疑惑
ミス・アンバーと話をしているとドアの外が騒がしくなった。
「どうしたのでしょう?」
ミス・アンバーが立ち上がりドアの方へ行こうとしたので、あたしはそれを止めた。
「うかうかと顔を出さない方がいいですわよ」
「マリア様……ですが……」
ミス・アンバーは戸惑ったような顔になった。
城というのは一国の中の最後の砦だ。ミス・アンバーのように幼少から通い慣れているような人には我が家も同然、家族も同然だろう。メイドの子に生まれた男爵家で可愛がられていたとも思えないミス・アンバーには国王の住まうる城こそ、最も心休める場所だったのだろう。
ここはただの避暑地だけれど、ヴィンセント皇子がいるだけでミス・アンバーには頼もしく、安心できる場所なのだと思う。
だけど、ここにはその婚約者を襲うような輩がいるのだ。
信じたくない気持ちがミス・アンバーを軽率にさせる。
「いきなり切り込まれても不思議じゃありませんわよ」
何事も先手必勝だ。
あたしはそうやって生きてきた。
ドアがノックされた。
ミス・アンバーが緊張した面持ちでドアに近づいた。
「どなた?」
「リベルタ様がマリア様のお見舞いにと」
というグレイ騎士の声がした。
容疑者とはいえ、国王妃、一騎士のグレイにリベルタを拒めるはずもない。
「どうぞ」
とあたしが言い、ミス・アンバーがおずおずとドアを開けた。
廊下にたくさんいるだろう騎士達を睨みつけるように、リベルタ王妃が入ってきた。
扇で口元を隠し、
「怪我をされたとか」
と言いながら部屋へ入ってきた。
「リベルタ様、わざわざお越しいただくなんて、恐れ入ります。ベッドの上からで申し訳ございません」
とあたしが言うと、リベルタが笑った。
金髪で碧眼のそれは美しい笑顔だった。
四十は超えてると思うのだけど、シミ、皺一つ無い。
エステや美容整形のある時代じゃないのに、美貌を保っていられるなんてすげえな。
もしかして乙女の生き血の風呂に入ってるのかな?
魔女ってすげえな。
リベルタはベッドの方へ近づいて来た。
あたしは先程白薔薇がくれた銀のナイフを毛布の下で握りしめた。
リベルタはミス・アンバーに「お下がり」と言った。
ミス・アンバーがちらっとあたしを見たので、あたしは軽く肯いた。
まあ、ミス・アンバーが側にいたとしても、あんま助けになりそうもないし、むしろ、タイマンには邪魔になりそうだしね。
リベルタがベッドのすぐ側に立った。
「マリア、お加減はいかがかしら? 怪我をしたと聞きましたわ」
「王妃様、たいした事はございませんわ」
「それなら、よいけれど」
王妃の後ろにはミス・アンバーとグレイ騎士が立っている。
グレイ騎士はきっとヴィンセント皇子にあたしを守るように言いつかっているのだろう。
全身が緊張して、右腕が腰の剣にかかっている。
「横になったままで申し訳ございません」
あたしはベッドに横になったまま、リベルタを見上げた。
美しいリベルタ王妃は細く華奢な身体だった。
コルセットで引き詰めているとはいえ腰なんてあたしの太ももくらいしかないんじゃなかろうか。
あたしが生きていた時代とは違う。
王族といえど、貴族といえど、全ての栄養素が揃うわけでない。
そして男は馬に乗って狩りに出かけたりもするが、女は出歩くのを良しとしない風潮。
農業や工業に精を出す平民と比べて、貴族の女性は途端に身体が弱く、貧弱。
「王妃様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
メイドがリベルタの方へソファを動かしたので、彼女はそれに座った。
「ミス・アンバーもグレイ騎士もそれからサリーも外して頂戴」
とあたしが言うと、グレイ騎士の顔がぎょっとなった。
「マリア様、それは!」
「いいの、お願いするわ。リベルタ様も従者の方に席を外していただけたらと」
リベルタが軽くうなずき従者が部屋を出ると、グレイ騎士は苦虫を噛んだような顔でミス・アンバーと一緒に出て行った。




