避暑
さすがに王族の使う別荘だ。
国王のお住まいになる城……よりは小さいけれど、この国で二番目くらいには豪華な城だろうと思う。
避暑という名目で我がウッドバース侯爵家は王家の別荘に招かれた。
ヴィンセント皇子が我が家をお招きしてくれたはずなのに、何故だが一番乗りでアミィとその侍従達がいて、ローレンス皇子もいた。
更にリベルタ王妃様まで来ていた。暇なのかな。
もちろん広大な領地に建つ巨大な別荘の城だ。
走り回って探さなければお目当ての人物に会えないほどで、アミィがどの棟にいるのか、リベルタ様がどこで何をしているのか検討もつかない。
だけど、もしかしたら誰かが皇子の命を狙うなんて事が本当にあるならば、この巨大な避暑地の大別荘はうってつけかもしれない。
アミィとローレンス皇子は朝から晩まできゃっきゃしているし、リベルタ様はあまり姿を現さない。
本当にこの城に人がいるのかどうか分からなくなるほど、静かな日々が続いた。
ヴィンセント皇子はあたしを遠乗りに連れて行ってくれたり、城の図書室で学修の続きを皇子自ら王族の歴史を教授してくれたりした。
「ヴィンセント様」
あたしは書き取りをしていた手を止めた。
「何だ?」
「セントワース事件の事をもっと詳しく知りたいのです」
「あの呪われた事件の?」
「はい」
「何故だ?」
「それは……興味があるからですわ。セントワース事件に関する宮廷図書館の書物はあらから読みましたわ。国の存亡に関わる事件でしたのに、表面的な内容がさらっと書いてあるだけでした。ここにもそれらに関する書物があれば読みたいのですが」
「そうだな」
と言って皇子は席を立った。
あたしは窓際のテーブルを陣取り、朝から本を読んだり書き取りをしたりしていた。
皇子が本を探しに行っている間に自分の中の疑問を整理してみようと思った。
もしリベルタ様が魔女だったら?
それはローレンス皇子にも受け継がれているのか?
魔女というくらいだからもしかしたら女系にしかその力は発揮しないのではないか?
魔女に果梨奈先輩、いや、カリナ王妃をどうにかするほどの、例えば呪い殺すような力があるのなら、なぜ、リベルタ様はヴィンセント皇子をその力で殺してしまわないのか?
皇子は命を狙われている危険があるような事を部下のグレイ騎士が言っていたけど、ヴィンセント皇子がこの年まで生きているということは、リベルタ様の魔女としての力は衰えているのでは?
殺すなら皇子が子供の頃の方が簡単だったはず。
疑問はどんどん膨らんでいく。
どさっと音がして顔を上げると、目の前に本の山。
「心当たりはあるのはこのくらいだな。全ての書に目を通しているわけではないからな」
とヴィンセント皇子が言った。
「ありがとうございます。それと、カリナ様がお使いになられていたお部屋を見せてはいただけませんでしょうか? 生前のまま、遺してあると聞きました」
ヴィンセント皇子は首を捻って、
「母の部屋を?」
と言った。
「はい、何も手をつけたりはいたしません。もちろん誰か人を置いていただいても結構ですわ」
「何を考えてる?」
「何も……ただ、何か手がかりでも残っていないかと」
「手がかり? 母の死に関する? 私も徹底的に調べたが何も……いや、そうだな。女性の目線で見るのも大事かも知れない。かまわんぞ。母上の部屋を存分に見て調べるがいい」
そう言って、ヴィセント皇子は腰のポーチから鍵束を取り出した。
束から一つだけ鍵を抜き出し、
「これが母上の部屋の鍵だ。母上の部屋は西棟の最上階。だが行く時は私が同行する。もし私がいなければグレイを君につけるから、必ず、グレイを伴って行くのだぞ。今、この城にはリベルタも来ているのだからな」
と言った。




