カリナ前王妃
「マリア? 一体……」
少しばかり皇子の声がおろおろしてるような気がした。
「ヴィンセント様、前王妃のカリナ様の事をもっとお話していただけませんか?」
とあたしは言った。
他人のそら似かもしれないけど、もしかした果梨奈先輩もこの世界に転生したんじゃないだろうか。あたしにとってここはきまぐれで奈緒子に借りたゲームの世界だ。
奈緒子っつうのはレディース時代のダチだ。族は一緒に引退して、あたしはやっぱり家事で手伝いみたいな感じで、奈緒子は美容師の学校に行ってた。
奈緒子はゲームオタクだったから、集会中でもいつも携帯ゲーム機を持ってた。
チームの仲間に面白いゲームを勧めたりもしてた。
だったら、気分転換にって果梨奈先輩にもゲームを勧めたかもしれない。
そして果梨奈先輩もこの世界へ紛れ込んだのかもしれない。
「私、前王妃様の事をあまり存じません。ですので、よろしければ教えていただきたいと思います」
あたしの言葉に皇子は少しばかり嬉しそうに微笑んだ。
「頭痛は?」
「もう良くなりましたわ」
「そうか、では昼食の用意を運ばせよう。食事をとりながら母上の話を聞いて貰えるかな」
「喜んで」
食事の用意が整いました、メイドが告げに来たので、あたしはそちらへ向かった。皇子は支度が整うまで用事を済ませてくると言って城の方へ戻ってしまっていた。
食事の為にわざわざ移動しなくても……といつも思う。
貴族階級の人間は食事といえば衣服を着替え、お茶会だといえば部屋を代え、ワインでもといえばまた部屋を代えるのだ。
「こちらのお部屋でございます」
回廊をぐるぐると歩き、着いた先は突出した塔の一番最上階の部屋だった。
「あの……しきたりでございますので、お履き物をこちらでお脱ぎになってくださいませ」
変なしきたりだな。
あたしは素直にハイヒールを脱いだ、
その脱いだ足先を下ろした床はふわふわの絨毯だった。
「あーーーーーーーーーー、気持ちいい、素足最高!」
はっはっはと笑い声がした。
部屋の中にはすでに皇子が戻って来ていて大きな口を開けて笑っていた。
「あ、あら、皇子」
「不思議だな、今のお前のセリフと全く同じ事を母上が言ったぞ。母上の為にこの部屋を作り初めて招待した日に」
もしかしたら前王妃のカリナ様は果梨奈先輩じゃないか、と疑っていたあたしは前王妃の為に作られた部屋を見渡した。
「もしかしてじゃねえ~~~」
いやいやいや、もしかしての欠片もねえよ。
この部屋、果梨奈先輩んちじゃん。
ああ……この国じゃ畳が手に入らなかったンだなぁ。
床はふかふかの絨毯だったけど、その上には、炬燵! 座布団! みかん! 卓の上に散らばった羊皮紙には下手くそなバイクの絵! 床の上に敷かれたままの布団! 窓際にはハンガーにかけられた真っ赤の特攻服!
え? なんでこんなもんがここに。
懐かしの特攻服には背中に【曼珠沙華 初代総長 果梨奈】と下手くそな刺繍がしてあった。
転生したのかどうかは分からないけど、果梨奈先輩は確かにここで生きてて、しかもあたし達の世界の記憶があったにのは間違いない。
王妃なんてものになって息苦しい貴族の暮らしの中で、この部屋は唯一の息抜きの場所だったんだろう。
あたしと皇子は向かい合って炬燵に潜り込み、そこで宮廷料理を食べた。
部屋は狭いわ、食べてるあたし達の場所は低いわ、給仕のメイドがものすごくやりづらそうだった。
「この部屋は母上がこのような部屋に住みたいと仰るので、私が作ったのだ。このような部屋にしてくれなければ離縁していただきます、と何度も王に直訴していてな、王が困り果ててしまってな。一度は王宮の王妃の部屋にこのような支度をさせたのだが、広すぎるとか、もっと狭い、暗い場所でないとダメだとか、母上の我が儘に困り果てた。このような狭い場所はそれこそ倉庫か納屋のような場所しかない。王妃という立ち場であまり人目につくもの、とこうして私の宮の塔に作らせたのだ。ここなら眺めもいいし」
わ、我が儘だなぁ、さすが果梨奈先輩。
さすがのあたしも過去の部屋を再現なんて考えもつかなかった。
そんな事を言い出せる相手もいないしね。
そんな我が儘を許してくれるなんて、国王はいい人だし、果梨奈先輩ここじゃ幸せだったんだろうなぁ。
国王も気の毒にな……果梨奈先輩は美人だったけど、怒るとすげえ怖いんだよね。
でもその怒った顔もすげえ綺麗だった。




