西の塔4
(あらら、真理亜、なんで拒否ってんの。うちの息子に不満でも?)
「いや、っちゅうかそんな真ん前でかぶりつきで見られたら、ちょっとやばいっしょ」
(いい男に育ったわねえ。最後に見たのはまだこんな小さくてさ、五歳だった)
果梨奈先輩の顔は穏やかで嬉しそうだった。
「先輩、ずっとここに?」
(うん、どうしてもどこにも行けないんだよね……)
「はっきりしときたいんですけど、先輩、さっき、リベルタ様にやられたって言いましたよね? でもみんな、国王様でさえ、前王妃のカリナ様は自殺したって思われてるンすよ」
(自殺なんかするはずない! あたし、この世界に来て、凄く幸せだったんだ。あんた達に会えない寂しさはあったけど、国王はすごくあたしを大事にしてくれてさ、ヴィンセントも生まれてくれて、でも、あの女が来てから国王は骨抜きになってしまって、あげくにあたしの頭がおかしいって吹き込んで療養って名目でこんな遠くの別荘においやってさ、ヴィンセントもまだ小さかったのに!!)
「そうですか、そんな事だろうとは思ってました。あたし、ヴィンセント様の王宮の部屋で果梨奈先輩の部屋、見ました。曼珠沙華の特服も見ましたよ。そんで前王妃が自殺とか聞いて、絶対おかしいって思って、避暑にこの別荘に招かれたんで、何か手がかりでないかと思って、この部屋見に来たんす」
(そうなんだ……ありがと、真理亜)
果梨奈先輩は涙ぐんで嬉しそう笑った。
「でも、今はリベルタ様もこの城に来てるんすよ」
(呪い殺してやろうか?)
「いやいやいや、それは……まだ早いっすよ。カリナ様が精神を病んで自死したなんて悪評を拭ってからでないと。そのせいでヴィンセント様の王位継承が危うくなってるっす」
(どういう事?)
「リベルタ様にもローレンスという名の皇子がいます。まだ国王様はお元気ですけどリベリタ様は現王妃だから、次期国王はローレンス皇子ともっぱらの噂です」
(ぬあんですって~~~)
メラメラメラと怒りの炎が果梨奈先輩についたようだ。
それからはっとしたようにあたしを見た。
(真理亜、あんたの役どころは? あたしね、ああもう自分が死ぬんだって時に、あんたの顔が浮かんで来て、助けて!! 真理亜!って祈ってしまったの。あんたをこの世界に誘い込んでしまったのは、きっとあたし。ごめんね……)
「全然、嬉しいっす。果梨奈先輩の役に立てるなら」
それからあたしはローレンス皇子に婚約破棄をされたいきさつから、今はヴィンセント皇子の皇太子妃候補だという事を説明した。
(そっか、あたし、あんたがヴィンセントの側にいてくれて嬉しい。あたしの代わりにあの子を守ってくれてるんだね。ありがとう、真理亜)
がやがやと話声が聞こえてきたので、果梨奈先輩は目配せをして姿を消した。
あたしはベッドの上の毛布を引っ張りはがして、丸めて床に置いた。
新しいシーツと毛布、それにドレスも用意しよう。
前王妃のカリナ様が亡くなったあと、この部屋にあったカリナ様の私物はきっと持ち去られたのだろう。王妃の部屋とは名ばかりで、古ぼけた調度品があるだけの暗い部屋だった。ドレスを掛けておく箪笥はあるけど、一枚のドレスも掛かっていない。
宝石箱も空っぽだし、帽子も、靴も、何もない。
こんな部屋で果梨奈先輩はひとりぼっちで死んだんだ。
幼かったヴィンセント皇子にも会えず。
さぞかし心細かっただろうな。
それに死んでから今日までも、二十年もこの城で一人ぼっちでだったなんて。
あたしだったら耐えられない。
恨んで恨んで、悪霊になって、現王妃や国王、この国の民の事だって憎んでてもおかしくないのに。
果梨奈先輩は一目であたしだって分かってくれた。
気高い、優しい、男前の果梨奈先輩は昔のままだった。




