肖像画
あたしはその肖像画をもっと近くで見たくて、立ち上がった。
奥の部屋は皇子のベッドルームで、大きなベッドがきちんとメイクされていた。
かすかにお香のような香りがする。
フカフカの絨毯、綺麗な刺繍のクッション、美しい調度品達。
だけどその肖像画の女性はそれにもまして美しかった。
「それは母の絵だ」
後ろから皇子の声がした。
「ヴィンセント様のお母様?」
「そうだ国王が宮廷画家に描かせた一枚だ。二十年前に病で亡くなった。私は五歳だったよ。すぐにリベルタが乗り込んできて、王妃になりローレンスが生まれた。王妃が母の絵を嫌ったから、国王は城にあった全ての母の肖像画を取り払わなければならなかった。多くは宝物蔵の中だが、これだけは私が気に入っていて、部屋に飾っているんだ」
「そうですか、とても綺麗な方」
あたしはその肖像画の女性に見覚えがあった。
何故、この人がヴィンセント皇子の母親として肖像画の中に残っているんだろう。
この人は二十年も前に亡くなった前王妃様。
でもこの人は……
「母上は元気のいい方でね。王妃らしい所はひとつもなかったよ。元々平民の出で、国王に見初められ、猛反対を押し切って王族に嫁いで来た。それはもう苦労の連続だったと思う。王の側近や文官、武官、貴族達が母を酷く馬鹿にして嫌っていたのは子供心に覚えている。だから私は人一倍学修し、身体を鍛え、武器を習い、馬にも乗った。美術品や宝石の事も学び、外国語も勉強した。母上を馬鹿にされないようにね。王妃の育ちが低いから皇子も使えない、と思われるのだけは嫌だったからね」
「そ、そうでしたか……」
「マリア?」
皇子はあたしの背後から話していたのだけど、あたしの肩を掴んで自分の方へ振り向かせた。
ぼろぼろこぼれる涙を止められない。
「マリア? 何故、泣く? 私に同情しているのか?」
「は、まさか! 全然、皇子の事なんかじゃない、これはあたしの事情で泣いてるだけだから。ほんと、全然皇子には関係ない」
とてもじゃないけど皇子には話せるはずがない。
ヴィセント皇子の母上の前王妃様が、前世でのあたしのレディース時代の果梨奈先輩だなんてさ。




