に近いのだが、少なくても思考を放棄するべきではなかったのだ。
「怒りに身を任せ攻撃してくる敵ほど倒しやすい敵はいないだろうな
【蜘礁覇】」
蜘蛛の糸のように細かく、綿密に相手を罠にかける様に、正面全体に剣に纏わせた炎を拡げた。