頭痛
「あの~私、今日はこれでお終いにさせていただいてもよろしいでしょうか」
とあたしは言った。
皇子とミス・アンバーのきゃっきゃうふふを眺めているのはなんだか、胸の奥がもやもやするからだ。
いつもならもう少し勉強してから、昼食になる。
王宮内のコックさんがミス・アンバーと二人分の食事を作ってくれる。
王族専用のコックさんだよ?
そりゃあもう豪華で美味しい食事が運ばれてくるのもここに来る楽しみの一つだった。
「何だか頭痛がしますので」
二人の視線を受け止めかねてあたしはそう言った。
「まあ、それはよろしくありませんわ。お屋敷にお戻りになります? それともどこかお部屋でお休みなりますか?」
「え、いや、お屋敷にお戻りになります。ええ、それはもう、一刻も早く」
もごもごと答えたけど、
「体調が良くないのなら、王宮の方で休ませよう」
とヴィンセント皇子が言った。
婚約が正式に決定してから王宮へは何度も足を運んだ。
王宮ってのは巨大なグリンデル城の中で王族の暮らす場所だ。
国王と王妃の住む棟、ローレンス皇子の住む棟、そしてヴィンセント皇子の住む棟。
ウッドバース侯爵家も結構なお城だけど、さすがに王族の住む王宮は素晴らしく豪華で巨大だ。
なんせ国王の棟から皇子の棟まで走って行っても三十分はかかる。
その気になって真剣に探さなければ、目当ての人物と巡り会えないほど広いのだ。
病人を運ぶ時なんかは、城の中でも馬車が走るほどだとか。
この世界にチャリがあれば大もうけできるに違いない。
そんな事を考えながら、あたしは席を立った。
「いいえ、王宮の方まで行かずとも、すぐに屋敷の方へ帰れば大丈夫ですわ」
毎朝、ウッドバース家の馬車に揺られてここまで勉強をしに来るのだから、馬車はあたしの勉強が終わるまで図書館のすぐ側で日がな一日待っているはずだった。
「ダメだ」
とヴィンセント皇子が言いながら、あたしの身体をひょいっとすくい上げるように抱き上げた。
「え?!」
「私の部屋で休みなさい」
「え? その、大丈夫ですわ。ですから、お離しください」
「ダメだ。私が運ぶ。無理をさせるつもりはないんだ。アンバー。今日はこれまでだ」
皇子がミス・アンバーに振り返りながら言った。
「マリア様、どうぞお大事になさってくださいね。本当にご無理はなさらないで」
とミス・アンバーが本当に心配そうに言ってくれたのでちょっと心の中が痛かった。




