兄上の結婚
リベルタ王妃の突然の病死発表は国民を悲しませた。
王妃は浪費の激しい贅沢な人物だったが、それでもその美しさは他国の妃と比べても格段に上で国民には憧れとカリスマ性を発揮していた。
王妃の葬儀には国民が城を囲み、涙で別れを告げる場面も見られた。
って話をあたしは兄から聞かされた。
「あ、っそう」
あたしはあれ以来、ヒッキーのニートだ。
侯爵家の自室に引きこもってごろごろしてる。
「マリア、兄さんなぁ、結婚しようと思うんだ」
「はあ? そ、おめでとう」
時々兄が部屋に来て世間の噂したり、お茶したり、なんか前より普通に穏やかに過ごせている。
今日も突然部屋に入ってきて、自分語りを始めた。
実は今まであんまりこんな風に兄妹で話をするなんてなかった。
あれ以来、あたしはお上品な侯爵家の娘を放棄し、地のままのあたしで過ごしている。
今更取り繕ってもね。
父親も母親も兄上も、それでも構わないような感じだし。
「誰とって聞かないのか?」
「え、別に興味ないけど、誰よ?」
「今な下に来てるから紹介するよ。来てくれ」
「え! もうー面倒っちいな。着替えなきゃじゃん」
「いいから早く! 先に行ってるからな」
「へいへい」
やむなく部屋着からドレスに着替えてメイドのサリーに髪を整えて貰ってから階下へ降りる。
なんせ侯爵家だ。下に来てって言われても、広くて長くて寒い廊下を延々と歩き、長い長い階段をドレスの裾を踏まないように降り、大きな広間や食堂の前を通り、中庭を通り抜け、そんでようやく辿り着くって場所だ。
その間にトイレに行きたくなったり、ちょっと座って温かい茶を飲んだりもする。
「お待たせして申し訳……」
と広間へ入っていくと、兄とそれとなんでだか白薔薇が並んでソファに座って茶を飲んでいた。
「なんだ、白薔薇じゃん。どうしたの今日は」
白薔薇とは何故だか友情……でもないけど、まあなんだ、友達っぽい感じだ。何でだか妙にあたしに懐いてるふうな感じであれからうちに遊びに来るようになった。
「どうしたのじゃないだろ、お前にきちんと紹介しようと思って」
と兄上が言った。あたしが兄上の顔を見ると、真っ赤になっている。
白薔薇を見ると微笑んでいる。
「え、もしかして結婚したいって白薔薇と?」
兄は真っ赤を通り超して黒くなった顔でうなずいた。
「えーマジ? 分かってんの? フォスター家に百年ぶりに咲いた白薔薇だよ? もしかして王妃より贅沢で甘やかされたお嬢様だよ? 侯爵家の財産なんか食いつぶされちゃうよ?」
「失礼ですわ、マリアお姉様ったら、そんなに贅沢なんど望んでおりません。私は真面目で誠意のあるエドマンド様ですから求婚を受け入れたのですわ」
と白薔薇が言った。
「え、そうなの? っつかお姉様って。でもほんとなら皇太子妃候補だったじゃん、もうちょっと待てばまたお声がかかるんじゃないの? フォスター家にしたら侯爵家よりも皇太子妃押しじゃないの?」
そう、あれか気落ちした国王が引退するって言い出すし、ヴィンセント皇子がとりあえず国王の名代で執務をやってるし、本当に何も知らなかったらしいローレンス皇子も生き方を反省したのか、側近になって国政を学んだりして頑張ってるらしい。
喪に服す意味もあり白薔薇もあたしも婚約の話は白紙に戻った。
「よく考えてみれば、私、賞賛していただくのが好きです。ローレンス皇子はご自分が賞賛されたい方でしょう? あの方とは無理ですわ。今は真面目に国政について学んでいらっしゃるようですけど、人間なんてそうそう変わりませんわ。またすぐパーティや社交界に顔を出すでしょう。ヴィンセント様は意中の方がおいでになるようですし」
と白薔薇が言った。
「そっか、そうだよね」
兄上の顔を見れば分かる。頬を赤くして白薔薇に見惚れている。
朝から晩まで白薔薇が望むだけ賞賛の言葉を捧げるだろうな。
それに……そうだ、ヴィンセント皇子にはミス・アンバーがいるしね。




