西の塔3
あたしは動いた拍子に流れた涙を袖でぬぐった。
「マリア様!!」
グレイ騎士がそんなあたしの肩を両手で掴んだ。
「え?」
何なの、このシチュエーション。
いつの間にか見つめ合う二人みたいなんだけど。
「コホン!」
と咳払いがて、ドアの所にヴィンセント皇子が立っていた。
「何をしている」
いつもよりもバリトンボイスのトーンが更に低い。
「な、何でもございません」
とグレイ騎士が手を離した。
「閉めきっていた為に埃でいっぱいですわ。ネズミも走ってるようですし、お掃除を」
とあたしは皇子の方へ目をやると、果梨奈先輩、目にいっぱい涙を溜めて皇子にしがみついてる。
そうだよねぇ。皇子は果梨奈先輩の息子だもん。死に別れた時は五歳って言ってたし。
嬉しいよね。
でも皇子には見えていないみたいだ。
「そうだな、母も喜ぶだろう。グレイ、お前はもういいぞ。戻れ」
と皇子が言い、グレイ騎士は一瞬戸惑い、それからすぐに「かしこまりました」と言って部屋を出て行った。
「え、掃除するのに貴重な人手を……勝手に戻されたら困るんですけど、ベッドマットとか干したいし」
「私がやる!」
何だか語気荒く、皇子が言った、
「そうですね、お母様の思い出の品を触られるのはお嫌ですよね」
「そうではない!!」
と皇子が言った。
「え?」
「グレイと見つめ合って何をしていた」
「はあ? 別に見つめ合ってなんか……」
「見つめ合っていた」
「え、それは誤解っつうか」
「見つめ合っていた、こんな風に」
今度は皇子があたしの肩を両手でぐっと掴んで、あたしの真正面に立った。
あたしと皇子の背の差は三十センチはあるから、皇子の顔はいつも上の方にあるんだけど、それがなんだかだんだん近づいてくる。
え? これって。
「マリア、こういう時は目をつむるものだ」
あたしの頬のすぐそばでヴィンセント皇子が囁いた。
そ、そんな事くらい知ってるし!
目をつむろうとした瞬間、すぐ側に果梨奈先輩の顔が真横にあった。
じーっと眺めている。
「お、お待ち下さい」
あたしはそう言って、手でヴィンセント皇子の身体を押し返した。
「も、申し訳ございません」
顔を伏せて、もじもじする振りをしてから、果梨奈先輩の方を横目で見ると。
クソ! 転げ回って大笑いしてやがる!
「掃除の続きだったな。もっと人手を呼んで来よう」
そう言ってヴィンセント皇子は果梨奈先輩の部屋から出て行ってしまった。




