蘇った魔女
「なんて事……」
と言ったのは母親だった。
他の面々は言葉すらない。
自慢の薔薇園のど真ん中、ヴィンセント皇子が案内してくれたマリアという種の薔薇の真ん前に、美しい王妃が事切れていた。
真っ白なドレス姿の王妃の胸には短剣が突き刺さり、王妃はその短剣をしっかりと両手で握っていた。まるで自ら胸を貫き自死したようにも見える。
だ大きく見開いた瞳と張り付いた表情からは驚愕といった感情が読み取れる。
それでもリベルタ王妃の美しさは少しも損なわれていなかった。
「母上……」
と涙声で美しい屍体にしがみついたのはローレンス皇子だった。
あたしは彼らを囲んで見下ろす面々の様子をうかがった。
リベルタ王妃の遺体にしがみつき泣きじゃくっているローレンス皇子。
ヴィンセント皇子はポーカーフェイスで無表情だ。
ミス・アンバーは顔面蒼白、白薔薇は何かを考えているような顔だった。
果梨奈先輩は少し離れた薔薇園の入り口でこちらを見ていた。
自死のように見えるけどリベルタは殺されたんだと思う。
もちろん本物の魔女リベルタに。
なんで?
自分の傀儡として置いていくんじゃないの?
もしかして傀儡には用がなくなったのかもしれない。
何故……
「すぐに王都へ戻るぞ! グレイ! ウッドバース侯爵家とフォスター伯爵家には護衛をつけてお送りしろ。ローレンスは王妃の棺と共に城へ戻れ、私はすぐさま国王の元へ向かい、子細を報告する」
とヴィンセント皇子が指示を出した。
グレイ騎士はその言葉が耳に入っているのかどうか、目を大きく見開いて真っ青な顔をしていた。
両親と兄は荷造りをしなくては、とか言いながらあたふたしている。
いつの間にか果梨奈先輩があたしの側に来て(魔女が復活したよ)と言った。
「え?」
(すごい魔力だ。この城全てを覆うほどの魔力だ……とうていあたしなんかがかなう相手じゃないよ)
と果梨奈先輩はさも恐ろしそうに言った。
「リベルタの命を吸って復活したって言うの?」
(ああ、そうだろうね)
「だって、妹だって」
(魔女にそんな理屈があるもんか……自分が復活する為に育てたのかも)
「そうか、実際、本物の妹かどうか分からないもんね。娘だって噂もあったくらいだし。それにしても……何故?」
その時、あたしはリベルタの亡骸にしがみつくローレンス皇子と部下に指示を出すヴィンセント皇子、そして白薔薇にミス・アンバー、両親と兄、皆が呆然としているのを見たのだけど、その中でただ一人だけ口元に一瞬、笑みが浮かんだのを見逃さなかった。




