駆け引き
ヴィンセント皇子が多数のメイドと男手を連れて戻ったので、彼らに家具や調度品の世話を任せてあたしはいったん自分が寝泊まりしている東の塔へ戻った。
ぶっちゃけ、うちの家族も皇子に招かれて来ているわけですよ。
父親と兄貴は近くの街で飲んだくれているか、賭け事でもして遊んでいるだろう。
高貴な方が大好きなミーハーは母親はきっと……
と予想通りに豪華絢爛たる広間でリベルタ様、いや、もう様なんかつけなくてもいい、リベルタとアミィと母親の三人で優雅にお茶を飲んでいた。
「あら、マリア、どこに行っていたの。リベルタ様にお茶にお誘いいただいたの。お前も座りなさい」
「はい、では失礼します」
と母親の隣に座ろうとして、
「まあ、あなたドレスが酷く汚れているじゃないの。一体、どこを歩いてきたの」
と母親が眉をひそめた。
あたしは自分の身体を見下ろした。
確かに、蜘蛛の巣や埃をいっぱいくっつけているし、裾のレースも黒ずんでいる。
「申し訳ございません。前王妃のカリナ様のお部屋をお掃除するようにと、ヴィンセント皇子様のお言いつけで、今、総出でお掃除中ですので私もお手伝いに行ってまいりました」
「まあ、それはカリナ様もお喜びになるでしょう」
とリベルタが言葉とは逆に不愉快そうに言った。
「そうですね、それで私、カリナ様の私物を見つけましたので、後でヴィンセント様にお届けにあがろうと思っております。亡くなったお母様の品が一つでも多くあればお喜びになると思いますので」
とあたしは言ってみた。
もちろん嘘だけど。
リベルタの顔の表情はそんなに変わらなかったけど、少しだけ声が震えていた。
「まあ、それはお喜びになるでしょう。それで、その私物というのは何なの?」
「それは……カリナ様が書き残した日誌のような物でしょうか。小冊子が数冊ですわ。品物もよろしいですけど、書き残した文というのはその方のお心を手に取るように感じ取れる物ではないでしょうか。ヴィンセント様にお喜びいただけたら嬉しゅうございます」
「あなたはそれの中身を見たの?」
とリベルタが言ったので、あたしは大袈裟に、
「まさか! 冊子の表紙にカリナ様のサインのような物がありましたので、そこから先は読んでおりません。私はそのような不作法はいたしません」
と言ってみた。
「そう、そうね。あなたは由緒ある侯爵家の娘ですものね。さすがだわ」
と、リベルタが自分でも何を言ってるのか分かってないような事を言った。
動揺してるのは間違いない。
これでリベルタの動揺を見たのは二度目だった。
「こんな汚れたドレスでは何ですから、私、着替えてまいります。リベルタ様、申し訳ごございません」
と言ってあたしは立ち上がった。
ちなみにリベルタの横に座っているアミィは、何故だかむっつりとしていた。
ヒロインなんだから、いつもはべちゃべちゃと可愛らしい声でおしゃべするのだけど、今日はなんだか不機嫌そうだ。
そう言えば、ローレンス皇子の姿も見ないなぁ。
白薔薇の君の機嫌取りなんかできないので、あたしはその場を去った。




