味方
このリベルタ王妃は傀儡だと思う。
あまりにも彼女は非力で、無防備すぎる。
リベルタ王妃になりすます為に、それなりに王妃の事を学んで人となりや性格、嗜好、癖などを覚えたんだろう。
じゃあ、誰の為にって話になるけど、それは本物の魔女リベルタだろうと思う。
魔力を失ってそうそう悪さが出来なくなり、魔力が蘇るまでの偽物を用意した。
けど魔女が忌み嫌われるこの国で、魔女の身代わりになるってどんな条件でやる?
よほど、金を積む? それともなにか弱みを掴んでいいなりにさせる?
そして魔女はどこにいる?
「誰か……信用できる人間に話を聞きたいよ」
(あたしは? 信用できないかい?)
と果梨奈先輩が言ったけど、
「そうじゃない、果梨奈先輩もあたしもこの世界じゃ、新参者だよ。あたし達は何も知らな過ぎるんだ。本に書いてる都合のいい歴史じゃなくて、もっとこの国の本質を知らなくちゃいけないと思う」
(例えば誰によ?)
「だからぁ」
部屋にこもって二日目だ。
あたしは傷が~頭痛が~と言い訳をしてベッドに潜り込んでいた。
ヴィンセント皇子やミス・アンバーが何度も機嫌伺いにやってくるけど、それも何だかなぁ。
「マリア、身体の具合はどうなの?」
とやってきたのは母親だった。
暢気な侯爵夫人のおかーさんだ。
「ええ、大丈夫です」
とあたしは答えた。
「ねえ、マリア、もう帰りましょうか」
「お母様」
「あなた、酷い目にあったらしいじゃないの。いくら皇太子様の別荘でもあんまりだわ。こんな傷を受けるなんて」
母親は包帯を巻いたあたしの腕をさすった。
「でも……ヴィンセント様のご機嫌を損ねるとまた婚約破棄をされてしまいますわ。お父様はとても喜んでくださってましたのに」
「あの人は……虚栄心が強いから。いくら王家へ嫁ぐといっても娘をこんな危険な目に遭わせて守っても下さらない方なんて……」
「お母様」
「私はね、宝石やドレスや、綺麗で贅沢な物に囲まれるのが好きだし、王家からは素晴らしい品を贈っていただいたけれど、娘を傷物にしてまでそんな物は欲しくないのよ」
「お母様……ありがとうございます」
そこで果梨奈先輩があたしに耳打ちをした。
(いいお母さんだね。あんたの事を本気で心配してる。侯爵夫人なんてすました貴族だと思ってたけど、やっぱり娘が一番可愛いんだ)
「お母様、少しお話ししてもよろしいですか?」
「あら、なあに?」
「リベルタ様の事です」
「リベルタ様?」
「ええ、あの方、ローレンス皇子のお母様にしてはお若いですよね」
「ええ、そうね。だってあのリベルタ様は妹様だから」
「ええ? 妹?」
「あら、これ言ってもいいのかしら……」
「いいですわ。話してください。私も王家に嫁ぐなら全てを知りたいのです」
「そう……では話すけど、これはあまり知られていない話なの。他言無用ね?」
「はい」
「リベルタ様がお城にいらした時にまだ小さなお子様を連れてらしたの。可愛らしいとても綺麗なお嬢様でね。妹様って伺ったけれど、本当はリベルタ様のお子様なんじゃないかとも言われてたわ」
「子供?」
「ええ、もちろん、リベルタ様がまだ国王の側室に入る前ですよ。ですから国王の御子ではありません。でも、リベルタ様はその事を周囲に隠したがっていましたから、それを知る者ももういないでしょう。もちろんお二人の皇太子様もご存じないんじゃないかしら」
「お母様はどうしてそれをご存じですの?」
「私の母が前王妃のカリナ様が正妃におなりになる時に骨をおって差し上げたんです。カリナ様は平民から側室へ上がり、それから正妃になりました。そのままの身分ではとても国王に嫁ぐのは無理でしたから、一度、伯爵家の養女におなりになり身分を作り、そして伯爵家から正妃に嫁いだというわけだったの。その時に口添えをして差し上げたのが私の母であなたのおばあさまよ」
「そうだったのですか」
果梨奈先輩を見ると、ベッドの上で母親に向かってジャンピング土下座をしている。
(その節はお世話になりました~~~)
「ええ、ですから、いろいろと内情もね、耳に入りますよ」
「お母様……リベルタ様には不思議な力があると思います?」
(ちょ、マリア、それ聞いちゃう?)と果梨奈先輩が言った。
「今のリベルタ様? それはないでしょう」
「では、本物のリベルタ様は?」
「あの方は……そうね、あったかも分からないわね。でももういらっしゃらないんですもの」
「本物のリベルタ様はどうなったの? 何故、今は妹がリベルタ様の代わりをしているの? 国王やローレンス皇子もそれを知らないの?」
母親ははあっと大きなため息をついてから、
「リベルタ様は……」
と言った。




