蓮人と楓
不定期更新です
他にも書いてある作品があるので見てもらえるとありがたいです
この世界に住む人間は大きく二つに分けられる。
一つは何も知らず、平和に過ごす人間。
そしてもう一つは戦いの中に身を置く人間。
これは、千年以上続く穢れと陰陽師の戦いの物語である。
~焔恢寮~
「そう言えばさぁ、蓮人っていつからここに住んでんすか?ここって陰陽師しか住めないんすよね。そうすっと陰陽師見習いは見習いで学生寮があんじゃないっすか。あいつ俺が来た時にはもういましたよね?そん時あいつまだ12っすよ」
「ああ、蓮人か。まあ、あいつにも色々あんだよ。あいつだって10歳の頃は出来損ないって言われてたんだぞ」
「は?あの蓮人君がですか?今じゃ陰陽師界の救世主とすら言われてますよね?」
「元々は別の女の子が言われてたんだよ」
「女の子?今はその子どうなったんですか?」
「もういないよ。さあ、もうこんな話はやめにしよう」
そこに一人の少年が降りてきた。
「おはようございます。陸、令人、冷夏」
「ああ、おはよう」
「おう。おはよっす」
「おはようございます。蓮人君」
降りてきたのは霧ケ峰蓮人。
挨拶してきたのは上から順に佳里神陸、寺島令人、獅子宮冷夏だ。
「蓮人今日から寮に新人が入る。お前と同い年だから仲良くしてやってくれ」
「まあ、ボチボチに」
「それでいいよ」
「蓮人君ってなんか冷めてますよね」
「そうっすね。何か周りから一歩引いた感じって言うか・・・それでいて穢れ払いだと自分から前に出てるっすからね。まあ、そのおかげで俺達も楽に戦えてるんで文句はないんすけど」
「以前一度、何で陰陽師をやっているのか聞いたことがあるんですけど、『罪も穢れも、全部僕が払ってやる。それがアイツの夢だから』って言ってたんですよ。陸さん、どういうことか分かりますか?」
「まあ、分かるけど・・・やっぱりその話は俺からする事ではないかな」
「そうですか・・・まあ、しょうがないですね。本人が知られたくないことを勝手に聞くわけにもいきませんし」
「そうっすか。ちょっと気になってたんすけどね。あの強さの源がなんなのか」
「強さの源はさっき冷夏が言っていた、あいつの言葉がそうだよ。これくらいなら言っても大丈夫かな」
「じゃあ、そのアイツっていうのが蓮人君の大事な人なんですね」
「そうなるね」
「何となく蓮人の強さの意味が分かった気がするっす」
「皆そろってるようじゃな。知っての通り今日の午後、入寮してくる者がおる。その者がおったら会合に向かうぞ」
「場所は?」
「水ノ上神社」
「てことは、あの方が来るんですね。信託ですか?」
「そのようじゃ。内容は知らされんておんがな」
「そうですか。とりあえず俺達は今日の任務に行ってきますよ」
「よろしく頼むぞ」
「ええ」「大丈夫っすよ」「任せてください」
それから4時間後
「ただいま」
焔恢寮に帰ってきた蓮人は家に帰り不自然さを覚えた。
いつもなら帰ってくる返事がなかったのだ。
「誰も帰っていないのか?仕事はそんなにかかるわけねえと思うんだがな」
バン!
