お人形のような美しいローレンス皇子
翌日は一歩もベッドから出る事もなく過ごした。
身体中に筋肉痛が出てきて、それに石棺に入れられた時に出来た擦り傷や打撲跡が急に痛みだしたからだ。
皇子からは傷が癒えるまではベッドから出てはいけないと厳しく言われてるし。侯爵家から連れて来たメイドが半泣きでどうかお願いですから養生なさってくださいと言う。
まあ避暑先で公爵令嬢が怪我なんかしたらメイド達は酷く怒られて責任問題になる。
あたしの不注意が招いた事態でも、そこはやっぱり怒られるのはメイドや付き人だから。
打開策が考えつくまではあたしもうかうか出歩かない方がよさそうなので、しばらくは大人しくベッドで過ごす事にした。
それでもあたしが何かしでかしやしないかと、メイドが三人も部屋の中をうろついてるし、部屋の外には皇子の配下の騎士が何人もドアを守っているようだ。
果梨奈先輩は朝から姿を見せない。
あの人こそ、やたらに魔女に近寄って危ない事にならなきゃいいのだけど。
コンコンとノックの音がして、メイドがドアを開けた。
メイドは丁寧にお辞儀をしてからその主を招き入れた。
「マリア、調子はどうだい?」
ローレンス皇子がにこやかな顔で入って部屋に入ってきた。
手には薔薇の花束を持っている。
「ローレンス様」
会いたくねえな、よりによって今な。
「大丈夫ですわ。少し怠けているだけですの」
とあたしが言うと、ローレンスはメイドの勧める椅子に座った。
「気苦労が多いだろね。兄は完璧主義だから。君の皇太子妃としての学修もそこまでやらなくても、と思うよ」
「そうでしょか。いずれやらねばならない事なんですもの。少しでも早く始めておいた方がいいですわ。ローレンス様もアミィ・フォスターに少しお勉強をさせた方がよろしいですわよ。いつまでも泣き真似や可愛らしい笑顔で何とかなると思ってたら間違いですわ。ヴィンセント様とあなたのどちらが国を継ぐかは存じませんが、あなたもその気がおありなら、少しは真面目に国政について考えられたらいかがかしら」
「手厳しいな。マリア、確かに君のようなしっかりした女性なら兄の政務を盛り立てていけるだろうな。兄上がうらやましいよ」
はあ? あたしと婚約を一方的に破棄したのてめーからだろうが!
「ローレンス様、はっきり言っときますけど、私、夕べ、襲われたんですのよ? 地下の石棺に閉じ込められて、危うく串刺しの目に遭うところでしたの。何故だと思います?」
「え? 本当かい? それは物騒だな。どうして地下なんかに? それにどうして君が襲われるんだい?」
「私がそれを聞いてるんですわ」
「え、どうして僕がそれを知ってるわけがあるんだい?」
多分、ローレンスは本気で何も知らないんだろう。
この男の頭に中には酒とダンスと女の子しかないんだから。
「この城の中に私を亡き者にしたい人間がいるんですわ」
「……」
ローレンスはたっぷり二十秒間、あたしを眺めてからそれから笑いだした。
「まさか! 誰が君を? 何の目的で?」
「ヴィンセント皇子が次の国王となるのを邪魔したい人間がいるのですわね、きっと。その為には婚約者である私を消すのが効果的。ヴィンセント様は私を愛してくださってますもの。きっと意気消沈してしまうでしょう。次の国王になって国政を盛り上げていこうなんてお気持ちも薄れてしまうかもしれませんわ。そうすれば得をするのはどなたでしょうかしら?」
「え?」
とローレンス皇子は言った。
何を言ってるのかわからない、みたいな顔だった。
ローレンス皇子の策略ではない事は確かだし、ローレンス皇子の中に疑惑の芽を植え付けるのには成功したようだ。
「もしかして僕を疑ってるのかい?」
「疑ってたら、あなたのお見舞いも拒否しますし、この部屋に入っていただく事もありませんわ。ただ、ヴィセント皇子を排除し、あなたを次期国王にする為には手段を選ばない方がこの城においでるんじゃないかしら、ということですわ」
お人形のような美しいローレンス皇子の顔がこわばった。




