囮
(久しぶりに見たけど、変わらないね。リベルタ)
「うわ! びっくりした! え? 先輩?」
自室へ戻ろうと回廊を歩いていると、ふいに果梨奈先輩の声がして、姿を現した。
やめて、薄暗い回廊でピンぼけな汚れたドレスや顔で出て来るのは。
「先輩、こっちの心臓が止まるっつうの! 急に出てくるの止めて……え、先輩、あの部屋以外にも移動出来るんだ?」
(あーなんか、あんたが来てから動けるようになったんだけど、あんた、なんかあたしの物を持ってない?)
「先輩の物? あ、持ってるっすよ。コレ、お城の方の先輩の部屋にあったから、ヴィンセント皇子に許可はもらって、形見分けっつう事でもらって来た」
ドレスのポッケから出したのは一枚の羊皮紙、これには果梨奈先輩が書いたへたくそなバイクの絵が書いてある。
(やめて、形見分けならもう少しちゃんとしたもんにしなよ)
と言いながらも懐かしそうに先輩はそれを見た。
「本当はあの真っ赤な特服、欲しかったんだけど、さすがにあれは貰えないし、大体、あたし、カリナ前王妃には会った事もないって設定じゃん? カリナ様が前世であたしの族の先輩だったなんて誰にも言えないしさ。あたしがカリナ前王妃の事を気にする事自体が怪しいからね」
(そう言えばそうだね。でも、あんたにくっついてれば動ける。真理亜、ありがとう)
「もしかしたらお城の方へも帰れるかもしれないっすね?」
(ああ、だったらいのに。真理亜、それはそうと、あの部屋にあたしの私物なんかあった? リベルタの侍従に一切合切持って行かれて、何も残ってなかったと思うんだけど)
「うん、何もなかったっすよ」
そこであたしが寝泊まりしている部屋についたので、部屋に入る前に周囲を見渡してからさっと部屋に入った。
そこにはあたしに与えられ、あたしの用事を済ませる為にあたしだけを待っているメイドが二人いた。
「湯を使いたいわ。支度してちょうだい」
と言うと、メイドは可愛らしく小首をかしげて、
「かしこまりました、マリア様」と言った。
メイド達が湯の用意をしに所へ走り去って行くのを見届けてから、
「先輩、それは囮っすよ」
とあたしは言った。
(囮?)
「そう、カリナ前王妃が書き残した小冊子が数冊ですよ? 何が書かれているのか、今頃焦ってるんじゃないっすか? あの人、けっけっけ」
(真理亜、あんたって……昔っから、悪知恵だけは人一倍働いてたっけね。でも、それじゃ真理亜が危ない目に……)
「危ない目? 先輩、あたしが何て呼ばれてたか忘れたんすか?」
(覚えてるよ……毒姫真理亜ってね、あんたキレてたもんねぇ。だけどさ真理亜、あんたはただの女の子だよ? 力になれば男には適いっこないし、ましてや相手は魔女だ。危ない事は止めた方がいい)
「先輩、やっぱり王妃は魔女なんすか。ヴィンセント皇子もそう言ってました」
(魔女さ。それもたちの悪い奴。城内の人間にはうまくごまかしてるけど、あたしには見える。魔女に不幸にされた人間達の末路がね)
「先輩って霊感あるって噂、マジだったんだね」
(そんなの知れたら怖がるでしょ? なるべく秘密にしてた。真理亜、あんたに会えて嬉しかった。成長したヴィンセントにも会えたし、だから、もう危ない事はやめよう)
「ふざけんなよ、先輩、売られた喧嘩は買うのがうちらのモットーだ」
(それは……前世の話だよ)
「いーや、勘弁しない。それにいいの? このままじゃ、ヴィンセント皇子を差し置いて、ローレンス皇子が国王になってしまうよ? そうなったら、この国はお仕舞いだって、ヴィンセント皇子が言ってたよ。派手で浪費好きな王妃とローレンス皇子とその婚約者のアミィ・フォスター、この三人で国の財源を食い散らかしてしまうってさ」
(それは……困るけど)
「でしょ!? 先輩! それにさ、ヴィンセント皇子とも約束してるんだ。ヴィンセント皇子が次期国王になるために協力するってさ、だから、もう止められないんだよ」
(ヴィンセントの為にそこまでやってくれるなんて真理亜、ありがとう。なら、あたしも頑張って力を出してみる。さっきも言ったけど、あたし結構霊感強いんだよね。祖母が霊能者みたいなのやってて。多分、転生した今も同じだけ力はあると思う。もう、何もかも諦めてたからさ、その能力を使ってどうのこうのってのは考えなかったんだけどさ、霊体になった今なら頑張ったら、ヴィンセントとあんたの力になれるかもしれない)




