ヴィンセント皇子
王家の紋章入りのヴィンセント皇子の馬車はすんごく豪華だった。
馬までもが気品があり紋章入りのマントなんか羽織って偉そうな馬面をしていた。
どうぞと言う風に勧められたので、馬車に乗り込む。
本気で送ってくれるようだけど、何なんだ。
あたしは王位継承権を持つ皇子に婚約破棄されたのだから二度と王室にはお呼びはかからないだろうし、もしかした恥っさらしな娘として侯爵家からも出されるかもしれない。
それは困るなぁ……この世界で手に職なんて無理だろうから今のうちに金目も物を集めておくべきかなぁ。侯爵夫人(母親)の宝石類とか侯爵(父親)の由緒ある剣とか置物とかか。うーん。身の振り方を考えなければ、どこかの爵位を欲しがっている成金にでも売り飛ばされたらかなわないぞ。
実際、そういう輩は大勢いる。
この時代、平成なんか目じゃないほどに格差社会だ。
ヒエラルキーの頂点は王族、そして貴族。
だが領地の管理能力のない子孫達、舞踏会や賭け事で時間を潰す無能なやつらが由緒ある品を売買してしのいでいる。
そこへ目をつけた才があり財を成した商人達が莫大な持参金と共に入り込んでくるって寸法だ。商人達を下賤な輩と笑いながらもその財力目当てに、例えばあたしみたいな恥さらしの娘を結婚させるのは貴族の世界ではよくある話だった。
「くっくっく。だいぶん、焦っているようだな」
とヴィンセント皇子が言った。
向かいの席で偉そうに長い足を組んでふんぞり返っている。
「え、べ、別に」
ほほほと扇で口元を隠しながらヴィンセント皇子を観察する。
こんな人物だったっけかな?
あまり話をした事がない。そりゃそうだ。第一皇子だもん。
第二皇子のローレンスはわりとチャラいので、皇子のわりにどこかの舞踏会にはちょくちょく見かけていた。
アミィが現れてからはお相手のあたしはお払い箱だったけどね。