お茶の時間
『レグザム・セイジュ・グリンダ十五世』
と羊皮紙に書く。
二百年前の国王の名前で、なんとか魔女から国を守ったという英雄なんだかどうか微妙な王様だ。
「ミス・アンバー、このレグザム国王ってどんな方だったのかしら? 国を滅ぼされそうになるほど魔女に騙されるなんて」
とあたしの問いにミス・アンバーは、
「レグザム王は賢王と称されたほどの優れた人物ですわ」
と意外な答えを言った。
「は? だったらなんで魔女なんかに? うっかりもいいとこじゃん」
と勢いこんでしゃべってしまって、
「あら、おホホホ」と誤魔化す。
ミス・アンバーはくすっと笑ってから、
「賢王と呼ばわる方を骨抜きにしてしまうほどに魔女が上手だったのでしょう」
と言った。それから分厚い書籍のページをめくり、ある一節を朗読しだした、
『レグザム王は国を大事にし、国民を愛し、常に心は民の元にあった。彼ほどに慈愛に満ちた王は未だかつておらず、彼は正義の心を持ち続けたのだ。かの魔女に会うまでは。魔女はレグザム王の慈愛、優しさ、正義をまぶしく思い己の存在をかけてレグザム王を堕とす事を闇の帝王に誓い、そしてまず国王を愛する事から始めた』
「正義感が強すぎ、愛や優しさを大事にしすぎてしまったというわけ?」
「そうですわね。魔女は正体を隠して王に近づき、まず愛を勝ち取ったわけです。魔女を愛してしまった国王は魔女の正体を見破れなかった。ただ魔女と王の間にはお世継ぎが出来ませんでした。そこを焦った魔女は他の男の子を身ごもって、その子を王の子と偽ったのです」
「ふーん、どこの世界にも性悪な女はいるもんよね。人間同士でも欺し欺されあるのに、相手が魔女じゃあねぇ」
「レグザム王は愛が強すぎました。愛した者を疑うなど到底出来なかったのです。もしや、と思う事があっても、国王はそれを押し殺してしまったのです。魔女への愛ゆえに」
「で、結局、托卵されてりゃ世話ない……あ、あらおホホホ」
ゲフンゲフンと咳をして誤魔化す。
どうもダメだな、素の自分が出ちゃうよ。
「お茶でもお持ちしますわ。少し休憩なさったらいかがでしょう。マリア様は本当に真面目に学んでくださるので私も嬉しゅうございます。ヴィンセント様もさぞかしマリア様を誉れにお思いになられるでしょう」
ミス・アンバーは席を立って勉強室から出て行った。
王立図書館は王宮に隣接した五階建ての立派な建造物だ。古今東西の古書や外国の珍しい本まで収集してある。
ただし滅多に人は来ないとても静かな場所だ。
何代か以前の王の趣味で建てられたけど、どうも本を読むのは少数派らしい。
貴族の娘は本なんか読んで余計な知恵をつける事を好まれず、使うのはもっぱら学者や数学者などの変わり者。
そこで館長補佐なんかやってるミス・アンバーはよっぽどの変わり者。
だけど、真面目で一生懸命教えてくれるミス・アンバーの事はいいやつだと思っている。 あたしのつたない外国語や外交に関するぺらっぺらな浅い考えを叱るでもなく、真面目な態度で教えてくれる。
なんだか委員長みたい。
その、委員長……いや、ミス・アンバーを連れて来たのはヴィンセント皇子だった。
珍しく上機嫌な顔を隠さず、ミス・アンバーを褒めあげてあたしの教育係だと仰ったのだ。
その時のミス・アンバーの上気した頬の具合といい、ヴィンセント皇子を見つめるうっとりとした瞳といい。
ううーん。




