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禁忌

 ヴィンセント皇子の突然の求婚を断るなんて選択肢はなく、父親は禿げたデコが床につくくらいに頭を下げてありがたく承った。


「明日にでも国王の承諾を得て、マリアとの婚約を正式な物にするからそのつもりで。ああ、それからローレンスが買い与えた物は全て捨てなさい。あいつが選んだ物をマリアが身につけるのは我慢ならない。婚約に際し必要な物は私が用意させよう」


 と言い捨ててヴィンセント皇子はご機嫌よろしくお帰りになった。

 深夜の広間で父親も母親も兄さんもが疲れ果ててソファにどさっと座り込んだ。


「マリア、お前、いつの間にヴィンセント皇子とそんなに親しくなったのだ? あの方はローレンス皇子と違い社交界へはほとんど顔も出さず、執務室にこもりっぱなしだともっぱらの噂ではないか。私も国王に謁見を願う際に、王のお側で控えるヴィンセント皇子を拝見するくらいだぞ」

「ですよね~」

 あたしはもう疲れ果てていたので、適当に返事をした。

 何のつもりであたしと結婚しようなんて思ったのか、とか、何とか断れないかなぁ、とかそんな事を考えていた。

 それから皇子との会話の中であれ? と思った事があったんだけど、それを聞き直そうと思ってたのにすっかり忘れてた。

 それは皇子が王妃のリベルタ様の事を魔女と言った事だ。

 単なる言葉の揶揄だろうか?

 それとも、本物の魔女とでも?


 それはない、か。

 この国では魔女は禁忌な存在だからだ。

 魔法も魔術も、グリンデルでは存在を許されない。 


 魔女は魔物を遣う闇の者。


 もちろん、グリンデル以外では存在する。

 他国では聖女と名乗って、政務に関わる魔女もいるとか。

 聖女の告げる言葉を国中の者が待ちわびている、という。

 だけど、グリンデルではいっさい通用しない。

 もちろん他国に魔女が存在するのだから、素性を隠した魔女がグリンデルに紛れ込んでいる、という事もあり得るわけだ。

 

 グリンデルが魔女を禁忌としているのは深刻な理由がある。

 二百年も昔、悪い魔女に騙され国を滅ぼしかけたダメな王様がいたらしく、何とか国は守れたがそれからもう蕁麻疹がでるくらいに魔女が嫌いになったとさ。

 という逸話がある。

 それから、穏やかな気候と芳醇な作物、資源のおかげで温和な人柄のグリンデル国民も魔女という単語には激怒するのだ。


 国王妃が魔女なんて事になったら、糾弾されるのは間違いなく、先祖が作った法で国王自身が身を滅ぼす事になるだろう。

 

 

 だからヴィンセント皇子がリベルタ様を魔女と言ったのは、よほどに嫌ってるからなんだろうな、と言う事にしとこう。

 そうだ。それがいい。うん。これ以上、やっかい事に巻き込まれたくないし。


 今日は、もう、寝よう。


 それからあたしはもぞもぞとベッドに入った。

 目を瞑ると同時に身体がどこかへ落ち込んでいくような錯覚を覚える。

 ああ、疲れたもんなぁ、今日は良く眠れそうだぁ。

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