時代
「カリナ様はとても愛されていらしたんですね? 国王様に」
と聞くと、皇子は不思議そうな顔をしたが、
「ああ、母上は変わった方だったが、王はとても母上の事を愛していたと思うぞ」
と言った。
「そうですか」
果梨奈先輩、幸せだったんだぁ。
ほっとしたあたしに皇子が、
「何故だ? マリア、何故君がそんなに嬉しそうなんだ? 母上の事は何も知らないのだろう? 私はこの部屋を君に見せるのを躊躇した。母上はとても……大袈裟に言えばこの国には存在しないないような女性だった。私や国王にはどんなに変わった人間でも愛すべき女性だったが、君にとってはやはり異色な人間だと思うだろう?」
と言った。
「そんな事はありませんわ。ヴィンセント様……現世ではこの国に存在しないような型破りな方だったかもしれませんけど、前世では、余所の国ではどうでしたかしら? それに私達だってそうですわ。もし、ヴィンセント様が女性だったら? 私が男だったら? あなたが子だくさんの海賊だったら? 私が羊飼いの老婆だったら? 時代や国に合った生き方をしなければなりません。そんな風に存在をこの国だけに限ってしまわなければよいのですわ。カリナ様はどこでお暮らしになってもあの方のままで、その魅力は少しもお変わりないのですわ」
ちょ、ちょっと生意気な事を言った?
ヴィンセント皇子が固まっちゃってるよ。
「も、申し訳ございません。余計な事を言いましたわ」
「いや、不思議だな。君がそれを言うとは」
あたしは炬燵の中でぬくぬくとしていたけど、皇子は慣れない炬燵に窮屈そうだった。
立ち上がって、窓の側に立った。
「母上は庶民の出で、国王が鷹狩りに行かれた先の村で見初めたのだ。何度か訪れるうちに容姿もさることながら、気質にすっかり惚れ込んでしまったらしい。最初は王を王とも知らず、せいぜいどこかの貴族の坊ちゃんだと思ってたらしい。ふんぞり返って何様だ! お供の者にも茶を飲ませてやれ! 何の事かは分からないんだが、大事な家来が熱中症になったらどうするんだ!って怒られたらしい」
皇子ははっはっはと笑った。
そうだよ。果梨奈先輩はチームの仲間もあたしの事も妹みたいに可愛がってくれた。
本当にさ、男前だった。
だから、余計に果梨奈先輩を幸せにしなかったあのろくでなしの彼氏の事が憎いんだ。
先輩ほどの人ならきっと見抜いていたはずなのに、 どうしてあんな男と結婚なんか。
「マリア」
「はい?」
「最初に私が君に求婚したとき、以前から君に恋をしていたらどうする? と言ったことを覚えているか?」
「ええ、ご冗談を」
「冗談ではないさ。悪い意味ではないから、気を悪くしないでもらいたいんだが、君は母上によく似ている」
「ええ?」
「母上がお亡くなりになったのは私が五歳の時だから、全てを覚えているわけでないが、君のしゃべり方や目線のきりっとした所なんかがよく似ているな、と思っていたんだ」
そ、それって、目つきが悪いって事だよね……
そりゃあ舐められないようにさ、まずガンを飛ばすのが族の性だ。
あたしの腕っぷしは果梨奈先輩のお墨付きだからなぁ。
よく他のチームの連中と喧嘩もしたしね。
ぶっちゃけさ、そこらのヤンキーを気取ってる女には負ける気がしない。
「私などが前王妃のカリナ様に似ているなんて光栄ですわ」
「母上に似ているから君が気になる女性だったのは事実だが、君は母上よりも聡明のようだ」
「そんな」
「母上も賢い方だとは思っていた。だけど、リベルタには上手く欺された」
「え? カリナ様が、リベルタ様に?」
「そうだ。母上が命を縮めたのはリベルタのせいに間違いない」




