魔女
「リベルタ様が?」
「そうだ、言っただろう? 彼女は魔女だ」
「ヴィンセント様……魔女ってそれは……」
あたしは慌てて周囲を見た。
狭い部屋だけど、護衛の為の騎士が入り口に立っているからだ。
「大丈夫だ。グレイは私の忠実な部下だ。城内にはリベルタ王妃を魔女と疑う者はわりといる。我々は結託して、悪の手先から国を守らなければならない」
「そ、そうなんですか」
グレイという騎士はあたしに軽く会釈をした。
皇子は肩をすくめて再び炬燵に潜り込んだ。
ちなみに炬燵の中に暖はない。夏だしね。
だけど炬燵布団はしまわれるでもなく、卓にかけられたままだ。
果梨奈先輩が使っていたまま、片づけられる事はないんだろう。
「魔女は魔女だ。悪の手先」
とヴィンセント皇子が苦々しく言った。
「本気でそうおっしゃってるのですか?」
「本気だし、それは事実だ。リベルタは魔女で、魔術という手段で国王を虜にしている」
「ヴィンセント様、メイドがデザートをお持ちしました」
と騎士の声がしたので、あたし達は会話を止めた。
メイドが、
「デザートでございます」
と氷菓子を運んできて、炬燵の卓の上にガラスの皿に盛られた氷菓子を置いた。
冷たくて甘い氷の上にいろんな果実が盛られていて、とても美味しそうだ。
「うわぁ、美味しそう」
メイドは満足そうな顔で出て行った。
「それで? 王妃様を魔女と疑う具体的な理由でもあるんでしょうか?」
あたしは氷菓子にスプーンを突き刺しながら聞いた。
「まずは母上の残した言葉、リベルタにはあまり近寄らないように、彼女には悪しき影がまとわりついている、と」
「リベルタ様はカリナ様がご存命の時にすでにお城に?」
「そうだ。そのときの詳しい事情は私にも分からない。遠縁の貴族の娘とかいう触れ込みでやってきて、あっという間に国王に気に入られたようだ。だが王は母上を愛しておられたので、リベルタを側に置いてはいたが愛は母上にあったようだ。だがリベルタの目指したのはあくまでもグリンデルの王妃の座。リベルタが城に来てから増える続けるのはリベルタの信者。気がついた時には母上の側近までが母上の様子を逐一リベルタに報告する始末。ようやく母上は国王にリベルタの事を訴えたが遅かった。母上は神経を病んだとされて、療養の名目で別荘地に追いやられた。第一皇子の私は城に残り母上とも会えなくなり、手紙をやりとりする日々が続いた。ある日、母上が精神を病んだあげく自死すると言う知らせが届いた」
「自殺? カリナ様が? そんな……」
「母上が自死などするはずがない。母上はリベルタかその手の者に殺されたのだ。なぜなら、その前日に私に届いた手紙には、春には城へ戻ると母上の手で書かれてあったからだ」
「国王様はその事を?」
ヴィンセント皇子はくやしそうに首を振った。
「訴えたがダメだ。聞き入れては貰えなかった。別荘をくまなく探したのだが確証となるような品も出なかった」
「確かに怪しいといえば怪しいし、カリナ様が命を縮めたのはリベルタ様が原因かもしれないですが……それが魔女というのは」
「城の中には二種類の人間がいるのだ。リベルタを崇拝する者と嫌悪する者。意味も無くリベルタを盲目的に崇拝してしまう者、だが、グレイのように心底嫌悪してしまう者もいる。よいか、マリア。リベルタの魔術が効く者と効かぬ者がいるという事だ」
「魔術で人間を洗脳しているという事ですか」
「そうだ」
あたしはグレイ騎士の方を見た。
「私の家系は代々騎士団に所属する者です。男は騎士団に入るのが常で、女は修道院に入るのが常です。絶対というわけではありませんが、我が家系の女には悪しき影を見るような力があるのです。遠い祖先のどこかに魔女が紛れ込んでいるのかもしれません。私はそうそう強くはありませんが、時々、街中でも死者のような影を見る事があります。我が妹はそれが強く、王妃様を垣間見た時に酷くショックを受けておりました。王妃様には何人もの死人がまとわりついている、と」
「死人……」




