薔薇園
ご自慢の薔薇園てなんだ?
って事で、あたしは誘われてもいないけど薔薇園を見に行く事にした。
日はすっかり落ちている。
中庭に通じる路にはぽつぽつと外灯がともされている。
コツコツと靴のかかとが石畳に反応して余計な音を立てる。
城っていうのは不気味な物だ。
やたらとデカくて、やたらと寂しい。
国王の住まうグリンデル城なんぞは人が大勢いて、王宮御用達の商人や、国王の機嫌取りの貴族、ヴィンセント皇子が率いる国王軍、使用人などが何千人もうろうろしているから、むしろプライバシーなんぞない。
だけど、ワンシーズンしか使わないであろう避暑地の別荘はひっそりとしている。
探せばどこかにはヴィセント皇子の第一師団やリベルタやローレンス皇子の護衛などがいるだろうけど、このばかでかい城にはホームレスとかどっかに住み着いてても一生気がつかないんじゃないだろうか。
長い石畳を歩いて、ようやくたどりついた中庭はすごく美しい庭だった。
「わーーーーー綺麗」
入り口のアーチが花で覆われて薔薇のアーチになっている。
そこをくぐると、見渡す限りの薔薇。
あんまり花を愛でるような趣味はないんだけどさ、これは綺麗だ。
月明かりに照らされた薔薇園はマジ、この世の楽園のようにも見えた。
それにとってもいい匂いがする。
そーいや、果梨奈先輩、薔薇好きだったんだよね。
チームの名前も紅薔薇にしたいつって、ダサいし迫力ないから皆に却下されてた。
この薔薇、ちょっと貰って帰って部屋に飾ったら怒られるかな。
オレンジ色っぽい、大輪の花は豪華でとっても綺麗だった。
そう思って花に手を出すと「いてて」早速、人差し指がデカいトゲにやられた。
「んだよ、薔薇、舐めてんじゃねえぞ。コラ」
「それはカラルナという種の薔薇だ。母上が名前が似ているからと特に気に入っていた」
という声がして振り返るとヴィセント皇子が立っていた。
なるほど通りで強気な花だ。
「あ、あら、おホホホ。あんまり綺麗なのでお部屋に飾ったりしたいなぁ、なんて思っただけで、盗もうなんてしてませんわ」
ヴィセント皇子はふっと笑った。
「花盗人は罪にはならないが、トゲの処理をした方がいいな。明日にでも庭師に言って部屋に届けさせよう」
「あ、あら、ホホホ、ありがとうございます」
「こちらへ」
ヴィンセント皇子が先に立って歩きだしたので、そちらへついて行こうとした瞬間、
石畳の隙間に踵が入ってしまった。
「わわ!」
令嬢でもなんでもない野太い悲鳴を上げて、あたしがよろめくとさっと皇子の腕が身体を支えてくれた。
「も、申し訳ございません……」
「足下は暗いからな」
と低い声が石畳に響く。
ヴィンセント皇子の左手があたしの右手を握ったので、あたしもそのまま手を握り返した。