大きな音と共に勢いよく玄関の戸は開けられた。
「玄関はゆっくり開けろって、じっさまが言ってただろ・・・・どうしたんだ?」
開かれた扉の先に居たのは傷だらけの令人と冷夏だった。
「陸が私達をかばって」
「すまねえ・・・俺達のせいっす。陸さんは禍野に連れていかれたと思うっす。家中どこを探してもいなかったんす」
「陸が・・・・分かった。場所を教えてください。僕が行きます」
「ああ、頼む。場所は・・・・」
教えられた場所へ蓮人は急いで向かった。
意外と近く走っていけば(普通にではありません)5分とかからない場所だった。
「『禍野と現を繋ぐ扉よ。我の命に応じ開き給え』【禍野戸開錠】」
一枚の紙を取り出し、祝詞を唱えると一つの扉が現れた。
「こっちに来るのは久々だな。さて、陸は何処だ?」
禍野に来ると、何故か戦っている音が聞こえた。
いくらか二人よりも実力が上とはいえ、陸が一人で二人と戦ったらぼこぼこにされる未来しか見えない。そんな陸が一人でここまで耐えられているとはつゆとも思えない。
戦闘音が響く方へ近づいていくと、ボロボロになった陸と一人の女がいた。
女の方もかなり傷ついていて、あとどれくらい持つか分かったものでない。
戦っている穢れは大きさからみて10まであるレベルで、5が一体と3が数体。
本土で出る穢れとしては基本的に最高レベルで陸が戦って勝てるのは高くても3まで。4と戦ったら時間稼ぎをするのがやっとだ。
そんな陸がレベル5とやったら数分と持たないだろう。逃げ回れば体力が続けば1時間程度なら逃げられるかもしれないが、帰ってきた二人のけがの具合からして、治癒の札を使えば数十分は持つかどうかという所だ。
と、言う事はだ。あの女がそれなりに強いと言う事になる。
レベル4に善戦できる人間でもレベル5相手に死なない確率はかなり下がり、本土に住む人間でレベル5に勝てる人間は100人といない。
レベル5に勝てるとしても、あれだけの数のレベル3と戦ったいながらでは厳しいと言わざるを得ない。
「陸、どういう状況だ?」
「あの女の子が助けてくれたんだよ。ただ状況はあんまり良くなさそうだな。もう小一時間程度は戦い続けている」
「そうか。とりあえず回復させるぞ『彼の者を癒し給え』【回復呪装】これでしばらくは大丈夫だ」
「ああ、ありがとうな」
「おい、女。助けは必要か?」
「いら、ない!穢れは全て私が祓う!それが彼女の理想!だから」
「ああ、そうか。じゃあ、しばらくはここで見とくよ。危なくなったら勝手に割り込むから」
「大丈夫。私、一人でも、この程度!『我が式神よ、我の命に応え現れ給え』【キュウコ】」
出てきたのは一匹の狐だ。
「『式神よ我が武器に宿り給え!式神呪装、急急如律令』【纏炎舞】」
式神は女の持つ二本の剣に憑き、剣は炎を灯す。
「十六夜の舞!」
超高速の連続攻撃。周りのレベル3はそれで一掃された。
「(へぇ、意外とやるんだな。でも、その程度の威力の攻撃ではレベル5を倒すには火力が足りなすぎる)」
徐々に剣に灯った火は消えていき、そして完全に消えてしまった。
「予備の霊札もない。このままじゃ・・・」
「はぁ、穢れを全て祓うとか言っておいて、レベル5如きにこのザマかよ。できもしねえこと言ってんじゃねぇよ」
「何で‥‥まだ、いるの」
「・・・代わるよ。あとは僕がやる」
「無茶!霊札は!」
「あるよ。一枚だけ戦い用のを持ってきた
『祓い給え!清め給え!』」
懐から取り出したのは一枚の白く輝く霊札。
「白銀の霊札?」
「『我が願いに応じ、我が身体に宿り給え!纏神威、急急如律令!』【白麗貴人】」
「何も変わってないけど、どうするの!」
「【裂空礁弾】急急如律令!」
蓮人の周りにあった岩が浮かび白く淡い光を纏ったかと思うと、巨大な穢れに向かって飛んでいった。
「な!?」
空中に現れた五芒星を通った岩は割れ、粉々になった岩はそのまま穢れに向かっていき、穢れを貫き祓った。
「星に眠れ」
「(・・・!!!た・・・たった・・・・一撃で・・・・)・・・・凄い」
「!?」
「そんな”力”初めて・・・見た」
「ははは・・・・」
「?」
「こんな力、呪いでしかねえよ。だがな、あいつの夢を叶えられるなら、何だってやってやるよ」
「?とりあえず・・・禍野から出ましょ」
「ああ、そうだな『禍野と現を繋ぐ扉よ、我の命に応じ開き給え』【禍野戸開錠】」
行きと同じく霊札を使い出入り口を作る。
陸は肩に担いで外へと戻った。
そして焔恢寮へと戻ろうとすると、女に手首を掴まれた。
「焔恢寮へ連れてって。途中で禍野に入ったから、ここがどこか分からなくなった」
「お前が新しい入寮者か・・・」
「何か言った?」
「いや、何でもない。ついて来い。僕達もそこに入っているから」
「ありがとう」
「別に」
陸に振動が響かないように慎重に歩くこと三十分。
蓮人たちは焔恢寮へとたどり着いた。
「ただいま帰りました。そして、え~っと・・・」
「楓。雲類鷲楓。これからよろしく」
「改めて。楓、焔恢寮はお前の入寮を歓迎する」
これが、いずれ『陽陰』と呼ばれる。少年と少女の出会いだった。